菅官房長官が憤慨して明らかにした翁長沖縄県知事の「二枚舌」

政府は、仲井眞弘多前沖縄県知事が認めた辺野古埋め立て承認を、翁長雄志現知事が取り消した件に対する国の是正の指示に翁長知事が応じないのは違法として、22日に福岡高裁那覇支部に対して「不作為」(国の指示に従わないこと)の違法確認訴訟を起こすことを決め、前日の21日午前、首相官邸で開かれた政府・沖縄県協議会の席で菅義偉官房長官が翁長知事にその旨伝えました。これは、3月4日に福岡高裁那覇支部が勧告し、政府と沖縄県が受け入れた「暫定和解案」に定められた手順どおりの訴訟提起です。この和解案では、国と県は協議を進めながら、訴訟による決着も模索することになっています。地方自治法には訴訟を起こすにあたり「期限」も定められていますから、国の手順の進め方はけっして拙速とはいえません。

ところが、会合の後、翁長知事は記者団の質問に答え、「(国地方)係争委の結果を重く受け止め、首相らには真摯な協議を求めていた。法の規定で訴え可能な日を待っていたかのように提訴の判断が示されたことは非常に残念だ」と政府の対応を厳しく批判し、「協議が先かと思った。明日提起するのは係争委の考え方にもそぐわないものではないか」とも発言しています。

また、同日午後に内閣府で開かれた沖縄振興審議会後、沖縄防衛局が同日早朝に米軍北部訓練場のヘリパッド建設工事を再開したことに関する所感を記者団から問われ、「県民に大きな衝撃と不安を与えるものであり、誠に残念だ」「県民は長年にわたり過重な基地負担に耐えながら日米安保体制に尽くしてきているにもかかわらず、強行に工事に着手する政府の姿勢は到底容認できるものではない」「沖縄の米軍基地問題についての国の強硬な態度は異常とも言える」と強く批判しています(以上、翁長知事の発言内容は22日付けの琉球新報、沖縄タイムス両紙に拠る)。

これらの発言を読むかぎり、国が沖縄県に相談もなく訴訟を提起し、(沖縄県東村での)ヘリパッドの工事を再開したように見えますが、事実は必ずしも翁長知事の発言通りではないようです。

まず、7月21日の政府・沖縄県境議会を終えた菅官房長官は、同日午後の記者会見において「普天間飛行場負担軽減推進会議及び政府・沖縄県協議会について」と題する文書を読み上げ、首相官邸のホームページにも掲載しています。

私(官房長官)からは、沖縄県が訴訟を提起しないのであれば、政府として司法判断を仰ぐ手続と協議の手続を並行して迅速に進めていくという和解条項の趣旨に照らし、明日、地方自治法に基づき、不作為の違法確認訴訟を提起する旨を伝えました。また、私(官房長官)から、国のこのような対応に関して、和解条項は有効であること、確定判決には従うこと、更に政府と沖縄県との協議については、引き続き、継続すること、このことについて知事に確認をいたしました。知事からは、異存がないとの発言がありました。いずれにしろ政府としては、引き続き、和解条項に従い、訴訟と協議の手続を並行して進めるなど、誠実に対応していきたい、このように考えております。(以上抜粋)

http://www.kantei.go.jp/jp/tyoukanpress/201607/21_p.html

さらに、7月22日午後に行われた記者会見で、普段は冷静な菅義偉官房長官が語気を強めて、次のように発言しています。

私から言わせれば、翁長知事がマスコミの皆さんの前で、(不作為に関する訴訟提起について)そのような発言をすることは、きわめて残念であり、昨日の沖縄県と国との協議会とは全く違うというふうに思っています。

(ヘリパッドの建設について)私は知事から「反対をする」という言葉を聞いたことがありません。

 

翁長知事は、「国は県との協議に真摯に向き合わない」「国は県を軽視している」といった趣旨の発言を繰り返していますが、菅官房長官の発言を見るかぎり、裁判所の和解案を軽視し、協議会での協議内容・合意内容と異なる発言をして平然としているのは知事の側です。政府との協議会では政府におもねり、沖縄二紙を前にした会見では沖縄二紙におもねっているとしか思えない姿勢です。こういう姿勢を「二枚舌」というのですが、翁長知事はそのことを自覚しているのでしょうか?

