政府とジャーナリストとの協議の場を! 〜冷静さがほしい今後の秘密保護法対策〜

敗北した「感情的」な報道

特定秘密保護法が成立して、熱心に反対運動を展開していたジャーナリスト、識者、一般市民のあいだには、日米安保成立(あるいは自動延長)直後の学生運動のような敗北感や悲壮感が漂っているという。ホントかどうかは知らないが、そういう感情が蔓延しているなら「バカみたい」と思う。特定秘密保護法は、はっきりいってそういう類の問題ではない。もちろん、不安や懸念は残されている。だったら、政令や施行規則の制定、関連法規の改正が始まる来年こそ勝負だと考えて、積極的に行動するのが正しい態度だ。感情的な反対姿勢が今回の敗北の一因だから、今後は具体的な提案をしっかりと掲げ、冷静な運動を展開すべきだ。対立を鮮明にするだけでは何も変わらない。むしろ事態はかえって悪化する。

不可解だった「秘密保護法」めぐる議論

そもそも特定秘密保護法をめぐる動きには不可解な点が多かった。

まずは、安倍政権がなんでこれほどまでに急いだのか、という素朴な疑問がある。あのスピードが「疑惑を深める」結果となったのは否めない。米国の側の要求が強かったといわれるが、それだけでは説明がつきにくい。安倍政権下で「改憲」に筋道をつけたいという思いが強かったとしても、この段階で「疑惑」を深めるのは改憲にとって逆効果だから、改憲とセットで批判するのピントがずれている気がする。ま、数による自民の奢りという見方もあるかもしれないが、改憲に関わるプログラムということであれば、かなりの慎重さが求められる。ヘタをすれば国民から見放されることぐらいは、さすがの自民党もわかっているはずだから、これほどまでに急ぐ理由はやはり不明である。国会運営上の問題なのかもしれないが、ふつうなら継続審議にすることぐらいはできたはずである。新聞には「なぜ急ぐ」という政府の拙速を責めるような見出しばかりで、この点に関する突っこんだ報道がなかったのも不可解だった。

これと関連するが、提案〜審議のスピードに報道のほうが追いついていけなかったという、ジャーナリズムの体たらくも目立った。残念ながら精査吟味して書かれた記事は少なかった。調査や分析が足りないまま反対の論陣を張るから、「感情」に走るほかなくなり、(いつものことといえばそうではあるが)「民主主義を踏みにじる暴挙」「戦前の体制への逆戻り」といった空疎な印象の報道が強かったように思う。ミサイルに対して竹槍で闘っているようなものだ。「精神論」みたいなものではとても勝てない。同じ文脈だが、マスコミが「賛否」のみを問い、「廃案」を要求しているように見えた点も好ましくなかった。「具体的な修正」を提案し、求める姿勢が明らかに足りなかった。

不可解だと思ったのはマスコミ各社の対応だけではない。日本新聞協会や日本民間放送連盟などマスコミ業界団体の対応も問題だった。この法律が表現や報道の自由を規制すると考えるなら、必要なのは「意見書」(新聞協会10/2)や「報道委員長コメント」(放送連盟11/26、12/6)などで反対の意思を公表するだけではなく、両組織が中心になって、独立系のジャーナリストも含めた政府との協議の場を設定すべきだった。あるいは法案の各条項について具体的な修正案を示すべきだった。ジャーナリズムが民主主義を守る装置だ自覚しているなら、「民主主義の危機」を訴えるだけではなく、利害が絡む具体的なポイントについて政府や国会にしっかり訴えることこそ肝要である。「形式的」ともいえる声明だけで事態を変えられると考えていたのだとすれば、その本気度を問われても仕方がない。

国民は「法そのものの必要性」は支持

特定秘密保護法成立後実施された共同通信社の世論調査(12月8日、9日実施の緊急電話世論調査)によれば、特定秘密保護法の今後について、「修正する」が54.1%、「廃止する」が28.2%で、「このまま施行する」は9.4%という結果となった。マスコミ報道では「反対+修正=82.3%」ばかりが強調されるが、注目すべきは「修正+このまま施行=65.5%」という数字である。つまり、国民の約三分の二がこの法の必要性を認めていることになる。今後の焦点は、この法律の不備な点を改善するための具体的な修正案(あるいは今後制定される政令や施行規則への反映)に絞られる。問題はいかに修正を実現していくかだ。

