沖縄を騙しているのは佐藤優さんだ

一昨日のこの欄で「佐藤優さんの沖縄論は先が見えない(1) (2)」と書いた。佐藤さんが「日本の沖縄に対する構造的差別」を問題視し、「米軍基地の県外移設」と主張しているのに、「じゃ、どうすればいいの?」という問いに答える見解が見つからなかったからだ。少なくとも手元にある本、雑誌、新聞記事などからは類推もむずかしかった。

だが、佐藤優さんは日本民族主義者である。エリート主導の国家建設を主張してやまない強面の論者である。「東北のこころ」や「広島のこころ」には触れないが、「沖縄のこころ」にはやたらとものわかりのいい右翼である。一方で、いまだに「元外務相主任分析官」という肩書きを使うほど外務省での経歴に強い未練がある元公務員だ。右翼である以上、「自衛隊」の再編増強は考えているにちがいないが、元外務省職員である以上、日米同盟基軸という現実的な安保論からも踏みはずさないだろう。そう考えてもう一度ウェブを検索してみた。検索用語は「佐藤優・県外移設・日米同盟・自衛隊」。

見事に予測は当たった。 雑誌『GQ』のウェブ版、2012年の年頭対談「スペシャル討論:2012年、世界の鍵を握るのは誰か?【4】」に佐藤優さんの「その先の沖縄論」が掲載されていたのだ。対談相手は元NHKの手嶋龍一さん。

手嶋 沖縄の現状を見ると、海兵隊の辺野古移転(※ 21)はあきらめかけている。おそらくグアムに主力を移し、あとは周辺の米軍基地に分散でしょう。直接オーストラリアに移駐するわけではありませんが、彼 の地に重要拠点をつくる。つまり、「新オレンジプラン」では日本列島はバイパスされる怖れがある。オーストラリア問題の考察を通じて、日米同盟の現状にもっと危機感を抱くべきでしょう。

佐藤 同感です。

http://gqjapan.jp/more/business/20120125/keyplayers4
スペシャル討論:2012年、世界の鍵を握るのは誰か?【4】──手嶋龍一×佐藤 優 より

が、これだけでは佐藤優さんの主張は具体的に見えてこない。よく見ると手嶋発言に註がついている。※21だ。

※21 海兵隊の辺野古移転 周囲に住宅などが密集する、沖縄県宜野湾市のアメリカ海兵隊普天間飛行場は、「世界一危険な基地」とも言われる。95年の米兵による少女暴行事件などを契機に返還要求が高まり、 97年には名護市辺野古への移転で日米政府が合意した。09年、政権交代により発足した鳩山政権は「県外、国外」への移設を打ち出すが、10年5月にはやはり辺野古を移転先とする日米共同宣言を発表。しかし、地元沖縄は「県外移設」を強く要求している。これだけ沖縄が反対している以上、辺野古への移転は不可能なのだから、正直にできないものはできないと言ったほうがいい、と手嶋、佐藤。解決策として、海兵隊は主力がグアムに移転。その分を補うため自衛隊を 増強する。これに地元沖縄の人を採用すれば雇用対策にもなる、と佐藤。オーストラリアのダーウィンに駐留する米軍基地の建設資金と技術を提供するのはどうか、とは手嶋の提案。

http://gqjapan.jp/more/business/20120125/keyplayers4
スペシャル討論:2012年、世界の鍵を握るのは誰か?【4】──手嶋龍一×佐藤 優 より)

対談本文に佐藤優発言がきちんと出てこないのは、なんだか作為的な気もするが、本文とこの註からわかる佐藤優さんの主張は、「日米(豪)基軸の安保体制」を重視しながら、1.沖縄の海兵隊のグアム移駐 2.沖縄に配備される自衛隊の増強 という手法で基地問題を決着させようと考えていることがわかる。

沖縄の海兵隊のグアム移駐」と いう方針はすでに既定のものだ。目下、米議会が障害にはなっているが、従来からの米軍再編計画に沿った移駐計画で、遅かれ早かれ実現されることになるだろう。したがって、これは佐藤優さんの見解というより、米軍の方針に沿った主張だ。普天間の海兵隊自身は、辺野古移設がベストだと考えているだろうが、アメリカの世界戦略は太平洋全体を見据えていて、これまで米軍が配備されていなかったオーストラリアも重視し始めた。したがって、米側の都合で辺野古移設計画は白紙に戻る可能性は強まっている。そうした米側の変化を佐藤優さんが敏感に感じ取った上での見解にすぎない。

