沖縄の真実(2) 続・「一括交付金」の怪

予算案

平成24年度内閣府沖縄担当部局 予算(案)のポイント

(承前)「基地負担の代償」ではなく、「本土より遅れた経済の振興」を大義名分としている沖縄に対する補助金。この点を理解しながら「一括交付金」の行方について考えなければならない。

 「米国議会、米海兵隊のグアム移転予算を凍結。オバマ大統領も拒否権を発動せず署名する予定」というニュースが配信された12月16日、仲井真知事が藤村官房長官と東京の料亭で極秘に会談していたことが発覚した(毎日放送が報道)。

 沖縄県側は3000億円という金額を要求している が、政府は1000億から1500億というラインを示している。今のところかなりの隔たりがある。仲井真知事のいう3000億円とは、沖縄振興計画に基づ いて支出されている現行の補助金等が総額で2500億円前後だから、これに500億円程度を単純に上乗せした金額であるにすぎない。つまり、3000億円 という金額に合理的な根拠など、おそらくない。そんなことは政府もとっくに承知しているだろうが、ここからは駆け引きである。

 幸いなことに沖縄側にとって追い風である。一川防衛 大臣の無知、田中沖縄防衛局長(退任済)の無定見(琉球新報の仕掛けた「罠」ともいえるが)、そして冒頭に書いた米国議会のグアム移転予算凍結。いいこと づくめである。いずれも日本政府の責任を問うのに絶好の材料だ。沖縄のメディアを見ると、「日本政府の沖縄に対する差別的な体質が露見した」という論調さ えあたりまえになっている。

 が、こんなのは差別でも何でもない。政府にとっての不運もあるが、現在の民主党政権が「無能」であることを示しているだけだ。政府は何も「沖縄を差別」しているわけではない。

 小学生が米兵にレイプされた事件を一川さんは知らな かった。事件の詳細を知らなくても、大臣として普天間基地移設問題には取り組めると思っていたからである。無知は責められても、普天間基地移設問題と直結 しないことは明らかだ。原子炉の構造を知らなくても、原発被災者の救済には取り組める。そういうことなのだ。「沖縄の心」を無視したと責められているが、 沖縄県の議員や幹部職員を集めてテストすれば、事件の詳細を知らない人間もいるに違いない。クビにするしないの問題にまで発展することじゃない。

 田中さんは会費制の酒席でのオフレコ話を記事にする 記者がいるとは思ってもみなかったはずだ。酒席だから女性の話題になり、迂闊にも環境アセスの問題を女性に結びつけてしまったのだ。バカといえばバカだ が、それだけの話である。差別云々という意識など毛頭なかったに違いない。酒のせいかどうかhしらないが、上品に比喩する能力を欠いていたのである。

 沖縄側は「一括交付金」を何としても獲得したいので ある。その“熱意”を政府や政府関係者は軽視していたのだ。「震災復興」「震災・原発の被災地と被災者の救済」が政権にとって最大の課題になっている。い ずれも多額の経費がかかる問題である。財源が限られるなか、隙を突いてなんとか沖縄振興予算を獲得しなければならない。そのためには、なりふり構ってはい られない。「政府の失敗」を待ち望んでいたのである。幸いにも、自衛隊出身の自民党議員(佐藤正久氏)が一川防衛相への国会質問というかたちで“協力”し てくれた。琉球新報の記者も、酒席での話はオフレコという不文律を破ってまで、県庁に“忠義”を尽くしてくれた。待ってましたとばかり、沖縄県は彼らの “協力”を活用し、「差別」という厳しい言葉まで持ち出したのである。この問題に関していえば、沖縄側の対応力(戦術・戦略)や交渉力が政府の力を圧倒し たのである。

 「これでいける」

 仲井真さんはそう確信したに違いない。

 個人的な観測にすぎないが、今後はおそらく以下のように展開するだろう。

○沖縄県の対応(県の立場になって記述)

 海兵隊のグアム移転が暗礁に乗り上げたのは、政府が移設問題に真剣に取り組んでこなかったからである。

 そもそも沖縄(地元)は普天間基地の県外移設を要求 してきたのに、日本政府は「沖縄の心」を無視して事実上「県内移設」を推進してきた。日本政府と違って「沖縄の心」を正しく認識できた米国は、「県内移設 は不可能である」と判断して、普天間基地移設とほぼセットで進められてきたグアム移転が凍結されることになった。これによって普天間基地移設計画も暗礁に 乗り上げた。米側が事態打開のためのオプションとして有力視している嘉手納基地への統合案では、沖縄の負担はまったく軽減されない。辺野古の負担は回避さ れ、普天間の負担が軽減されても、嘉手納町と沖縄市の負担は増すだけである。沖縄全体としての負担はまったく軽減されないから、提案として検討するに価し ない。

 このような事態を招いた責任はことごとく日本政府に ある。田中(元)防衛局長や一川防衛大臣の発言を見ても明らかなとおり、日本政府が「沖縄の心」を軽視し、沖縄を差別してきたことが最大の原因である。当 面、沖縄の負担は軽減されない以上、政府はその責任を認め、直ちに県外に移設先を確保すべきであり、依然として負担にあえぐ沖縄県民に謝罪すべきである。

