辺野古埋立の論点整理〜 もういい加減にお金の話をしようよ (1)

Now Let's Talk About Money ; Futenma's Relocation Program to Henoko

【要 約】

先週(6月19日前後)、辺野古埋立に伴う補償金が、名護漁協の組合員に配分された。単純に頭割りすると1人あたり4,138万円。たしかに大金である。こうした報せに接すると「沖縄はやっぱりお金が欲しかったんだ」と沖縄批判を展開する人もいれば、「政府は札束で沖縄の心を買った」と政府批判を展開する人も いる。どちらの批判にも一理あるが、問題の本質を捉えた批判とは言い難い。復帰以来42年。その間につぎこまれた沖縄振興資金は11兆円に上る。が、そのお金が沖縄に何をもたらし、何を失わせたのか、実は誰もわかっていない。沖縄をめぐるお金の問題を真剣に考えた人もほとんどいない。「お金か心か」の選択肢の問題として論じられることはあるが、お金の実態を知らないのに、お金と心を比較すること自体がナンセンスだ。メディアも識者も、お金の問題に無頓着すぎる。沖縄問題を解決する糸口は、お金の問題を正面から見つめ直すことにある、とぼくは思う。「基地依存・補助金依存の沖縄経済」「公務員優位の貧困社会」という沖縄経済社会の実態をクールに捉えることから、やり直そうじゃないか(全2回)。



1人平均4,138万円〜名護漁協への補償金

メディアでは報道されなかったが(『週刊金曜日』を除く)、先週、名護漁協の組合員に防衛省からの漁業補償金が支払われた。辺野古の滑走路建設工事に伴う補償金である。分配額は、辺野古側(太平洋側)の組合員には、工事期間5年間の補償金として1人当たり推定3,500万円、反対側(東シナ海側)の組合員に は同じく2,500万円(『週刊金曜日』の金額は若干異なる)。総額は36億円。防衛省の当初の提案は24億円だったが、漁協側が納得しなかったため当初案の5割=12億円が積み増しされ、最終的に36億円で決着した。

防衛省は積算の根拠を公表していないが、名護市の水産業の年間純生産額は2億4,800万円(平成22年)なので、5年間分は12億4,000万円、切り捨て て12億円とすると、その2倍が24億円。おそらくこれが防衛省からの当初案だ。最終的に5割増しされ36億円になったと考えるのが妥当だろう。名護漁協の正組合員は87人だから、1人当たりの平均受取額は4,138万円。4,138万円という平均額と3,500万円・2,500万円という分配額を対照してみると、いちばん影響の大きい、辺野古漁港を拠点とする組合員には3,500万円以上の補償金が支払われた可能性もある。名護市の水産業従事者は123人(平成 22年)なので、組合員87人との差が36人。この36人が、準組合員としていくらかの補償を受けたのかもしれない。いずれにせよ、ふつうなら手にできない大金が正組合員に支払われたことに変わりはない。

実は今回埋め立てられる海域の一部は、従来から操業制限海域だった。というのも、埋め立てられる辺野古崎一帯は、1956年以降、米海兵隊キャンプ・シュ ワブの敷地内にあり、陸上部分はもちろん、海上部分も沿岸から50メートルまで、漁業者も住民も立ち入ることはできなかった。新聞に埋立予定地の遠景写真しか載らないが、背景にはこうした事情がある。操業制限海域については、一定の損失補償が行われるので、これまでも漁協には相応の補償金が支払われてきた。今回の補償金は、操業制限に対する既存の補償金とは別枠で、埋立工事が漁業資源に与える影響を見越して支払われたものだ。操業制限海域が50メートルから2キロまで拡張されるという報道もあるが、今回の補償金に拡張分の逸失利益が入っているかどうか、現段階ではわからない。追加的な補償金が支払われる可能性もある。

「安保・平和」という観点から辺野古移設に反対する人びとにとって、今や漁業者は「敵」である。辺野古出身の古波蔵廣組合長など、心を忘れて金で動いた裏切り者としてしばしば批判されている。「沖縄県民の総意は辺野古移設反対・県外移設であって、古波蔵と漁協は県民のこの総意を無視した」と非難される。

だが、移設の被害を受けない人びとが、確実に被害を受ける漁業者を非難することができるのだろうか、という疑問はある。

辺野古移設問題の当事者とはいったい誰なのだろうか。以下では、辺野古移設問題の当事者を知るために、問題の根っ子となる部分を整理しておきたい。

なぜ西海岸の漁業者も補償金を受け取れるのか

今回の補償金についていえば、東海岸(辺野古側)3,500万円、西海岸(辺野古の反対側)2,500万円といわれている。埋立による被害がほぼ確実な東海岸 の組合員は当事者なのだから補償金を受け取って当然だが、直接的な被害のない西海岸の組合員が補償金を受け取ることについては批判もある。

