『風街オデッセイ 2021』レビュー Vol. 1(全4回)

2021年11月5日、6日の2日間にわたって日本武道館で開催された『松本隆作詞家生活50周年記念オフィシャル・プロジェクト 風街オデッセイ』についてのレビューを4回に分けて掲載します(合計1万字)。Vol.1と2は11月5日夜に書き上げたものを手直ししたテキスト、Vol.3と4は11月7日から10日にかけて書いたものを手直ししたテキストです。

濃厚な夜

昨夜(2021年11月5日)の『風街オデッセイ2021』(松本 隆 作詞活動50周年記念オフィシャル・プロジェクト/於・日本武道館)の第一夜は予想以上に濃厚だった。

ここ1年あまり「作詞家 松本隆」の露出の度合いが、はっぴいえんどチルドレンであるぼくが心配するほど強烈だったので、筒美京平や小林亜星などといった偉人の逝去も霞んでしまったが、『風街オデッセイ2021』の初日を見るかぎり、日本のポップスのもっとも重要な遺産の一つとして、正しく継承されていると感じることができたし、出演アーティストのもつパワーも存分に発揮されていたと思う。

B’zの「セクシャルバイオレットNO.1」に驚愕

なによりもびっくりしたのはB’zの出演とそのパフォーマンスだった。B’zは、松本隆の出自である「はっぴいえんど+ティン・パン・アレー」の人脈からもっとも遠いところにいるアーティストで、松本隆が絡んだ楽曲もない。出演すること自体がちょっとしたサプライズだったが(実際、B’zの出演は1週間前に公表された)、この7月に発売された亀田誠治プロデュースの松本隆へのトリビュート・アルバム『風街に連れてって!』に亀田の依頼で参加し、松本隆=筒美京平作品「セクシャルバイオレットNO.1」(桑名正博)をカヴァーしたことが伏線となり、今回の出演に至ったようだ。

亀田の紹介で登場したB’zが歌ったのはもちろん「セクシャルバイオレットNO.1」。稲葉浩志が全身で歌い、松本孝弘のギターが炸裂するというB’zのスタイルはそのままに、桑名正博があの世から甦ったような錯覚を覚えた。はっぴいえんど関連のイベントではっぴいえんどにつながらないロックを聴くとはなんという幸福。日本のロックの層の厚さに感謝したい。これまでB’zについてレビューを書いたことはあまりなかったが、大学教員時代のある時期、「ロックといえばB’z」という学生が多数派だったことも思い出して、ちょっとした感慨にも耽ってしまった。

なお、B’zが出演した「亀田コーナー」の時間帯には、クレージーケンバンドの横山剣も出演し、『風街に連れてって!』に収録の「ルビーの指環」を披露した。本家の寺尾聰よりやや「やさぐれ」っぽいテイストだが、これが横山の持ち味である。そういえばプロデューサーの亀田は我が同級生・武部聡志のハーフトーン・ミュージックの所属だ。武部が寺尾聰のバックバンドで頭角を現したことを想いだした。

白いドレスのアグネス・チャン

アグネス・チャンも楽しかった。遠目にはアイドル時代とあまり変わらないように見えた白いドレスのアグネスの歌唱は「想い出の散歩道」(作曲・馬飼野俊一)と「ポケットいっぱいの秘密」(作曲・馬飼野俊一)。この日いちばんノスタルジックな瞬間だった。ファンではなかったのに、ファンだったような気持ちになるから不思議である。ところで、アグネスは自分のアメブロへの書き込みが尋常でない量。1日10回はザラ。この2曲を歌うことも告知されていた。どうやら今日明日にも香港に飛ぶようだ。加油!香港民主化!

松本ッ子を自認する安定の太田裕美、緊張しながらも見事な歌唱を見せた森口博子、いつもどおりパワフルな大橋純子、現役感バリバリの早見優、なぜかただひとりプロンプターが必要だった佐藤竹善、楽しいおじさん(おじいさん)トリオになったイモ欽トリオ、笠浩二(ドラム)と米川英之(ギター)の2人編成だったC−C−B、衰えない美しさの安田成美、それぞれが期待通りのパフォーマンスを見せてくれた。

山下久美子「赤道小町ドキッ」も松本イベントの定番だが、細野晴臣の手になるこの曲は、本当はとても歌いにくい地味な作品で、40万枚の大ヒットとなったのはやはり彼女の声質と歌唱とパフォーマンスのなせるわざだ。そのことを毎回確認できるのは嬉しい。
この夜の歌唱でとくに引きつけられたのは斉藤由貴鈴木瑛美子。かつて斉藤由貴はヘタクソの代名詞だったが、アイドル時代とはまるで違う色香が漂う「初戀」と「卒業」にすっかり打ちのめされてしまった。元アイドルの歌唱にこんな成長を見いだすのは稀なことだ。22歳の鈴木瑛美子の表現力にもしてやられた。武藤彩未とあわせて若手女性シンガーの未来を祝福したくなった。男性シンガーでは川崎鷹也の歌唱力に舌を巻いた(ステージマナーはいまいち)。川崎は亀田の縁での参加となったらしいが、亀田が歌唱中の川崎を見つめる視線に「愛」を感じた(セクシャルな意味じゃない)。

Vol.2に続く

批評.COM  篠原章
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