アイヌ史に関する教科書の修正

日本文教出版の中学校歴史教科書のアイヌに関する記述に対して、文科省が修正を求めたことが問題になっている。北海道新聞によれば、該当するのは「北海道旧土人保護法」(1899年)についての記述。

原文「狩猟採集中心のアイヌの人々の土地を取り上げて、農業を営むようにすすめました」
修正「狩猟や漁労中心のアイヌの人々に土地をあたえて、農業中心の生活に変えようとしました」

「取り上げて」を「与えて」とすると意味がまるで逆転するが、文科省は、これについて「アイヌ民族を保護するという法律の趣旨に照らすと生徒が誤解する恐れがある」と説明しているという。
調べてみたら法律条文上の趣旨は確かに「保護」だが、実態は、アイヌの土地を収奪したあげくの懐柔策で、彼らに与えられた土地もやせ細った所ばかりだったという。
該当箇所の前後でアイヌの歴史がどのように綴られているか不明なので、文科省の判断が適切かどうか即断はできないが、日本の歴史のなかでアイヌほど悲惨な収奪を繰り返された少数民族が存在しないことは事実だ。沖縄の宮古・八重山諸島、奄美群島に対する琉球王府・薩摩藩の収奪も過酷だったが、アイヌに対する収奪はその比ではない。幸か不幸かアイヌの人々は勇敢だったので、「和人」とのあいだで流血の事態も繰り返されている。教科書で記述するなら、数頁のアイヌ史が必要だと思う。
北海道を中心に全国に散らばる3万人ほどのアイヌの末裔を除けば、アイヌの歴史を知る人はほとんどいない。学校教育のなかでのアイヌ史やアイヌに関する無知や誤解も問題だが、ぼくはむしろオトナたちの無知のほうが問題だと思っている。アイヌに関するオトナたちの無知こそ、真っ先に「修正」する努力が必要ではなかろうか。
アイヌ史については、公益財団法人アイヌ文化研究推進機構(アイヌ文化財団)の編集した「アイヌ民族:歴史と現在~未来を共に生きるために」という優れたテキストがある。1時間程度で読めるアイヌ史なので、ぜひお奨めしたい。

ainu

 

批評.COM  篠原章
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