が、実はここでいう漁業権は共同漁業権であって漁業者個人の権利ではなく、権利主体は漁協である。名護漁協は、島の東西に広がる名護市沿岸域における共同漁業権を包括的に付与されていることになる。したがって、組合員は名護市沿岸域全般で操業ができることになる。西海岸を母港とする漁業者は東海岸でも操業できるし、東海岸を母港とする漁業者は西海岸でも操業できる。埋立による漁業資源の減少は、漁協の漁業権、つまり両岸の漁業者の権利を侵害することになる。漁業者が、実態として母港の側でのみ操業しているとしても、権利上は等しく扱う必要がある。

一歩進めて考えてみると、埋立によって東海岸側の漁業資源が減少したとき、東海岸側の漁業者は西海岸まで迂回して操業することができる。そうなると、西海岸側の漁業者は東海岸側の漁業者と競合する。このケースでは、西海岸の漁業者も東海岸の側の漁業資源の減少の影響を受けることになる。つまり両岸の漁業者 はともに当事者・被害者になる。ただ、日常的には、両岸の漁業者はおもにそれぞれの母港の側で操業するから、補償金は、東海岸の側に厚く、西海岸の側に薄くという基準をもって配分されたと考えればよい。

名護漁業の内情はわからないが、以上のようなロジックで補償金の配分を観察すれば、西海岸側の組合員による補償金受け取りは問題ないことになる。

辺野古の住民は移設に反対なのか

最大の当事者は辺野古の住民である。住民の賛否はメディアからはなかなか伝わってこない。

名護市辺野古区(「区」は字単位に置かれた行政区)には約1,862人の住民がいる(2014年3月末現在)。名護市の太平洋岸である久志地区(旧久志村)では最大の人口を誇る行政区で、海辺の旧集落と台地上の上集落の二つの集落がある。

辺野古区は戦後まもなく「基地のまち」となった。区の決断として1955年にキャンプ・シュワブを受け入れ、軍用地契約に踏み切っている。米兵の需要を見込んで、翌1956年には商業サービス機能を備えた新しい集落(上集落)が建設された。今は廃墟同然だが、キャンプ・シュワブに在勤する海兵隊相手の「辺野古社交街」(風俗街)も賑わいを見せた。上集落は「アップル・タウン」とも呼ばれるが、これは、集落を造るにあたって尽力した海兵隊のハリー・アップル少佐の名に因んで命名されたものだ。現在も米軍との交流事業は盛んで、大綱挽きや運動会にはキャンプ・シュワブの軍人や家族も参加している。つまり、普天間基地は、基地のないまちに移設されるのではなく、海兵隊のまちとしての歴史を刻んできた、親米感情の強い地域に移設されるのである。この点は、正しく認識しておいたほうがよい。

歴史的な経緯を見ればわかる通り、辺野古の住民の大半は「移設容認派」である。前区長の大城康昌さんは積極的受入派で、2012年には、沖縄県防衛協会会長・國場幸一さん(國場組)に同行して、辺野古への早期移設実現をアメリカまで陳情に行ったこともある。昨年選出(同票抽選)された新区長の嘉陽宗克さんは、区内の移設反対派からも支持されているというが、ご本人は「移設反対」を明確にしたことはない。名護市長選の結果を見るかぎり、名護市全体の民意は 「移設反対」に見えるが、辺野古区に限定すれば、移設容認は多数派である。ここには行政区分のヒエラルキーから生ずる「民主主義」のねじれがある。

辺野古基地は新基地か

普天間基地の代替施設としての辺野古滑走路は、キャンプ・シュワブ内に建設されるもので、辺野古崎周辺の陸上部分50ヘクタールと新たに埋め立てられる 160ヘクタールからなる。一部では「新基地」といわれているが、厳密には新基地ではなくキャンプ・シュワブの拡張である。現行の普天間基地は480ヘク タールなので、埋め立てで増える160ヘクタールと相殺すると320ヘクタールの基地面積が削減されることになるから、面積でいえば沖縄の米軍基地は確実に縮小される。だが、ヘリ基地としての普天間の主機能は辺野古に移転してほぼ温存されるから、「部分的にあらたなる基地被害が生ずる」あるいは「沖縄全体の基地負担は変わらない」として反対派は「県外移設」を求めているのである。

名護漁港

名護漁港

辺野古埋立の論点整理〜 もういい加減にお金の話をしようよ (2) に続く

批評.COM  篠原章
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