以下、菅官房長官の記者会見(7月22日)のうち、沖縄に関する部分を抜粋して掲載します。

 

平成28年7月22日(金)午後
内閣官房長官記者会見
http://www.kantei.go.jp/jp/tyoukanpress/201607/22_p.html

東京新聞のイクシマです。
北部訓練場の関係でお伺いします。
今回のヘリパッドの建設に関して、長官は「地元の村長が返還を要望している」と。返還されれば大幅な負担軽減になるというお話をされているんですけれども、沖縄県議会はヘリパッド建設の中止を求める意見書を賛成多数で可決してます。その中では、オスプレイの訓練が急増し、周辺住民に騒音被害をもたらしているという指摘もあります。
また昨年ですけれども、地元の東村の方でも先行して共用開始をしてN4地区のヘリパッドについては抗議する意見書を可決しているんですけれども、こうした声については政府としてはどのように受け止めていらっしゃるのでしょうか。

菅義偉内閣官房長官
まずですね、北部訓練場におけるヘリコプタ着陸帯の移設にむけて必要な準備が整ったことから今回工事の再開をいたしました。
この変換については、平成8年のSACOの最終報告において、この北部訓練場の過半、約4000haを返還することとなっております。
その中で地元の国頭村や東村、返還跡地の有効活用策として、国立公園の指定だとか或いは世界遺産への登録を目指しており、早期返還を要望していることも事実だと思っています。
そしてこれが返還をされれば、沖縄県の米軍基地の約2割が減少し、沖縄の負担軽減に大きく貢献すると思っています。
政府としては移設工事を着実に進めて、一日も早い北部訓練場の過半の返還に向けて全力で取り組んで行く覚悟でありますし、沖縄県をはじめとして地元の方々には是非協力してほしいというふうに思います。
また、沖縄県への説明でありますけれども、昨年8月の集中協議の際に私から翁長知事に対して、北部訓練場の過半の返還に向けた協力を要請しています。更に本年の、政府・沖縄県協議会、更には防衛大臣による直接要請や公文書によるやり取りを行うなど、類似の機会に移設工事について説明をするとともにですね、この訓練場の出入口になっているのが県道ですから、その県道に違法に放置された車両、これの物件の是正について沖縄県に協力を要請してきました。
そして沖縄県の方では、違反車両に対して警告書を貼り付ける等の協力をしてくれて来ているということも、これも事実であります。
そういう中にあってですね、今日この工事に着工したということであります。
そして、この東村の高江地区について反対決議をされたということも承知していますけれども、現時点までには高江区のみなさんからのご理解を頂いていると、このように理解をいたしております。

(東京新聞 イクシマ記者)
関連ですけれども、今日、工事を再開したわけですが、これは完成までどれくらいの時間を見込んでいるのでしょうか。

菅義偉官房長官
いつ完成するかという事については、予断を持ってコメントすることは控えたいと思います。
いずれにしろ今日着工したばかりでありますので、移設工事を着実に進めて、一日も早い北部訓練場の4000haの返還に向けて全力で取り組んで、県をはじめ地元のみなさんにも是非ご協力いただいて、基地負担軽減にしっしたい、このように思います。

(東京新聞 イクシマ記者)
最後に関連なんですけれども、在沖海兵隊トップのニコルソン中将がロイター通信へ先月のインタビューでですね、「来年初頭に北部訓練場の一部返還する用意がある」という発言をしているんですけれども、今、「完成時期については予断を持ってコメントは控えたい」ということなんですが、こうしたスケジュール感は日本としても政府としても共有されているのでしょうか。

菅義偉官房長官
あの、工事着工をしたわけですから、出来るだけ早い時期に完成をするというのは当然のことだと思います。
ただ(今は)、着工したばかりでありますので、「いつになるか」ということについては、予断を許さないというように思います。

読売新聞のカイヤです。
政府が本日行った沖縄県の翁長知事を相手どった違法確認訴訟の件でお伺いします。
この訴訟を提起されたことに関しまして、翁長知事が本日記者団に対して「国土交通大臣に、法廷闘争によることなく真摯な話し合いを求めていただけに、直ちに提訴に至ったことは残念だ」と発言されていますが、これに関してはどう受け止めていますか。

