ぼくは「沖縄から基地を持ち帰る」覚悟を決めた

米兵の基地外飲酒が禁止された。もともと米兵の沖縄における犯罪律は高くなかったのだから、これで犯罪は一段と減少する。米兵の志気は低下し、沖縄本島中部地区・北部地区の小売店・飲食店のなかには商売が成り立たなくなる店もたくさんでてくるだろうが、その懸念はあまり語られていない。「米兵を基地内に封じこめれば県民がより幸せになるのだから犠牲が出てもやむをえない」と沖縄のジャーナリズムも政治家も知識人も考えているのだろう(文末の追記を参照)。次はオスプレイだ。

オスプレイの事故率は他の航空機に比べて突出して高いわけではない。そのことはあちこちで指摘されているので、ここではとくに繰り返さない。試作の過程で「未亡人製造機」と呼ばれたことが報道され、沖縄県民は恐怖を感じた。世論調査でも9割の県民が配備に反対したという。配備前にアメリカに出張してオスプレイに試乗し、「安全宣言」した下地幹郎衆院議員(前郵政民営化・防災担当大臣/国民新党)まで、今やオスプレイに反対している。

ぼくはオスプレイの危険性は過剰に強調されていると思っている。オスプレイについては米国防総省の資料だけでなくさまざまな資料をさんざん調べたが(操縦マニュアルまで読んだ)、“ヘリと飛行機の合体”という夢を実現した先端的航空技術の集積という一面がある一方で、けっして秀作ではないと思っている。それでも、墜落の危険性は高いとは思わないが、ここまで沖縄県民に問題視されるなら、オスプレイはもう沖縄から撤収すべきだろう。オスプレイを撤収すれば東村高江のヘリパッド建設反対運動も鎮静化する。だから、次期政権は米軍当局あるいは米国に「オスプレイ撤収」を交渉したほうがいい。ありとあらゆる手を使って、政府は米国側を説得すべきだ。いちばん効果的なのは、米国からオスプレイを何十機か購入することだ。100機でも200機でもいい。自衛隊が使ってもいいし、防災用・医療用ヘリとして沖縄県以外の全都道府県に配備してもいい。防災用・医療用なら、軍事用に比べて離着陸回数は圧倒的に少なく、危険性も極小になる。「オスプレイ購入」を前提に交渉すれば、米国側もオスプレイ撤収に同意するかもしれない。米国にとって、日本の防衛より米国の防衛産業のほうがよほど大事だろう。

だが、たとえオスプレイが沖縄から撤収しても問題はなくならない。普天間基地は依然としてそこにある。辺野古区民は移設に賛成だが、「県民の総意」は辺野古移設に反対している。では、いっそのこと普天間基地の辺野古移設もやめてしまったらどうか。米側に懇願して、海兵隊を丸ごとグアムやオーストラリアに移転してもらおう。それが無理なら、日本のどこかに米海兵隊を丸ごと移せばいい。移設先は東京でもいい。ぼくは沖縄県民の総意を尊重したいから、海兵隊の東京移設には大賛成だ。知念ウシさんだけでなくほとんどの沖縄の知識人や政治家が求めているように、ぼくは喜んで「米軍基地を持ち帰る」覚悟ができている。「ごめんなさい、今までぼくたちは沖縄を差別していましたが、これで勘弁してください」と首を垂れるのもやぶさかではない。ぼくが住んでいる新宿区に海兵隊基地がやってきてもいい。上空をオスプレイが飛び回っても歓迎だ。ぼくがもし大地主だったり、都知事だったりすれば、進んで土地を提供する。が、残念ながら大地主でも知事でもない。いずれにせよ沖縄県外への移設が決まれば普天間基地の問題はきれいに解決する。

しかしながら、以上のぼくの提案はいくつもの仮定に基づいている。その仮定を列挙してみよう(オスプレイと普天間に分けて列挙)。

1.オスプレイを撤収するための仮定

(1)日本政府がオスプレイの撤収を米軍当局に要求し、米軍当局が受け入れること。

(2)米軍当局が、上記(1)の要求を受け入れない場合、日米同盟を見直し、米軍基地を撤去するよう通告し、米国側がそれを受け入れること。

(3)日米同盟見直しを受けて、日本政府は中国政府と交渉し、日中両国政府が、お互いを脅威ではないとしっかりと認めあうこと。そしてお互いにその約束を恒久的に守ること。必要に応じて条約を結ぶこと。さらに、尖閣諸島領有権の問題が日中両国間で平和的に完全決着すること。