考えなければならないのは「沖縄に配備される自衛隊の増強」という佐藤優さんの主張である。尖閣危機、北朝鮮情勢の変化などで、すでに宮古・八重山では、自衛隊誘致活動が本格化している。石垣市内を歩けば、「尖閣はわが国固有の領土」といった垂れ幕もあちこちに掛かっている。沖縄県の将来計画である「沖縄21世紀ビジョン~みんなで創る みんなの美ら島 未来のおきなわ~」(平成22年3月)でも、「 国土・海域の保全、近隣アジア地域との友好関係、外交・安全保障など我が国の国益にとって重要な有人国境離島に対する定住・地域振興への支援の強化、教育・防災等の充実、国際海上ネットワーク等の整備、国際交流の振興など支援拡充に取り組む」という目標が設定されている。注目すべきは「国益」という表現 だ。こうした表現はこれまでの沖縄の将来計画には見あたらなかった。その意図は「米軍基地が削減・縮小されても、日本の安全保障上、沖縄はなお重要な位置づけにある」ことを強調するところにあると思われる。おそらく仲井真知事とそのブレーンは、米軍基地縮小後を睨んだ「自衛隊による米軍の代替」を想定して、将来計画に「国益」と書き込んでいるにちがいない。佐藤優さんの見解は、これらの考え方と同一線上にある。

先にも書いたように、佐藤優さんが「沖縄における自衛隊の増強」を主張すること自体は、まったく自然なことだ。反論や反発はあちこちからあるだろうが、ご自分の外交と安全保障の理念を開陳しながら、「沖縄における自衛隊を増強せよ」と堂々と発言すればいい。

ところが、佐藤優さんが「沖縄における自衛隊増強」と発言したことは、これまでほとんどないはずだ。沖縄についての彼の発言は山ほどあるが、どれもこれも「米軍基地が沖縄に偏在している現状は日本の沖縄に対する構造的差別だ」「普天間基地の辺野古移転はありえない。県外移設せよ」という論点にのみ集約される。沖縄に関する発言では、けっして「自衛隊増強」とはいわないのである。ぼくがようやく発見した「自衛隊増強論」も、東京で発行され、おもに本土の大都市に住む人間が読む『GQ』に掲載されたものだ。しかも、沖縄問題でなく外交や安全保障の問題として「沖縄の自衛隊増強」を語っている。それも驚くほど小声だ。なにしろ「註」にしかその本音は出てこないのだから、うっかりすれば見逃してしまう。この 『GQ』の対談がなければ、そして註の記載がなければ、ぼくも佐藤優さんの自衛隊増強論に気づくことはなかった。

どう考えてもこれはおかしい。 佐藤優さんは「沖縄の自衛隊増強」という本音を隠している。なぜ本音を隠す必要があるのか。沖縄には自衛隊による米軍の代替や自衛隊増強を主張する人たちは少なからずいる。仲井真知事もおそらくそれに近い考えを持っている。「自衛隊が来れば雇用や所得も生まれる」と主張すれば、支持する人たちも生まれるはずだ。そうした勢力と共闘すれば、大きな世論を形成することも可能だ。だが、佐藤優さんはそうしない。本音を隠しつづけながら、「沖縄のこころ」や「日本の沖縄差別」を語っている。

これは佐藤優さん一流の権謀術策だ。そうとしか考えられない。実母が久米島出身であるということをアピールしながら、彼は沖縄について発言し始めた。「自分には沖縄人の血が流れているから差別される側だ」と強調した。「沖縄人と同胞だ」とまで言い切った。そして、自分で造りあげたその立場から、東京で活動する「政治エリート」(政治家)の無知を非難し、守屋昌武元防衛次官防衛次官やその影響下にある防衛官僚などを「沖縄通」と鋭く批判した。佐藤優さんは、日米同盟の中における日本の役割を強化することが、外交や安全保障の要になると考えていて、以前の佐藤優さんは県外移設とはいっていなかった。ここ2〜3 年、佐藤優さんの専売特許ではない「構造的差別論」が力をもつようになるにつれ、佐藤優さんはこの論に与するようになり、「辺野古移設反対」はもちろんのこと、「県外移設」も主張するようになった。それと同時に「自分は沖縄人の同胞だ」と強調する機会も増えていった。その過程で「自衛隊増強論」は鳴りを潜めていったにちがいない。自らの論調に「情報操作」を加えていったのだ。

うがった見方をすれば、佐藤優さんは基地反対運動に寄り添うことによって、最終的に「自衛隊増強」を実現するための情報操作をしているのだ。「辺野古移設断念」「海兵隊県外移駐」という条件がそろえば、自 衛隊増強論は確実に優勢になる。そのプロセスで、佐藤優さんは「手柄」をあげるつもりなのだろう。「手柄」とは、世論に対する支配的影響力である。さらに、彼が想定する「世論」は沖縄の世論などではない。日本の世論である。

