ブックレビュー:君塚太『トウキョウ・ロック・ビギニングス』+平野肇『僕の音楽物語』

たまには音楽本もご紹介しておきたいと思います。本日取り上げるのは2点。

まずは、昨年12月に発売された君塚太『トウキョウ・ロック・ビギニングス アマチュア・バンドとユース・カルチャーの誕生』(河出書房新社・税別2000円)。

成毛滋、松本隆などを輩出した慶應大学の音楽サークル・風林火山と細野晴臣の出身母体となった立教大学の音楽サークル・SCAPの活動に焦点を当て、関係者のインタビューを集成した好著です。60年代後半のアマチュア学生ロック・バンドの「パワー」をリアルに感ずることのできる一冊。これが日本ロックの一つの出発点になったといってもいいでしょう。3月15日に発売される『レコード・コレクターズ』(2017年4月号)にも篠原による書評が掲載される予定ですので、そちらもご一読ください。

もう一冊は2011年に出版された本ですが、『トウキョウ・ロック・ビギニングス』との併読を是非お薦めしたい一冊。平野肇『僕の音楽物語 1972-2011  名もなきミュージシャンの手帳が語る日本ポップス興亡史』(祥伝社・税別1800円)です。

70年代の日本のロックやフォークの作品を聴きこんでいれば、「平野肇」(著者)というドラマーの名前には馴染みがあるはずです。実弟のベーシスト・平野融とともにさまざまなセッションに参加しています。生粋の慶応ボーイで、松任谷正隆の同級生だったことがこの世界への扉を開き、70年代半ばにユーミンのバックを務めた「ダディ・オー!」のバンマスでもありました。けっして「名もなきミュージシャン」ではありませんが、はっぴいえんど、ミカ・バンドなどといった慶應・立教・青学系の「主流」からはちょっとはずれていたかもしれません。

彼の物語は、小坂忠とフォージョーハーフに「初代ベーシスト」として参加したにもかかわらず、数か月でクビになる行から始まるのですが、こうした著者の下積みの経験が、本書に独特の優しい肌触りを与えています。「主流」からはずれていたことが逆に功を奏し、日本のロック・シーン、フォーク・シーンを著者はとてもクールに見つめていますし、当時のセッション・ミュージシャンのリアルな暮らしも垣間見ることができます。70年代のロックやポップ・カルチャーをより深く知るための貴重な情報が満載された著作といえるでしょう。

研究者や愛好者はもちろん、70年代の日本ロックやフォークに思い入れのある人なら誰しも楽しく読むことができます。震災の年に出版されたため、あまり話題にならなかったのですが、『トウキョウ・ロック・ビギニングス』との併読を強くお薦めしたいと思います。

批評.COM  篠原章
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