菅義偉官房長官
私から言わせれば、翁長知事がマスコミの皆さんの前で、そのような発言をすることは、きわめて残念であり、昨日の沖縄県と国との協議会とは全く違うというふうに思っています。
申し上げますと、昨日の協議会では、私から翁長知事に対して「和解条項に基づいて訴訟を提起する意思があるかどうか」を確認しました。
で、沖縄県としては「是正の指示取消訴訟を提起する考えはない」ということでありました。
そこで私から「県が訴訟を提起しないのであれば、政府としては和解協議の司法判断と協議の手続きを並行して迅速に進めて行くというのがまさに和解条項の趣旨でありますから、それに照らし合わせて地方自治法に基づいて不作為の違法確認訴訟を提起する」旨、これを知事に申し上げました。
また、私から知事に対して、「国のこのような対応に関して、和解条項は有効であること、確定判決には従う事、政府と沖縄との協議については引き続き継続すること」を確認もいたしました。
その席でも、知事からは「異存がない」ということでありました。
そういう中で、政府としては不作為の違法確認訴訟を提起したところでありまして、知事からはご指摘のような発言や、政府に対する批判というのは、全くありませんでした。
政府としては引き続いて、和解条項に従って、訴訟と協議の手続きを並行に進めて行く、そこは誠実に対応していきたいと思ってます。

読売新聞のカイヤです。
実際に和解条項では、司法判断を迅速に得るように双方が協力するといったことと同時に、協議を並行して行うという事が明記してあるわけですけれども、現状は翁長知事がそうした方針でなく、法廷闘争を望まないといった発言を対外的に繰り返していることは、どういった要因があると思われますか。

菅義偉官房長官
和解条項そのものがですね、訴訟と協議を並行して進めて行くということが、和解条項の中に明確に謳っているわけですから、それに基づいて政府も、沖縄県側の和解条項に、…乗ったというんですかね、賛同して私どもが和解、これの工事をいったん中止するわけですから、それについて、和解について政府が乗るという事は、それはさまざまな大事な判断が必要でありましたので、そこについても、和解条項の内容に基づいて、政府は和解に乗ったわけでありますから、その内容については「訴訟と協議」これを同時並行に進めていくと、そして訴訟についても速やかに行うという事も和解条項の中にしっかりと謳っております。
で、判断が出たら、その主文に従って双方とも行動するようにということもしっかりと謳われているわけですから、和解条項に基づいて政府としては対応していることであって、全くその「強行だ」ということについては違和感を感じますし、昨日の会合については先ほども申し上げましたけれど、本人が全て同意していますから。
そのように思います。

東京新聞のイクシマです。
今の件で一点だけ確認させて頂きたいのですけれども。
昨日の会見では、4点の確認事項に対して翁長知事から「異存がない」という発言があったというお話があったと思うんですけれども、先ほどの答弁だと「異存がない」ということで、細かい点で恐縮なんですが、そこはどういうような発言があったのでしょうか。

菅義偉官房長官
ひとつひとつ私は確認をしました。「これでいいですか?」「これでいいですか?」と。4点について。
それについて知事は「(異存は)まったくない」ということだったんですね。

共同通信のオオサワです。
関連しまして、翁長知事は、先日鹿児島県の馬毛島を視察する等していましたけれども、政府として辺野古以外を考えるというのは、もう今後一切ないということなんでしょうか。

菅義偉官房長官
これについては、「辺野古が唯一の解決策である」と、ここについては何回となく申し上げてきたところであります。
まさに、普天間飛行場の危険除去、そして固定化を避ける、そういう中において、まさに安全保障環境が極めて厳しい中にあって抑止力を考えたときにですね、それは、辺野古移設というのは唯一の解決策であります。
そしてその経緯からしてもですね、沖縄県と、そして地元の市長が同意したわけですから。
それに基づいて、国が辺野古への移設を検討したわけでありますから、そこについては丁寧に地元の皆さんに説明をさせて頂きながら、進めていきたいというように思います。

共同通信のオオサワです。
関連しまして今日午前の会見で、「最高裁の確定判決が出るのが早い方が望ましい」ということをおっしゃってましたけれども、その、判決が確定すれば辺野古の工事についてはもう間をおかずに再開するというお考えなのでしょうか。

菅義偉官房長官
それはこれから先の話ですけれども。
いずれにしても裁判の判決が、政府とすれば辺野古で現職の知事から埋立承認を頂いているわけですから、それについて、今一旦中断をしているわけでありますので、それは判決が出たら出来るだけ速やかに続行したいというのが当然のことじゃないでしょうか。

(共同通信のオオサワさん)
ちょっと話題が戻るんですけれども、ヘリパッドの建設に関して、翁長知事は「県民に十分な説明を果たす等、適切な措置を講じるべきだ」と「強く抗議する」と述べているんですけれども、これについて、改めてこの発言に対する受け止めをお願いします。

菅義偉官房長官
私は知事から「反対をする」という言葉を聞いたことがありません。
先ほど申し上げましたけれども、県は違法車両に対して警告書を貼り付ける協力していることも事実です。

批評.COM  篠原章
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