コザで目覚めたい、ナハで微睡みたい

沖縄県港区六本木コザシティ

明け方近く寝汗で目が覚めた。いつものようにリヴィングの板敷きの床、テレビをつけっぱなしにしたままだ。9月に入っても連日30度を超えている。東京に居ながらにして沖縄の9月を体験できるとは、ぼくにとっては嬉しい異常気象だが、みなは心配している。「世紀末だね」「なにか起こらなきゃいいねえ」「暑い夏は必ず何かが起こる」沖縄に行けないぼくを 神々が慰めていてくれるだけ、と思いたい。

目が覚めた、といってもまだ2時間ぐらいしか寝ていない。あらためてベッドに潜り込み、寝返りを繰り返しながらいつのまにか意識を失った。

コンパらしい。数人の学生とはしゃぎながら飲み歩いている。見知らぬ街だ。一団のなかにアムロ系の美少女がいる。名前すら思い出せないのに、この子のことはよく知っているという気分なのだ。ゼミの学生なのかそうでないのかもよくわからないが、旧知の少女なのだ。その子がやたらと気になる。「さあて、そろそろ行かなきゃ」と唐突に言い出したのはぼくだった。少女は示し合わせたように「私も方向が一緒だから」といってついてくる。最初から二人きりになる予定だったのだ。

場面は赤坂の溜池らしき場所に変わっている。そういえば車で来たんだ、車を探さなきゃと思う。たしか六本木通りを渋谷方向に向かって右側の、“いつもの”パーキングに置いてあるはずだ。あそこには弟もしょっちゅう駐車している。人家のパーキングなのだがとがめられたことはない、などと考えている。そんなパーキングは実在しないのだが、そう思いこんでいる。六本木通りを西に向かって進むうちコザに出て、胡屋大通りをコザ十字路から胡屋十字路に向かって上っている。道沿いにあるのはコンクリートを打ち放しにしたようなぶっきらぼうな建物ばかりだ。空き地があちこちにあって、道路もぼこぼこしている。そうだ、この辺りに車を置いたんだ。車を置いたのはデイゴホテル の近くの民家のパーキングだったんだと思う。少女と話しながら歩いているのだが、その会話はよく思い出せない。が、その最中もこの子のことはよく知っていると思いつづけている。たしかランドマークタワーのよく見える横浜市西区に住んでいるんだ。あまり家に帰らない子だったな。俺に内緒で何をしてるんだか、 などとときめいたり嫉妬したりしている。物欲しげな中年おやじである。

寺があった。上野の寛永寺に似ているがそうではなさそうだ。この寺の鐘楼にのぼらなきゃいけない。張り切って上る。彼女も後から上ってくる。上るといっても鐘楼の屋根だから立つこともできない。すぐに降りざるをえない。彼女から先に降りる。が、大胆にも途中から飛び降りてしまった。軽く5メートルはあるのに。水色のハイヒールが地面に突き刺さる。うわっやばい、怪我しちゃうと心配するが、「私は大丈夫」といって痛みをこらえながら笑っている。いい子である。

再び六本木通りを歩いている。「ごめんね、車が見つからなくて」といいながら愛おしくなって彼女を抱きしめる。彼女には拒むようすもない。抱きしめながら相変わらず「ぼくはこの子を知っている」と思い、愛してしまったらどうしようなどとときめいてもいる。

「横浜まで帰るんだよね」
「いやねえ、週末は築地だっていったでしょ」

あっ、そうか週末は築地だったよなとぼくは納得している。なぜ忘れたんだろうそんな大事なことをとも思っている。ちなみに築地はわが妻の実家がある場所である。

とにかく車を探さなきゃならない。開南(那覇の公設市場・農連市場の近くで南部行きのバスターミナルがある)の交差点に出た。あの路地を抜けるとすぐにデイゴホテルがあるはずだ。そうだ、デイゴホテルでお茶でも飲んで待っていてもらおう。那覇とコザと六本木がすっかり混在している。

「近くにデイゴホテルっていうホテルがあるから、そこでお茶でも飲んで待っててよ。君が待っている間に車をさがしてくるから」

彼女は不安なようすである。

「大丈夫、デイゴの女将はいい人だから。仲宗根さんていうフロントの人もやさしいよ。コーヒーはいまいちだけどね」

そういいながらも、ホテルに行ったらこの子との関係を疑われるかもしれない、などと気分はすっかり不倫である。
デイゴの玄関をくぐろうとするのだが、人で溢れかえっていて入れない。
常連らしき人物が耳打ちしてくれる。

「ここの社長がアイドルになったもんで、取材陣でごった返してるんだよ」
「アイドル?やっぱりそうなっちゃったの。予測はしていたけど」

などとこたえながら、ロビーの奧を見ると妻のワンピースが何着も天井からぶら下がっている。これじゃ彼女の身の置き場がない。さてどうしよう。

目が覚めるとベッドの上、視界にはクローゼットにぶら下がる妻のワンピース。夢だったんだ、沖縄県港区六本木コザシティ。でもぼくは彼女を知っている。まどろみながらなおそう思っている。ゼミの名簿にも住所録にも出てこない、名も知らぬ彼女をぼくは知っている。

批評.COM  篠原章
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