歓迎!トランプ大統領ご一行様—沖縄基地問題のゆくえ

トランプ候補が次期米国大統領に選ばれました。当選と同時に私はSNSに「トランプ当選。翁長知事、オール沖縄は祝電を打たないと」と書きこみました。まさかそれを見たわけではないでしょうが、翁長沖縄県知事はトランプ氏に祝電を打ち、2月に訪米することを決めたようです。

基地問題をめぐり、翁長知事がトランプ次期大統領に本気で「期待」しているかどうかは怪しいと思いますし、知事の思惑通りにことが運ぶ可能性は小さいと思いますが、日米同盟が新しい段階に入ったことは間違いありません。

これまでSNSにも繰り返し書きこみましたが、私は「トランプ次期大統領」を予想していました。実のところ半分当てずっぽうでしたが、英国のEU離脱の国民投票に象徴されるように、最近の世論調査は「流れを変える投票(国民の意思)」を的確に捉えられない傾向が強いのです。簡単にいえば「世論調査」に素直に答えたくない人たちが多数生まれているということです。流れを変えるような局面に直面すると、嘘をつくか、答えを保留する人たちが増えていると思います。ですから、米国大統領選に関する世論調査を私はほとんど信じていませんでした。

識者はトランプ支持現象を「ポピュリズム」と批判し、「レイシストでヘイトスピーカー」のトランプ氏を忌み嫌っているようですが、良し悪しはともかくこれが米国民の選択です。納税者の主体である白人中間層を始め米国民の多数派は、本音では「アメリカン・ドリーム」の再来を期待しているのでしょう。少なくとも「これまでのやり方」に強い不信感を持っているのだと思います。「ヘイトスピーチ云々」はトランプ現象のほんの一面に過ぎないと思いますし、トランプ氏といえども、大統領に就任すれば、差別に対する批判を受け入れざるをえないでしょう。

私たちにとってそれよりも重要なのは、トランプ次期大統領が日本に対して及ぼす影響です。差別主義者・トランプの批判に明け暮れている暇はありません。

「当面の日本にとって最も大きな影響がある」といわれているのはTPPですが、TPPはまだ生まれてもいない制度ですから、その影響は限られています。国際貿易は保護主義的な色合いが強くなると思いますが、保護主義は百害あって一利なしです。行き過ぎた保護主義は中期的には是正されると思います。保護主義は経済を縮小させます。それは誰も望まないことです。

問題は日米同盟です。米軍基地は全面的に撤去されるのでしょうか。答えは「NO」です。「沖縄の基地の全面撤去」ではなく「米軍の負担軽減」(米側の駐留経費の削減=日本側の負担拡大)という方向で動くことになります。

トランプ大統領は「GDP比1%の国防費をを2%にしろ!」といってくるでしょうが、それはあまり意味のある議論ではありません。トランプ大統領と米国の納税者にとって肝心なのは「米軍駐留経費を減らすこと」なのです。であるなら、相当程度水増しされている現状の駐留経費を厳格に査定して総額を減らし、日本側の負担率を上げればトランプ大統領も納得するでしょう。日本もトランプの言うなりになって防衛費を増やす余裕はありません。「総額を減らして負担率を上げる」のであれば、日本の納税者も納得するはずです。あわせて自衛隊の増強も図られることになると思います。経費節減により沖縄に駐留する在日米軍は減らされますから、自衛隊がその穴埋めをする必要があります。

「辺野古移設」はどうなるのか。移設そのものはそのまま進められますが、埋立による滑走路建設はなくなる可能性があります。陸上(キャンプ・シュワブ内)でのヘリパッド建設に計画が変更されるということです。反対運動への配慮もあるかもしれませんが、「動機」はむしろ経費節減です。埋立のほうがはるかに経費がかかるからです。陸上にヘリパッドを建設するほうがはるかに安上がりですから、財政的意義も大きいと思います。ただ、これについては依然不確定な要因があります。埋立による滑走路建設を伴う辺野古移設は、沖縄のエスタブリッシュメントおよび本土の一部の人びとにとって、ある種の「既得権」だからです。

トランプ大統領就任後の日米同盟が、駐留経費総額削減と自衛隊による米軍の代替という二本柱で動くとすれば、翁長知事も納得せざるをえないはずですが、果たしてそうなるのか。正直いって難しいでしょう。自衛隊増強となれば、翁長氏の支持母体の核を構成する共産党も黙っていないし、沖縄に投入される資金もかなりの減額となりますから、沖縄のエスタブリッシュメントも黙っていないでしょう。「振興予算」と「防衛予算」に依存する沖縄のエスタブリッシュメントは、相応の危機感を持つことになると思います。基地に反対しながら振興予算を増やす使命を負う翁長知事は、沖縄に流入する資金を増やすプランでない限り、トランプ政権下の「経費削減策としての基地縮小」を認めたくないでしょう。自衛隊が沖縄振興策を増やす方向で増強されるのであれば、知事も「賛成」となるでしょうが、日本の財政事情はそれを許さないと思います。

翁長知事は大統領と会見するとのことですが、その前に新たな日米同盟の姿が見えてくると思います。日本政府としては、沖縄のエスタブリッシュメントに遠慮することなく、トランプ大統領に「駐留経費の削減と自衛隊による米軍の代替」という提案をするのがベストだと思います。安倍首相も「トランプ大統領歓迎」の意向を示していますが、これを機に、日本の「改憲=自主独立」の方向性は確定されることになるでしょう。安保を担保しつつ(沖縄振興予算も含めて)米軍基地に関わる経費が減るのであれば、日本の納税者にとってこれは「朗報」となるかもしれません。

批評.COM  篠原章
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