法の適正な運用のためには具体的な提案が不可欠

みんなの党を離党した江田グループは、早速特定秘密保護法に関する議員立法を用意しているらしい。

国民の申し立てにより指定を解除させ、強制的に公開させる権限を持った第三者機関」の設置を盛り込んだ議員立法を、通常国会に提出する方針を提案。会見の場では表向き、当面は議員立法の提出を目指すことで (みんなの党の離党組)十四人が足並みをそろえた。

2013年12月10日付東京新聞
http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/news/CK2013121002000120.html
→リンク切れ

マスコミも識者もこうした動きを、積極的・継続的に支援すべきだ。報道関係団体などが独自の案を出してもいい。いずれにせよ「反対」の意思表明の繰り返しではなく、具体的な案を示していかないと、秘密保護法関連の法令改正、政令・施行規則の制定も国民の不安や懸念を払拭するものにはならない。

あくまでも私案だが、以下に掲げるようなポイントに配慮しながら提案することができれば、秘密保護法は適正に運用されることになると考えている。

  1. 「情報公開の原則」あるいは「情報公開法」との整合性のとれた政令、施行規則などの制定。その他関連法規の整備。たとえば、請求された情報公開に「特定秘密」が含まれる場合の対応。非開示だった場合、これに係わる不服審査手続きの明確化。
  2. 情報公開請求が拒絶された場合の不服申し立てを受理・審査する機関の整備または設置(「第三者機関」が行うのか他に機関を設置するのかそれとも司法が代行するのか)。
  3. いわゆる「第三者機関」の独立性の担保とその権限の明確化のための法整備(附則第9条)。同機関に対する「強制公開」権限の付与。
  4. 「その他の特定秘密を保有する者の管理を害する行為」(第24条)の政令等による明確化。
  5. 上記各項に係わる司法(裁判所)との関係の明確化。たとえば、関連する法的請求権行使の正否の判断や不法行為の発見に係わる司法手続きなど。

こうした提案を迅速かつ効果的に行うために、今からでも遅くはないから、フリーランスも含めたジャーナリストと政府との協議の場をつくり、秘密保護法関連の法令改正、政令・施行規則について、具体的な提案を積極的に行うべきだ。法案成立までに見られた感情的な報道姿勢などでは何も生まれない。野党や市民運動に頼っても十分な成果は得られない。政府だけではなく、マスコミやジャーナリストにもより責任ある姿勢が求められている。法の適正運用のための提案を伴う報道姿勢があれば、 多くの国民が納得し、ジャーナリズムに対する不信感も減ずることだろう。

【参考条文】
第二十四条 外国の利益若しくは自己の不正の利益を図り、又は我が国の安全若しくは国民の生命若しくは身体を害すべき用途に供する目的で、】人を欺き、人に暴行を加え、 若しくは人を脅迫する行為により、又は財物の窃取若しくは損壊、施設への侵入、有線電気通信の傍受、不正アクセス行為(不正アクセス行為の禁止等に関する 法律(平成十一年法律第百二十八号)第二条第四項に規定する不正アクセス行為をいう。)その他の特定秘密を保有する者の管理を害する行為により、特定秘密 を取得した者は、十年以下の懲役に処し、又は情状により十年以下の懲役及び千万円以下の罰金に処する。

附則第九条 政府は、行政機関の長による特定秘密の指定及びその解除に関する基準等が真に安全保障に資するものであるかどうかを独立した公正な立場において検証し、及び 監察することのできる新たな機関の設置その他の特定秘密の指定及びその解除の適正を確保するために必要な方策について検討し、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする。

47news

47 News(共同尾通信社)より転載& 「秘密法修正・廃止を」82% 70%が「不安感じる」 内閣支持10ポイント急落47%

批評.COM  篠原章
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