鼎談・いつも心に三合瓶第2回〜都知事選なんちゃって政策比較 鷽蜂百vs篠原章(1)

目 次
(1)ニッポンの右傾化はホントか?
(2)慎太郎の望みは伸晃を首相にすることだけ
(3)都知事選候補者の公式サイト点検
(4)堅実だが面白味のない猪瀬候補
(5)「江戸城復元」という目玉が笑いを誘う松沢候補
(6)情熱が財政赤字を増やす?宇都宮候補
(7)まとめ:(猪瀬+鈴木宗男)÷2みたいな候補が欲しい


 

(1)ニッポンの「右傾化」はホントか?

鷽「あんたもついに二流の政治評論を目指すようになったのか、最近は政治向きの話題ばかり。それも沖縄以外にも口を出し始めたね。嘉田滋賀県知事批判なんてやるとは思わなかったよ。どうでもいいじゃん。嘉田さんなんて」

篠原「政治評論を書くつもりはないんだけど、今の日本 を認識するためには、政治に関する評価も避けて通れない気がしてきたんだよ。で、いろいろ試行錯誤しながら書いているわけ。嘉田さんについては、彼女のこ とは以前調べていたこともあったから、行動パターンはよく知っていた。その彼女が、小沢一郎さんと密約をかわしながら、国政の表舞台に登場した。いくら大 人の世界が汚いといっても、まともに住民に向きあえない人物が主要政党のトップになるなんて、とんでもない。切ない気分になったんだよ」

鷽「だんだんジジイになってきたってことか?」

篠原「ていうか、政治への関心というのは、思潮への関 心からきているんだね。なによりも<脱原発>という思潮。<脱原発社会の構築>っていう方向性は理解しているけれど、脱原発派のメインストリーム、ま、そ ういうものが存在するとしての話だけど、彼らの主張や運動がどうも釈然としないんだ。以前からいっているように、現在の主張や運動からは、70年代から 80年代にかけてのさまざまな議論や体験がすっぽり抜け落ちている気がするんだよ」

鷽「だから?つまり、そこは何度でもいいから丁寧に説明しないと簡単ににわかってもらえないところでしょ」

篠原「つまりさ、今回の脱原発の流れのなかで、旧態依 然たる“左”の思潮が、70年安保から40年も経ってるのに再び亡霊のように現れて、脱原発を主導しているように見えるんだよね。で、脱原発運動に熱心に 取り組んでいる人たちの多くは、そのことに気づいていない。良識とか良心の下に行動していると信じている。けれども、<原発=悪→資本主義×>という図式 化がやはり見え隠れするんだ。そこには、資本主義に代わるものとして<絆主義>みたいな漠としたシステムが曖昧に想定されている。これが、鳩山一郎さんの 友愛主義のようなかたちになるのか、社会主義へのワンステップとなるのか、それとも従来にない新しいシステムにつながるのか、といえば、いちばん現実的な のが社会主義的手法の復活でしょう。ヴァージョン・アップかヴァージョン・ダウンか知らないけど、いずれにせよ国家の止揚じゃなくて政府の膨張にならざる をえない」

鷽「“国家の止揚”はちょっと話のレベルが違うんじゃないか。政府の膨張・縮小ならわかるけど」

篠原「単純に量的問題とはいえないから、あえて“国家 の止揚”ということばを使ったけど、話を単純化するために、政府の膨張・縮小という表現でもいい。で、政府の膨張がいかに人を不幸にするかはっきりしたの が70~80年代末までのボクらの経験だったんじゃないか。“そうじゃない、人の心を尊重しない政治が今のニッポンをダメにしてるんだ。人と人の絆を強く する政治を望んでいるんだ”という反論も返ってくるかもしれないけど、ニッポンがダメになっているとすれば、必要なお金を必要なところに配分できないシス テムになっているからだというのがぼくの認識。資本主義の枠内での資源分配と所得再分配をいかに効果的に行うか、ということを徹底的に考えるのは必須だけ ど、“弱者の救済”という美名の下に、野放図な70年代的なばらまきが行われるようになったら、経済はもっとダメになり、結果的に不幸はより蔓延する。絆 を主張することが必ずしも幸福にはつながらないってことを考えないとね」

鷽「おれも“絆”って言葉には抵抗があるけど、そこまで“絆主義”は深刻なのかね」

篠原「今復活している脱原発の土台にある思潮は“絆” というイメージを活用しながら、あらたなる社会主義化の流れをつくりだそうとしているように見えるわけだ。けれど、社会主義化の流れは、中長期的な貧困の 救済にはつながらないとぼくは思ってる。たしかに経済格差・所得格差あるいは震災で苦しんでいる人たち、困っている人たちの数は増えているから、絆主義と いう名の社会主義は一部にはやはり強く支持されるとは思うよ。でも、実はそんなに大きな潮流にはなっていない。ただ、いわゆる知識人やメディア人が無責任 にこれを応援するから、この思潮は実態よりも大きく見える。そこに右寄りの人たちが危機感を覚えているんだね。天皇中心主義という右翼じゃなくて、右寄り の保守系の人たちがその主流だと思うけど。一部はネット右翼とか呼ばれていて、これがまた声が大きい。彼らはニッポンをダメにしたのは左翼だっていうわ け。何から何まで左翼のせいにするんだ。左翼だってそれほど巨大な実態があったわけじゃないけど、思潮としてはやはり大きく見えるからね。なんといっても 一見立派な知識人やアーティストが先頭に立っているからさ。で、“ニッポンの右傾化”なんていわれる。ぼくには、メディアの表面が左傾化して見えるから、 その反動で右傾化が起こっているように見えるんだけどね。で、右傾化がまた大きく見えるから左寄りの人たちが危機感を覚えて大声になる。ちょっとした悪循 環だな」