つまり、こういうことだ。まず「辺野古移設断念」「沖縄差別批判」を主張することによって、優勢になりつつある辺野古移設反対運動と共に闘う。その結果、「辺野古移設断念」を勝ち取ったら、沖縄では「沖縄県民の勝利」と県民を持ち上げ、東京では「政治的エリート」の対沖縄政策を責めながら「俺の力だ」と世論形成能力を誇示する。沖縄では沖縄県民をいい気分にして、東京では「政治的エリート」を恫喝するのである。同時に「沖縄の未来」にも「日本の未来」にも自衛隊が必要だ、さもないと中国が手を出してくるぞと、広く呼びかける。こうした手順を経て、沖縄の自衛隊が、グアムやオーストラリアに移駐する米軍を代替する環境を整える。自衛隊増強である。もちろん、これも実現すれば佐藤優さんの手柄になる。このシナリオが滞りなく進めば、日本の外交政策・安全保障政策は、佐藤優さんの思惑通りになる。それが彼の信念に基づくものであろうがなかろうが、佐藤優さんのイニシアチブは確立される。

ただし問題はある。「辺野古移設断念」は、たとえそれが米軍独自の判断だとしても「沖縄県民の自己決定」という体裁をとりうるが、「自衛隊増強」には沖縄であらたなる抵抗が生まれる可能性がある。「沖縄県民の自己決定」により「自衛隊増強」が否定されるケースである。だが、佐藤優さんはあまり心配はしていない。もう種は蒔いてある。尖閣での中国船問題で佐藤優さんは政府の「軟弱な対応」を非難した。もっと毅然とした態度を取れといった。「日本はTPPに参加すべきだ」(=今後のパートナーとして日本は中国 でなくてアメリカを選ぶべきだ、という主張である)という一方で、「中国の脅威への警戒」も呼びかけた。自衛隊増強に反対する勢力がいても、中国を警戒する勢力は沖縄でも今後確実に増えるだろう、と読んでいるのである。

もっと踏み込んでいえば、自衛隊移駐を実現しやすくするために佐藤優さんは「構造的差別論」を展開しているのだ。「構造的差別」を強調することで、県民の被差別意識を育て、その一方で、「ごめんなさい、も う二度と差別はしません」という姿勢をもった東京の「政治的エリート」を育てようとしている。沖縄の歴史を「植民」や「差別」というシンプルで象徴的なことばによって染め上げた佐藤優さんは、「差別の解消」を旗印とした政治家や官僚を沖縄に送り込んでこういわせる。「問題は解決しました。異なる歴史と文化をこれからはもっと尊重しますが、 あなた方は晴れて日本の一員です。ともに栄えましょう」。火付け役も火消し役も佐藤優さんだ。自衛隊を送りこむ地ならしはこれで十分できる、という見通しを持っているにちがいない。

だが、このシナリオは「辺野古移設断念」からスタートしている。この目標が実現しなければ、佐藤優さんはイニシアティブをとれない。「辺野古移設断念」を実現するために、佐藤優さんは知念ウシさんとそのお 仲間たちが主導する排他的な沖縄民族主義とも実質的に共闘している。沖縄民族主義の力を借りなければ佐藤優さんのシナリオは実現しない。しかし、沖縄民族主義は一般的に自衛隊も嫌っている。今ここで、佐藤優さんの「沖縄の自衛隊増強論」がばれてしまったら、佐藤優さんの正体が明確になり、イニシアティブを とれなくなってしまう。そうした事態は絶対に避けたい。佐藤優さんの「沖縄の自衛隊増強論」はばれてはいけないものなのだ。ばれたとたんに佐藤さんは沖縄の論壇から放逐される可能性だってある。

以上は、憶測である。邪推かもしれない。だが、かなりの確度で「真」である可能性が強い憶測であり、邪推であると思っている。

佐藤優さんは大久保潤さんのことを、沖縄をいいように操ろうとする「沖縄通」だといって批判した。(参照:佐藤優さんの沖縄論は先が見えない )。暗殺者であり、謀略家であるとまでいった。だが、沖縄を操ろうとしているのは誰か。ぼくはこれでほぼはっきりしたと思っている。

目取真俊さんはもう何年も前から佐藤優さんを警戒するようにいいつづけている(国家主義者という病理|ブログ海鳴りの島から)。ぼくは目取真俊さんとも考え方は違うが、この点では目取真俊さんは完全に正しい。佐藤優さんは沖縄を欺している。

http://gqjapan.jp/more/business/20120125/keyplayers4

http://gqjapan.jp/more/business/20120125/keyplayers4

批評.COM  篠原章
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