衆院選沖縄2017総括(取材メモ)

衆院選の際して沖縄県の状況を取材してきました。その「メモ」を公開しておきます。あくまでも「メモ」ですので、そのつもりでご覧下さい。

【沖縄衆院選2017総括】

(1)希望や立憲民主の結党とは無縁の選挙だった。日本で唯一の社民党選挙区選出議員、唯一の共産党選挙区選出議員、小政党・自由党出身の選挙区選出議員の議席が守られたことが、今回の沖縄選挙区最大の「特徴」である。今後、選挙運動のあり方も含めて、本土とはまるで異なる沖縄の「政治風土」に対する分析(あるいは政治風土の改革)が必須だ。ただし、2区、3区についてはオール沖縄側候補者の個人的人気に大きく支えられており、所属党派や政治的主張が勝利の唯一の勝因ではない点に注意は必要だ。

(2)私見では、沖縄には「自由闊達に議論する市民社会」は存在しないと考えている。言い換えると、沖縄は、日本でもっとも保守的な政治体質の強い地域である。封建的・家父長的体質が今も遺制として残っており、他地域より既得権益に対して敏感に反応する(既得権益を守る方向で動くということ)。社民党、共産党などの政党の「党派益」が沖縄の政治風土を歪めている面(食い物にしている点)にも注目したい。

(3)オール沖縄に風穴が空いたという評価があるが、これは必ずしも適切ではない。たしかに「綻び」は見られたが、今後、この傾向が持続する保証はない。今回の「変化」は、従来から存在した「組織票の談合状態」の延長線上で考えるべきものだ。

(4)上記にも関連することだが、沖縄自民党の組織票が流動化している。党運営、議員活動を根本から見直さなければ生き残れない。「組織票頼みからの脱却」が最大のテーマとして浮上してきた。とりわけ、必勝態勢で臨んだ1区の敗因を徹底的に分析すべきだ。1区で下地に塩を送ったことで4区に勝利がもたらされた可能性はあるが、かりゆしや金秀の動きも含めて総合的に評価する姿勢が必要である。目先の利得を求めるような姿勢や保険をかけるような姿勢で選挙に臨む保守勢力の「談合体質」は、彼らが本来支持している自民党の安保政策を危険に晒す可能性が高いことをしっかり認識すべきだろう。闘う相手を間違えている。

(5)他方、オール沖縄の側も安泰ではない。翁長知事の体力、指導力の低下は顕著で、オール沖縄の弱体化を招いている。同時にオール沖縄各党派の組織力も、運動員や活動家の高齢化と消耗により、大きく弱体化しつつある。一区の勝利は、むしろ敵失による「僥倖」と捉えるべきだろう。自民側の事実上の「分裂選挙」が赤嶺政賢の勝因である。ラッキーだっただけ、ということだ。今後、もし翁長「後継」を立てるなら、それを早めに明確化して準備しないと来年の知事選に勝利する保証はない。次期衆院選を考えると、2区・照屋寛徳後継も早めに選んで活動を展開すべきだろう。自民党が上手に対応してきたら、次回衆院選では、1区、2区、4区の3選挙区を失いかねない。

(6)高江のヘリ事故の影響は無党派層の一部に留まるものの、自民票を一定程度減らしたことは間違いない。事故そのものよりも事故後に米軍が取った対応が票を減らした可能性が大きい。警察や防衛局を無視した一方的とも思える事故処理や選挙期間中の飛行再開など米軍の対応は選挙に対する配慮を欠いたものだった。政府や沖縄選自民党国会議員も手をこまねいていたわけではないが、米軍との意思疎通は必ずしも十分ではなかった。「日米地位協定」の壁は厚かったというのは言い訳にすぎない。今回のような米軍の対応を正すのは、地位協定以前の問題であり、米軍との日常的な折衝を強化すべきだ。

(7)比例について。選挙区区割り変更で、九州地区で3選挙区が消滅し、現職3議員が宙に浮くかたちになった。自民党はこれら3議員を比例名簿1〜3位に固定したが、その煽りを受けて比例重複の沖縄2議員(宮崎政久・比嘉奈津美)が圏外にはみ出してしまった。また、比例の定員が1減となったことも影響している。維新比例で復活当選した下地の選挙上手には脱帽だが、社民党比例当選1議席は、沖縄での照屋寛徳人気に支えられているのが現状なので、照屋寛徳が引退したとたん、社民党は唯一の選挙区議席だけでなく、九州地区の比例議席も失う公算が高い。

(8)沖縄1区で当選した共産党・赤嶺陣営は、選挙違反(選挙期間前の宣伝車による連呼行為、期間前・期間中における候補者名を書いたのぼりを掲げた街頭行進と候補者名連呼)を公然と行い、赤嶺氏自身が、池上彰氏がMCを務めるテレビ東京の開票番組で違反の事実を認めてしまっている。各陣営で違反行為は横行しており、沖縄は「選挙特区」といわれるほどだが、候補者自身がTVのインタビューに答えて、違反を認めたことはない。共産党県委員会は「公選法が悪い」との姿勢である。司法警察当局は、事前運動などの軽微な違反には警告を発するだけに留まっているが、これでは真面目に選挙運動に取り組む候補がバカを見ることになるので。これを機に「けじめ」をつけないと「選挙特区状態」は永遠に変わらない。