(4)北朝鮮が沖縄にミサイルを絶対に撃ち込まないと約束すること。

2.普天間基地の県外移設を実現するための仮定

(1)普天間基地または在沖海兵隊が沖縄から移設・移駐しても、日米同盟上または日本の安全保障上「問題なし」と両国が判断すること。

(2)上記(1)とほぼ同じことだが、普天間基地または在沖縄海兵隊が沖縄から移設・移駐しても、地政学上問題なしと多数の専門家が判断すること。

(3)沖縄からの移設・移駐が日米同盟上問題ありという判断された場合、米軍の代わりに自衛隊の沖縄への配備が認められること。

(4)自衛隊の沖縄への配備が認められない場合、南西諸島の防衛体制が手薄になるが、「それでも問題なし」という確信を政府が持てること。

(5)普天間基地・海兵隊の移設・移駐先が、沖縄以外の国内の場合、受け入れ先が確保できること。

(6)受け入れ先が確保できない場合、政府が強権を発動して、自治体の意思や私権を無視してまで移設・移駐先を確保できること。

(7)政府が強権を発動できない場合、普天間基地・海兵隊の移設先・移駐先が宙に浮いてしまうが、政府が「米海兵隊はもう必要ない。あとは自分たちでなんとかしますから」と覚悟できること。

(8)上記(7)のような事態になって日米同盟にヒビが入ったとしても、政府が「それでも問題なし」という覚悟を決められること。

(9)上記(8)の決断が行われた場合、日米同盟が弱体化しても、日本の平和は守られると確信できること。

(10)最悪の場合、日米同盟がなくとも、日本の平和は守られると確信できること。

(11)日米同盟がなくとも、日米の友好・経済交流に問題が発生しないこと。

(12)上記(10)(11)を受けて、自衛隊の国防軍化(憲法改正)が行われても、国民および国際社会が受け入れること。

(13)普天間基地移設または海兵隊の移駐が完了したら、国から沖縄に配分されてきた資金の一部が削減対象となるが、沖縄がそれを受け入れられること。

(14)上記で想定したように、日米同盟が消滅した場合、嘉手納基地など他の基地も撤去される(米軍基地の完全撤去)。その場合、国から沖縄に配分されてきた資金の大部分(年間3,000〜5,000円億円)が削減対象となるが、沖縄がそれを受け入れられること。

(15)上記(13)(14)の事態になった場合、基地労働者は解雇され、公務員は削減されるが、沖縄がそれを受け入れられること。

(16)上記(13)〜(15)の事態になった場合、失業者は増え沖縄の景気は悪化するが、沖縄がそれを受け入れられること。

(17)日米同盟解消を受けて、日中関係、日台関係、日韓関係などあらゆる隣国との関係を再構築すること。

以上、思いつくままに仮定を掲げたが、仮定の総計は21。ぼくは安全保障の専門家ではないから見落としも十分あり得る。その場合、仮定は増える可能性が強い。

ぼくはけっして大げさに考えているつもりはない。脅しているつもりもない。普通にロジカルに考えているだけだ。これだけの仮定をクリアしなければ、問題が決着しないというのは、ぼくにとっても驚きである。だが、米軍基地を削減するというのはおそらくそういう困難な作業なのだ。沖縄県民も日本国民も、オスプレイ問題、普天間基地移設問題を本気で解決しようと思ったら、これらの仮定を一つ一つ着実に潰していく必要がある。気が遠くなる作業だが、ぼくはもう覚悟を決めている。が、ぼく一人が覚悟を決めても事態はまったく動かない。曲がりなりにも日本は民主主義国家であるからだ。

【追 記】米兵の基地外飲酒禁止(2012年12月2日)について 米軍当局が、米兵の基地外飲酒禁止を決めた。これで米兵の飲酒によるトラブルはほとんどなくなるだろう。ところが、沖縄本島中部地域の首長はこれを歓迎していない▼。「実効性を見極めたい」などといったコメントを出しているが、本音は違う。ビールも飲めないなら、米兵は基地外で買い物や食事をしなくなるだろう。そうなれば、飲食店だけでなく小売店の売上も激減する。有権者の暮らしにたちまち陰りが出る。首長にとってそれは困った事態だ。基地削減を粛々と進めるためには、米兵の事件事故を必要以上に問題化しないことだ。そんなことは初めからわかっていた。基地反対を唱える首長たちは、「米兵の犯罪があるから基地反対」と言い続けてきた。ジャーナリズムや知識人もこれに同調してきた。米軍当局は、彼らの主張を受け入れて飲酒禁止措置をとったのに、首長たちは「実効性が問題だ」などといって動揺している。だったら、米軍はどういう措置をとればよかったのか。外出禁止と飲酒禁止のほかにどんな措置があるのか、ぼくにはまったく思い浮かばない。飲酒禁止ぐらいで首長たちはすっかり動揺しているが、基地がなくなったらいったいどうなってしまうのだろう。

基地反対行動が住民の暮らしより優先すると考えるなら最初から最後までその姿勢を正しく貫くべきだが、住民の暮らしが最優先なら、基地反対に力を注ぐのではなく、基地がなくなっても成り立つ地域経済のあり方について真剣に考えるべきだ。そのほうが「米兵の犯罪」に抗議するよりはるかに基地を削減する効果がある。

 

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批評.COM  篠原章
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