本音で考える浦添市長選 —「埋め立てLOVE」の沖縄は変わるか?

軍港移設の是非が争点?

浦添市長選は現職・松本哲治候補が、元共産党市議・伊礼ゆうき候補を下して3選を決めた。当選した松本氏には祝意を表しておきたい。松本氏には初当選の時からビジョンのある行政マンとして多くを期待しているから、選挙中にはあえて触れなかったが、終わったから本音を書く。

今回は「那覇軍港の浦添移設」が争点だと、地元メディアは報道していた。だが、それは誤った誘導だ。那覇軍港の移設計画を含む西洲(いりじま)、つまり浦添西海岸の埋め立てを伴う再開発に市民がゴーを出すのかどうかが注目されてしかるべきだった。浦添西海岸開発面積は187ヘクタール、うち軍港は49ヘクタールと、埋め立て全体のわずか26%である。にもかかわらず「軍港移設の賛否が争点」とメディアは誘導し、玉城デニー知事も含むオール沖縄もそれに乗っかった。だが、それは本質的な問題ではない。

埋め立てLOVEな沖縄

沖縄県は1972年以降、東京、大阪を除くと最も面積が増えた県である。つまり、他県に比べて埋め立てLOVEの傾向が強いといえる。土地の狭い島嶼県だから、必要な埋め立てもあるだろう。だが、埋め立てたはいいものの、そのまま利用されずに放置されている土地も多い。

浦添には274ヘクタール、市域の14・5%を占めるキャンプキンザーがあり、2025年以降返還されることが決まっている。キンザーの跡地には地主の利害が絡む私有地が含まれているから、利害の調整には困難な付きまとうだろうが、浦添市にとって有効利用できる大きな資源である。キンザーと西海岸は隣り合わせだから、一体的な開発ができれば187ヘクタールもの埋め立ては不要となる可能性がある。したがって、埋め立てという行為そのものの是非、埋め立ての適正規模こそ浦添市の課題だと思う。しかしながら、今回の市長選でも、過去の市長選と同じく、それはまったく問題にならなかった。「沖縄は今も昔も埋め立てLOVE」ということをあらためて思い知らされた、というのが、選挙を終えてのもっとも率直な感想である。

移設容認派も移設反対派も、沖縄に残された希少な干潟・珊瑚礁のある西洲の海を、辺野古(埋め立て面積約150ヘクタール)より30ヘクタール近くも余計に埋め立てることが市民・沖縄県民にとって本当に必要なことか、埋め立てが認められるとしてもその規模は適正か、といった議論は一度も持ちださなかった

松本候補は、埋め立てを市の再開発計画の一環として捉えていた。那覇軍港の移設は埋め立てのほんの一部であるとの認識はあった。埋め立て面積も縮小したプランは出した。だが、埋め立て事業のもたらす本質的な問題点には触れていない。対する伊礼候補は「浦添の海を守れ」といったが、それは「浦添に軍事基地は要らない」という政治的観点からの自然保護論で、浦添の海のことを本気で考えていたわけではない。

無茶苦茶な玉城知事

西洲はすでに一部埋め立てられ那覇港の港湾機能の一部を担っているが、さらに187ヘクタールを埋め立てることの合理性と正当性について、本来なら那覇港管理組合の管理者・玉城デニー沖縄県知事がいちばんしっかりとした認識と展望をもっていなければならない。

だが、デニー知事にはそんな認識も展望もない。自分が責任者であるという自覚すらない。軍港移設に反対の素振りをしながら、埋立を伴う再開発計画にゴーを出している。軍港移設を止めさせ、埋め立てだけは推進する気だったのか。無茶苦茶である。基地の賛否ばかりにこだわる知事とメディアの姿勢は、埋め立てを正当化するための目くらましにすぎないのではないか、と思えてくる。

今さらもう埋め立てのもたらすマイナスの効果を検証しろ、といっても誰も耳を貸さないだろうが、せめてしっかりした環境影響評価を実施した後、埋め立て規模と最適な埋め立て方法を、知事と国と市長は知恵を絞って追求して欲しい。

沖縄は自分たちの最大の財産である海を汚し続けてきた。埋め立てがすべていけないなどとけっしていわないが、「必要な埋め立て」「不必要な埋め立て」という区別は確実にある。海という財産の毀損がもっとも小さい方法を真っ先に考えてほしいが、果たしてそれを今の沖縄に期待してよいものだろうか。

批評.COM  篠原章
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