鷽「左傾化・右傾化という問題の立て方も甘いんじゃないか」

篠原「そうかな? 実は70年代から既成の左翼政党や 左翼運動は<一般大衆>から乖離していたと思うんだよ。そうした左翼に飽き足らない知識人が、ベ平連なんかの市民運動を新しい政治的潮流として組織したん だけど、これが市民派という名の新しい左翼に成長したんだと思う。この場合の左翼というのは、諸悪の根源を市場経済と対米関係に求める人たち。結果的に “弱者切り捨て”“貧困化の促進”が起こるという主張だよね。彼らの主張のすべてが間違いだと思わないけれど、経済学的にいえば、生産局面を見ないで、分 配局面だけを見ている人たちなんだ。所得なくして消費が可能だと思っている。60年代末~70年代初めにかけて、反安保・反米闘争に関わった人たちが相変 わらずその主役だよ。反安保・反米闘争に関わった当時の若者たちの多くは、その後、企業経営とか団体経営に関わって、いかに市場経済が重要か理解したはず なんだよ。市場経済が適正に機能しなければ、所得も分配できないっていう自明の事実を何十年もかけて学んだ。ところが、景気が悪くなったら、学んだことが 生かされなくなった。やっぱ市場経済が悪いんじゃないか。アメリカが悪いんじゃないか。その象徴たる原発が悪いんじゃないか。そんな単純な話じゃないで しょう。世界は単純じゃない。複雑なんだよ。でも、ものすごく単純化して考えている人たちが増えてるんだ。それが、実質的に左傾化の流れになっている。右 寄りの人たちもその点は同じだけどね。左翼が悪い、中国・韓国が悪いっていう単純化が行われている。ネット化によるフラット化で、情報が手に入りやすく なった分、単純化の思想は受けるんだよ。複雑なものを単純に考える流れはフラット化と対応しているんだ。でも、複雑なものを解くために単純化しているん じゃないんだ。複雑なものを拒否するために単純化している。二者択一の思想は限界があるはずなのに、二者択一を迫る風潮になっている。そうした社会現象の 一端が、やはり“右”“左”のせめぎ合いになっているんだ。ぼくは、政治的潮流を左右両翼に分けろといってるんじゃなくて、左右両翼の選択を迫るような思 潮を問題にしているんだよ。このままでは、そうした選択が常態化して、社会全体が60年代のレベルまで後退してしまう気がする。左右を乗り越える思想こそ 求められているはずだよ」

(2)慎太郎の望みは伸晃を首相にすることだけ

鷽「右傾化と左傾化はセットだということだね。でも、今度の総選挙で、日本には戦後最も右寄りの政権が誕生する可能性があるじゃないか」

篠原「そこなんだけどさ。誰も指摘しないからいってお くけど、自民が思うように議席をとれなかったら、連立先として維新か公明かの選択を迫られることになる。議席配分がどうなるかによるけどね。もし維新との 連立政権になったら、ニッポンの左右対立はしばらく常態化する怖れがある。そうなれば、左右両派を超克できるような環境は失われるね。ただし、自民と維新 の連携は、石原慎太郎さんが元気なら、という条件付きだけどね。石原さんは伸晃クンが首相になれるような環境を創りたいという一心で、政局ってやつを動か したんだから、自民とやりたいに決まっている。これには橋下徹さんが反発するだろうけど、石原・橋下両巨頭がどこで手を打つかだね」

鷽「慎太郎は伸晃を首相にするために行動しているって ことか。それは納得できる。あれだけの論客が、そう簡単に持論を引っ込めて“野合”するわけはないものな。子どもを溺愛しているから野合も平気なんだ。伸 晃を首相にするために、自分の主張を後退させている。でも、一方の自民の側も、維新との連立に抵抗する勢力もあるるんじゃないか。伸晃の自民内でのポジ ションも相対的に低下しているしね」

(3)都知事選候補者の公式サイト点検

鷽「そろそろ今日の本題に入るか。総選挙が近いから政党の政策比較をするんだっけ?」

篠原「総選挙はしちめんどくさいんだよ。政党の数が多すぎて比較どころじゃない。だからとりあえず都知事選候補者の政策比較をやろうというのが今日の主題。あくまでも候補者の公式サイトがベースだけどね」

