「トランプ大統領」誕生は沖縄の基地負担を軽減する!

大統領選有力2候補による注目の第1回TV討論会が終わりました(日本時間9月27日)。クリントン、トランプ両候補とも「決定的な勝機」をつかむことはできませんでした。いってみれば引き分けです。あまり新味のない討論でしたが、両候補の特長はよくでていたと思います。余裕を持って「実績」を強調するクリントンに対して、クリントンの失策を激しく責め立て「強いアメリカの再興」を主張するトランプ。が、両者とも最後まで決定打は出ませんでした。

討論の機会はもう2回ありますが、よほどの失言を繰り返さない限り、トランプが浮上する可能性のほうが高いと読んでいます。そうなれば、日本では、憲法改正、安保法制とその財政的枠組みの見直しが加速されることになるでしょう。憲法改正を掲げる一方、日米同盟の安定と強化を掲げる安倍政権にとっては痛し痒しといったところですが、憲法改正を軸として、在日米軍基地のあり方の見直し(とくに経費)と自衛隊の強化がセットで進められることになります。トランプが勝利しないとしても、米国でこれだけ問題になったのですから、日米同盟下の「経費負担割合」については、今後確実に見直しが進められることでしょう。

しかしながら、「経費負担割合の見直し」が、そっくりそのまま日本側の財政負担増にはならないということを、私たちは知っておくべきだと思います。現状の米軍駐留経費は大幅に削減できるのです。

在日米軍の(表向きの)駐留経費は年間約112億ドル(2016年)。本日のレート100円で計算すれば1兆1200億円です。うち日本側が57億ドル(5700億円)、米国側が55億ドル(5500億円)の負担です。日本のほうの負担割合が若干上回っています。この負担割合はすでに15年以上続いています。

トランプの頭のなかにある数字には、アジア太平洋に展開する4万人程度の米軍人件費のかなりの部分もしっかりカウントされていると思いますから(おそらくそれは2兆円を超えるでしょう)、これだけでは済まない可能性もありますが、「米軍駐留経費」といえばとりあえず上記の金額1兆1200億円となります。米国側が駐留経費を全額負担せよと言いだした場合、日本側はあらたに5500億円を負担しなければならないことになります。

が、この1兆1200億の経費はほんとうに必要なものなのか?というところから考える必要があると思います。このうち約3割から4割は「軍属経費」です。家族まで含めて少なくとも2万人程度はいる軍属の日本における生活を維持するための経費です。そのなかには住宅費、教育費、厚生費、(赴任・帰任の際の)交通費などが含まれます。ここで、その割合を少なめに見積もって3割と想定すると、軍属関係経費は3360億円となります。が、この経費は米軍駐留にとって必須の経費ではありません。そもそも軍属は不要なのです。軍属の仕事は軍人が肩代わりできますし、多くの仕事が米軍の軍事力とは無関係です。つまり、3360億円は確実に削減できるということです。

さらに3000億円を超える沖縄振興予算についても、予算の使途などを再検討すれば、最低でも2000億円程度までは削減できると思います。つまり1000億円を節約できるということです。酒税などの税制上の優遇措置や農業補助金の撤廃も実施すれば、削減額は1500億円程度まで広げられると思います。先の3360億と合算すると約5000億円の削減効果があります。

つまり、あらたに発生すると思われる5500億円の負担の大半は、現在「固定費」と思われている部分に手をつけることによって、難なく吸収できてしまうのです。日本側の負担を大きく増やすことなく、米軍基地の機能はほぼ維持できるのです。しかも、主として米軍属が使用する米軍施設もすべて不要になりますから、基地の返還面積をさらに増やすこともできます。

ただし、国境防衛(島嶼防衛)などを考えると、沖縄本島や先島諸島に展開する自衛隊の戦力は今後増強する必要が出てくると思いますから、その分の予算増は必要かもしれません。が、直接的な米軍駐留経費については、上記の計算でほぼ賄えるのです。

したがって、少なくとも財政的な観点から見るかぎり、トランプ当選や米軍駐留経費の負担増は「恐るるに足らず」ということになります。いや、節約のチャンスを与えてくれたという意味で、むしろ歓迎すべきことかもしれません。

が、国内政治的にはあらたな難題が発生するでしょう。憲法改正、平和安保法制の改訂、沖縄振興関連諸法の改正などが必要となるからです。現行の「平和憲法」に拘りを持つ人たちの非難はいっそう強まるかもしれません。振興予算を削減することになれば、沖縄からさらに激しい反発が出てくる恐れもあります。

とはいえ、「軍属の削減」は政治的にも高く評価すべきです。沖縄県知事や地元マスコミが「諸悪の根源」と決めつける軍属がいなくなるのですから、沖縄県民の「脅威」は大幅に縮小されます。SACO合意・米軍再編で、駐留米軍の人員も大幅に減ることになっていますから、それとあわせれば、米軍基地に対する負担感は大幅に縮小するはずです。改憲問題・防衛問題・安保問題は、沖縄とは別の枠組みでしっかりやればいいでしょう。

「トランプ大統領」誕生は、上記のようなプロセスを大きく加速することになりますから、沖縄にとってはむしろプラスです。県庁壁面に「歓迎・トランプ大統領誕生」という垂れ幕を掲げる準備さえ必要かもしれません。

批評.COM  篠原章
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Pocket