参院選沖縄選挙区総括 – 共産党主導が鮮明になった「オール沖縄」

自民党・公明党の推した現職の沖縄担当大臣・島尻安伊子候補が、翁長雄志知事系保守派、共産党、社民党などの推した元宜野湾市長・伊波洋一候補に10万票の大差で敗れました(金城竜郎候補は幸福実現党)。

金城竜郎    9,937(1.60%)
島尻安伊子  249,955(40.60%)
伊波洋一   356,355(57.80%)
合   計    616,247
※当日有権者数:1,150,806人 投票率54.46%

島尻候補の敗因については、

  1. 島尻候補が辺野古移設問題を避けたことで争点がぼけた。
  2. 内地からやってきた「嫁」である島尻候補を有権者が好まなかった。
  3. 直前に起きた米軍属・シンザト容疑者による殺人事件が投票に影響した。
  4. 沖縄のメディアが、約1年前から島尻候補に対するネガティブキャンペーンを張っていた。

などといったことが指摘されています。いずれも何らかのかたちで投票行動に影響したことは間違いありません。

しかしながら、上記の得票分布は、2014年11月の沖縄県知事選に酷似しています。

翁長雄志  360,820(51.70%)
仲井眞弘多 261,076(37.30%)
下地幹郎   69,447(9.90%)
喜納昌吉    7,821(1.10%)
合  計  699,164
※当日有権者数:1,098,337人 投票率:64.13%

これらの得票を比較する限り、知事選のときに翁長候補に投票した人は伊波候補に投票し、仲井眞候補に投票した人は島尻候補に投票したと考えることもできますが、この分析が適切か否かわかりません。そこで、6年前(2010年)の参院選の結果を見てみることにしましょう。

金城竜郎   10,832(2.00%)
島尻安伊子 258,946(47.60%)
山城博治  215,690(39.70%)
伊集唯行   58,262(10.70%)
合   計 543,730
※当日有権者数:1,073,963人 投票率:52.44%

この選挙では、島尻候補は今回より約1万票多い得票で当選しています。「オール沖縄」が生まれる前のことで、山城候補が社民党、伊集候補が共産党の推薦を受けています。山城・伊集両候補の得票を足すと27万票余りとなり、島尻候補を凌ぎます。自民党・公明党以外が結束すれば、この時点で島尻候補を下すことは可能だったと思われます。島尻候補は、2007年4月の参院補欠選挙で初当選しましたが、そのときの得票も255,862票。つまり、島尻候補に投票する有権者はつねに25万人前後なのです。毎回ほぼ同じ有権者が島尻候補に投票しているとみてまず間違いないでしょう。「翁長VS仲井眞」の知事選の時に仲井眞候補を支持した26万票も、島尻候補を支持した票に重なるという推定もおそらく成り立つと思われます。

沖縄参院選比例区得票推移

比例区の政党別得票を見ると、自民16万票、公明8.7万票を始め辺野古移設容認の立場に立つ全政党(民進党は除く)の得票は31万票です。過去の参院選挙でいえば、この数字は最大37万票に達しています。これら比例区の政党別得票を万遍なく獲得することができれば、島尻候補も仲井眞候補も当選したでしょうが、結果的に6万票から10万票近くを取りこぼしていることになります。「島尻候補も移設反対を唱えればもっと得票できたはずだ」という意見もあるようですが、前回の選挙の折、島尻候補は「県内移設反対」(県外移設)を唱えながら得票は25〜26万票に留まっています。したがって、「移設反対」「県外移設」といった主張が有効な戦術になるかどうかは微妙なところです。

今回島尻候補が支援を広げられなかった背景に、上記(1)から(4)などの要因があったことは確かでしょう。加えて、投票率が前回よりわずかながらアップし、18歳、19歳にまで選挙権が拡大したことによる有権者増も、島尻候補にとってはマイナスに働いたといえるでしょう。ただ、シンザト事件の逆風の中、従来獲得した票をあまり減らすことはなかったという意味では「善戦」といえるかもしれません。

では、反翁長派は、仲井眞候補26万票、島尻候補25万票という「25、6万票の壁」を、今後も突き崩せないのでしょうか。比例区の得票状況を見ると、「そうでもない」という印象を得ることはできます。先にも触れましたが、2010年以降の参院選比例区における得票率を見ると、一貫して「辺野古移設容認」政党の得票が、「辺野古移設反対」政党への得票を上回っています。今回の選挙で、民進党本部の「辺野古移設が基本」に反して、民進党県連が本格的に翁長陣営(「オール沖縄」)に与したため、容認と反対の得票率の差は縮まりましたが、それでも8ポイントほど「容認」党派の得票率が上回っています。比例区での投票行動と選挙区での投票行動の矛盾の解明は今後の課題ですが、「25、6万票の壁」を突き崩すためには、自民党県連の戦術の徹底的な見直しが必要でしょう。従来のやり方を続けても「オール沖縄」に敗北を喫するだけです。同じことですが、いわゆる「無党派層」の票の掘り起こしについては、絶えざる努力と入念な準備が求められます。

今回の選挙で明らかになった最も重要なことは「共産党の躍進」です。比例区の得票を見ると、2010年=3万6千票(6.8%)、2013年=5万1千票(9.4%)、2016年=9万票(15.6%)と6年間で5万4千票も得票が増え、得票率もうなぎ登りです。今や公明党を抜き、自民党に次ぐ得票率第2位を誇ります。全国的に見ても共産党は躍進していますが、沖縄での躍進はとくに顕著です。これに対して「オール沖縄」の中軸だった社民党は、12万票(22.7%)→10万7千票(19.6%)→7万票(12.1%)と大幅に退潮しています。得票だけに限っていえば、共産党は社民党を逆転し、「オール沖縄」を支える最大の政党ということになります。「オール沖縄」の一翼を担う沖縄の民進党もそこそこの得票を集めていますが、時系列で見るとその得票は移ろいやすく、県内の基盤もきわめて脆弱です。したがって、今や翁長知事を支える「屋台骨」は事実上共産党です。さらに、社民党系の活動家が長いあいだ握ってきた辺野古ゲート前闘争の主導権が共産党に奪われるのも、もはや時間の問題といってよいでしょう。

2014年の知事選に出馬するまで、翁長氏は「辺野古移設反対」さえ主張すれば選挙に勝てるという戦術上の問題として、辺野古移設問題を捉えていたと思います。反基地感情や基地反対運動を取り込んだ選挙運動をすることが第一の目的だったはずです。自らの政治的経験を持ってすれば、社民党や共産党もコントロールできるとも考えていたのでしょう。ところが、今や翁長氏の政治的基盤は、共産党抜きでは考えられません。今後は、今まで以上に共産党に譲歩し、今まで以上に共産党を尊重せざるをえないでしょう。「ミイラ取りがミイラになる」とはまさにこのことです。共産党に支えられる一方で、金秀グループ、かりゆしグループといった企業グループや一部の医療法人に支えられる翁長知事ですが、共産党の利害と翁長氏を支援する企業や法人の利害が対立したとき、どのようにふるまうことになるのでしょうか。保守政界や経済界から見放された「元」保守政治家の綱渡りはまだまだ続きます。

批評.COM  篠原章
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