鷽「またあんたに不似合いなことやるもんだな。選挙なんて嫌いじゃなかったっけ?」

篠原「嫌いというか、野次馬的には好きなんだけど、どの候補者を選んだらいいかなんてあまり真剣に考えたことはなかったね。今までは、握手の仕方が悪いとか、手袋が汚れているとか、ポスターが昔の絵はがきみたいとか、そういうことばかりが気になってきたからね」

鷽「そっちのほうがおもしろいだろ。今回のブログに貼りつける画像もマック赤坂だっていうし」

篠原「マック赤坂はおもしろいんだよ。むちゃくちゃ面 白いんだよ。でも、今回ぐらいは政策比較をちゃんとやっておきたい。選挙としてはポスト石原だからおもろくしなきゃいけないし。“なんちゃって”ってタイ トルにしてあるのはせめてものエクスキューズ。実はけっこう無責任な政策比較ですよという言い訳。マック赤坂さんにはやっぱり敬意を表して、今回のブログ にマックさんの公式サイトの画像は貼りつけてあげるんだ。マックさんは嘉田さんの京大の先輩だし(笑)」

鷽「しょうがないな。候補者の公式サイトを見たけど、オレはそんなにおもしろいと思わなかった。猪瀬のサイトが意外だったな。あれじゃ官僚出身の候補者と変わらない。つまらんデザインだよ」

篠原「そうだね。猪瀬さんだったらもっといいデザイナーを知っているはずだけどね。実務的なサイトになっている。とりあえずサイトの印象を比較した表を持ってきたんだ」

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鷽「また、どうでもいい表をつくってきたなあ(笑)」

篠原「どうでもいいってことはないよ。多くの人たちが 見るからね。いちばん真剣味が伝わってくるのは宇都宮さんだと思ったね。つまらんのは猪瀬さんだけど、政策を見るという意味では整理されている。松沢さん はなんだか怪しいんだ。芸人との対談がばかりだし。政策はわかるけど、ちょっと網羅的すぎるというか。おまけに、ろくでもないアイデアを素晴らしいと勘違 いしている」

鷽「他の候補は?」

篠原「おもしろいのはダントツでマックさんだけど、笹 川さんに公式サイトがないのはビックリしたな。本気じゃないよ、あれは。お金持ちなんだからいくらでも公式サイトに金をかけられるはずなのに。あの人の立 候補は謎だよ。宇都宮さんの票を割らせるために立候補したというけど、支持層は重ならないでしょ。猪瀬さんや松沢さんとは重なるけど、サイトもつくらない んだから集票活動にまったく熱心じゃない。何のために出たのかわからんけど、新聞は4大候補の一人という扱い。元大臣だからということだろうけど、はっき りいって泡沫候補だよ。自ら泡沫であると宣言したような立候補なんだから、新聞はもう笹川さんについて書かなくていいよ」

鷽「ドクター中松なんかはどうなのよ?」

篠原「どうやら中松さんにも選挙専用サイトはない。商 売用のサイトはあるけどね。中松さんはぼくの学校の先輩でもあり、とっても面白い人だけど、選挙についてあまり語るべき点はさがしだせない。出ることに意 義があるんだよ。あの人は。印象的だったのは、元ネパール大使の吉田さん。仕事で絡んだことがある気がするが思い出せない。吉田さんのサイトを見ると、実 に真面目な人だとわかる。“リベラリズムの死”を心配しているんだよ。右傾化心配候補というべきかな。素人の政治を標榜している点は好感が持てるけど、参 議院向きなんだな。政策形成能力・実行力はそれほど高いとは思えないから、都知事には向いていない。高齢だけど、次の参院選で元気だったら出馬したらいか がかと…」

鷽「吉田さんねえ。外交官だった人が定年後だいぶだってから立候補するってのは、よほど腹に据えかねたことがあるってコトだろうね」

※ちなみに公職選挙法では、候補者はWEBサイトを選 挙運動に利用してはいけないことになっている。 公示日以前にアップするなら問題ない。公示日以後はサイトの更新も違反に抵触する。宇都宮候補の公式サイトが「人にやさしい東京をつくる会」になっている のは、公選法を意識してのことだ。わがサイトではマック赤坂さんの画像をつかっているが、これが公選法違反になるかどうかはまったくわからない。どこかか ら文句をいわれたら直ちに削除するつもりである。

【鷽蜂白 プロフィール】 1961年台湾(台南)生まれ。父は台湾系米国人、母は祖先が喜界島に連なる日系ペルー人という家庭環境に育つ。名古屋の某高校・東京の 某大学を経て米国ペンシルバニア大学大学院修了(Ph.D)。専攻は社会学。詳しい正体は不明だが、コスタリカを拠点としながら主として南米スペイン語圏 のマスメディアに寄稿しているといわれる。福建語(台湾語)、北京語、広東語、日本語、スペイン語、英語が堪能らしい。長く台南近郊で海老の養殖場を経営 していたが、7年前に海老ビジネスからITビジネスに転身。台北、上海、ニューヨーク、パリなどでIT関係の事業を手がける。日本にも複数の会社や営業所 をもつという。篠原とは1997年にインドネシアのバタム島で知り合い、痔の話題で意気投合、以後、つかず離れずのつきあいが続いている。しつこい疣痔が 悩みの種。

批評.COM  篠原章
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