米中「北」の核で手打ちか?ー「北」核実験場崩落報道をめぐって

10月31日、TV朝日が「北朝鮮 6回目の核実験後に大規模崩落 200人死亡か」と報道し、朝日新聞も関連記事(「北朝鮮追加核実験で放射性物質漏出も 北海道に届く恐れ」)を掲載しました(ただし、NHKやロイターなど海外メディアもTV朝日報道を受けてニュースを配信)。

北朝鮮北東部・(プンゲリ)の核実験場での崩落事故については、9月23日に朝鮮半島で起きた地震に関連して、同日、産経新聞が、韓国内の報道を紹介するかたちでその可能性を指摘していましたが(〈北の核実験場近くでM3.2 情報錯綜「爆発」「自然地震」「坑道崩落」〉)、米中国両政府も件の事故を以前から察知しているはずですが、今のところ公表していません。ただし、10月28日付のサウスチャイナモーニングポスト紙(香港)によれば、中国の地質学者が北朝鮮の地質学者に対して、今後核実験を続ければ、崩落事故による放射能噴出の可能性があると警告しています(読売新聞10月30日付記事「北の核実験場で放射能漏れの恐れ、中国側が警告」より)。

当の北朝鮮はどうかというと、9月21日には同国の李容浩(リ・ヨンホ)外相がニューヨークで「史上最大の水素爆弾の実験」を「太平洋上でやる」ことを示唆していますから(10月25日、この発言を北朝鮮外務省高官も確認)、北朝鮮も豊渓里(プンゲリ)の核実験場が限界に達していることは認識していたと思われます(結局、坑道崩落事故は起こりました)。

以上を整理すると、

9月3日   北朝鮮、最大規模の核実験(水爆と推定)。
9月21日  北朝鮮外相、太平洋での核実験を示唆
9月23日  核実験場で坑道崩落事故と地震が発生
10月25日 北朝鮮外務省高官が、9月21日の北朝鮮外相発言(太平洋での核実験)を確認(CNN報道)
10月28日 中国が北朝鮮に実験場での放射能噴出を警告
10月31日 TV朝日が、消息筋の話として大規模な坑道崩落事故が発生したことを報道
10月31日 朝日新聞が、今後の崩落事故に伴い北海道・アラスカまで放射能汚染される可能性を指摘

という流れになります。

米中両政府が、過去の事故や今後の事故の可能性について公式見解を発表していないところを見ると、両政府の間に、「北朝鮮の核」に関する何らかの合意が形成されている、あるいは形成されつつあると考えて良いと思います。

中国は北朝鮮に対して、放射能噴出を理由に今後の豊渓里での核実験にクギを刺し、北朝鮮がこれを受け入れる可能性は高いと思います。ただ、北朝鮮が太平洋上で核実験を強行する可能性は残されており、その場合は米国が北朝鮮を叩き、中国はこれを黙認するというシナリオができあがっているのではないでしょうか(米国の代わりに中国が北朝鮮を叩くこともあり得ます)。

日本では大きく報道されていないようですが、昨日、もうひとつきわめて重要なニュースが流れました(たとえば11月1日付朝鮮日報社説「韓国の主権も再発防止策もない韓中THAAD合意」を参照)。中韓両政府の間で、「これ以上のTHAAD配備は行わない」「日米韓軍事同盟はつくらない」といった合意が形成されたというのです。THAADは現在1基しか配備されていませんが、3基以上配備しないと役に立たないといわれています。にもかかわらず、こうした合意が形成され、米国政府もとくに批判していないところを見ると、北朝鮮の核問題については「米国と中国が責任を持つ」ことが明確になりつつあるのだと思います。

簡単にいえば、米中は北朝鮮の核をめぐり「手打ち」の段階に入りつつあり、日韓両政府もこれに従うことになっているのではないでしょうか。トランプ米大統領の東アジア(日韓中)歴訪は、こうした段取りを最終確認・最終調整するツアーになると思います。中韓も、トランプ東アジア訪問直後にベトナムで開催されるAPEC総会で、あらためてこのシナリオを確認することになるでしょう。おそらく2月9日から平昌(ピョンチャン)で開催される五輪冬季大会が終わるまでは、北朝鮮は核開発を中断し、抑制的に行動するでしょう。

つまり、北朝鮮の核問題は、一時的に棚上げされるということです。現段階では現実的な対応かもしれませんが、金正恩体制が継続する限り、東アジアの不安定な状態に変わりはありません。平昌(ピョンチャン)五輪以後に、新しい動きがあるかもしれません。

批評.COM  篠原章
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