 

【個別選挙区の動向】

沖縄1区 赤嶺政賢(共産党)当選

(1)かりゆしグループが、1区のみ「自民支持」を打ちだした(他区では「オール沖縄」を支援)。

(2)金秀グループは、グループ内を赤嶺支援と下地幹郎(維新)支援の二つに分けて選挙に臨んだ。

(3)自民から国場幸之助が立候補しているにもかかわらず、国場組は、県建設業協会の決定に従い「下地支援」で動いた(自民分裂)。

(4)共産党は前回にも増して運動員を投入し、「赤嶺議席死守」の態勢で臨んだ。
結果的に、かりゆし、金秀、建設業協会の票が、予定通り動いたかどうかあやしい。各組織体から選挙運動に対する具体的な支援はなく、ほぼ「自主投票」のような状態だった。とりわけ「かりゆし票」が国場に票の上乗せをもたらしたかどうか疑問である。平良朝敬氏の「ポーズだけ」だった可能性もある。事前には「国場有利」の観測も流れたが、最終的にはすっかり裏切られる結果となった。「自民の組織票」とはいったい何なのかを再考させる選挙となった。ただし、建設業協会が下地支援を打ちだしたこととバーターで、下地企業である大米建設関連の宮古島票が4区自民の西銘恒三郎に集中した。自民党は、結果的に1区を捨てて4区を取ったかっこうだ。

沖縄2区 照屋寛徳(社民党)当選

(1)照屋寛徳(「オール沖縄」が支援)は体調が優れず、呂律もますます怪しい状態で、選挙運動の最前線に立つこともあまりなかったが、社民・社大系の県会・市会議員が危機感を持って積極的に動き回り、組織票・個人票を十分に固めて闘った。

(2)自民・宮崎政久は、国会法務委員会などで活躍してきたが、国会での活動は沖縄メディアではほとんど報道されず、知名度の浸透に難があった。

(3)宮崎は「さあ行こう、その先へ」や「世代交替」を掲げて闘ったが、2区における圧倒的な寛徳人気に道を塞がれたかっこうだ。安里繁信あんしんグループ代表、松本浦添市長、佐喜真宜野湾市長などを中心とした地道な選挙運動により、前回より1万2千票も積み増ししたが、寛徳側も6千票を上乗せするなどその壁は厚かった。手となり足となって運動をサポートする自民党地方議員が少ないことも敗因の一つである(保守系議員の多くは無所属)。先の浦添市長選挙における保守の側の捻れ(下地議員がオール沖縄側候補を支援)の影響があった可能性はある。

(4)今後、照屋寛徳の引退に備えて、2区自民党は、既得権益に捕らわれない地道な地域活動を展開する必要がある。日本会議のように地域の実情から乖離した政治活動ではなく、自民党の側から草の根的な市民運動を起こすのも一つの手だ。次回衆院選では、松本浦添市長、佐喜真宜野湾市長などが2区候補として浮上する可能性はあるが、現状の得票分布を見ると、いずれにせよ厳しい選挙になると予想される。

沖縄3区 玉城デニー(無所属・自由党幹事長)当選

(1)自民・比嘉奈津美は、圧倒的な玉城デニー(無所属・オール沖縄)人気を覆すことができなかった。玉城は、今回の無所属立候補も含めて所属党派を転々と変えてきた議員だが、最弱政党ながら自由党で幹事長を務めるなど、その知名度は高く、「辺野古反対」に連動した選挙活動も結果的に「有効」だった。

(2)比嘉奈津美自身は、永田町・霞ヶ関で積極的な政治活動を展開してきたが、宮崎同様、沖縄ではその事実は報道されず、知名度の浸透に難があった。

(3)玉城の年齢を考えると、次期衆院選でも自民党が勝利する公算は小さい。2区同様、地域に密着した日常的な政治活動を展開しながら、無党派層を掘り起こす必要がある。

沖縄4区 西銘恒三郎(自民党)当選

(1)事前の予測通り、西銘が勝利し、自民党が議席を「奪還」したかっこうだが、宮古島の票が勝敗を決したといってよい。

(2)建設業協会が1区で下地を支援したこととバーターで、宮古島に地盤を持つ下地側(大末建設)が西銘支援の方向で動いたことが大きい。

(3)「オール沖縄」仲里利信は高齢であり、任期通り来年選挙が行われれば引退する予定だったが、今回は急な選挙戦で後継候補を見つける余裕がなかった。仲里はやむなく出馬したが、どちらかといえば中途半端な選挙運動に終わった。

(4)次期衆院選で、オール沖縄側からどのような候補が出てくるか未定だが、自民党側もいつまでも宮古島頼みの選挙戦を展開するわけにもいかず、地域密着型の日常的な政治活動により、無党派層の票の掘り起こしをはかる必要がある。

批評.COM  篠原章
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