○(上記の沖縄側見解を受けての)日本政府の対応

 米議会がグアム移転の予算を凍結したからといって、 普天間基地の移設計画も凍結されるわけではない。移設計画は日米両政府の合意に基づいて進められているのであり、移設計画は今後も粛々と進められる。米議 会に凍結された予算も、移設計画を具体化することによって、凍結解除される可能性は高い。

○(上記の政府側見解を受けての)沖縄県の対応

 こうした事態になってもなお県内移設計画を推進する のは、「沖縄の心」を無視した暴挙である。振興計画の実施にもかかわらず、経済的な遅れが今もなお沖縄を苦しめているのも、沖縄の心や沖縄の現状を無視し た日本政府の予算配分に原因がある。ただちに県内移設計画を撤回せよ。同様に、「沖縄の心」や「沖縄の現状」を無視・差別した諸政策もあらため、沖縄を真 に「自立」させる予算配分を「制度的に」実現せよ。

○(上記の沖縄県見解を受けての)日本政府の対応

 辺野古への移設を中止するとなると、国内他地域への 移設が難しい以上、米議会から提案された嘉手納統合案が浮上する。今後は嘉手納統合案とグアム移転を軸に米側と調整する。これによって、沖縄県民の負担 は、結果として軽減されることになるはずであるからしばらく耐えてもらいたい。

 基地負担に対する代償というわけではないが、政府 は、これまでも沖縄振興計画を重視してきた。一括交付金というアイデアも沖縄に配慮したものである。震災復興対策もあり、沖縄の要求通りの3000億円を 認めるのは難しいが、1000億〜1500億円程度の一括交付金は確保するので、この提案を受け入れてもらいたい。

○(上記の政府見解を受けての)沖縄県の対応

 嘉手納統合案には県民が納得しない。なんとしてでも県外移設を実現すべきである。それが無理だというなら、沖縄の心と沖縄の現状を理解し、少しでも県民が納得するような施策を打ち出すべきである。

 一括交付金1000億〜1500億円では沖縄の振興 が困難であることは明らかである。基地があることで失っている経済的損失(機会費用)だけで年間5000億円にも上る。また、基地が返還されれば、年間 9000億円超の経済効果が得られると試算されている。これまで40年間で10兆円の振興予算が組まれてきたが、なお沖縄経済は改善されていない。年平均 2500億円程度の振興予算では効果が得られなかったことは明白で、一括交付金3000億円でも少なすぎる。だが、東北の復興に配慮して沖縄は3000億 円という控えめな金額を要求するにとどめている。これ以下であれば、県民はけっして納得しない。日本政府が沖縄を重視するなら3000億円を認めるべきで ある。3000億円を減額するというのであれば、沖縄経済の振興のため、すべての米軍基地をただちに返還してもらうほかない。

○(上記の沖縄県見解を受けての)政府の対応

 沖縄県の主張もわかるが、震災復興もあり1500億円が限度である。一括交付金を法的に明記し、今後も継続して沖縄の振興に配慮した施策を措置するので、これで納得してもらいたい。

○(上記の政府見解を受けての)沖縄県の対応

 引き続き県外移設を要求するが、政府は米側と協議の 上沖縄県民に配慮した基地変換プログラムをあらためて策定せよ。こうしたプログラムの策定を前提に、今回は1500億円(場合によっては2000億円)の 一括交付金を受け入れる。ただし、減額分が沖縄県民の負担となっていることを理解し、今後の沖縄振興が円滑に進むようなしっかりした法整備を求める。一括 交付金を制度化することは必要条件である。

 以上のやり取りの結果、

1,公務員数とその給与水準の維持

2.公共事業の現状維持または若干の増額

3.借地料の若干の増額

4.その他沖縄優遇策の現状維持

5.以上の4点を担保する予算措置の半恒久的制度化

の5点は確実に実現することになる。

 そして、これによって沖縄の未来は以下のような病巣を抱えることになる。

1.「自立」を大義名分とした沖縄優遇型財源配分の制度化・固定化

2.反基地運動の継続可能な体制の確立(普天間固定化だろうが嘉手納統合案だろうがグアム移設案だろうが、いかなる選択肢が選ばれようが沖縄の負担を主張できる体制は不変)→さらなる補助金要求の圧力として機能

3.所得格差の維持(支配階級の固定化)

4.不要な公共事業による環境破壊と建設土木以外の産業の停滞

5.米軍返還を見越した自衛隊誘致運動の(水面下での)進展

6.自衛隊誘致と表裏一体のものとしての「尖閣危機」の演出

 結果的に日本国民は、福祉・震災復興に加えて沖縄振 興や沖縄を軸とした安保体制の維持のための経費を負担する構造がこれからもつづくことになり、所得格差にあえぐ沖縄の貧困層の経済的・社会的厳しさも一向 に改善されないままに終わってしまう。割を食うのは、国民であり、県民であるといった状態は、このまま恒久化される可能性すらある。

 なお、上記の病巣については、今後このコラムで詳述するつもりである。

批評.COM  篠原章
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