「国場幸之助vs下地幹郎」の行方(下)

「国場幸之助vs下地幹郎」の行方(上)より

「下地vs国場」は1勝1敗2分け

「下地幹郎vs国場幸之助」という構図が浮上したのは、2009年の総選挙からだ。公明党との調整の末、自民党は、国民新党に入党して立候補した下地氏に対して、県議を二期務めた国場幸之助氏をぶつけてきたのである。だが、下地氏は、当時勢いに乗っていた民主党による推薦を武器に終始優勢に闘い、幸之助氏に1万4千票の差を付けて「下地対国場」の第1戦に勝利するに至った。

ところが、民主党人気の凋落と国民新党の分裂騒動の余波を受け(当時の下地氏は国民新党の幹事長と防災担当国務大臣を兼務していた)、安倍晋三首相が復活した2012年12月の総選挙では、幸之助氏に逆転を許すことになった。下地氏は1万9千票の大差で幸之助氏に敗れ、下野を余儀なくされた。「下地対国場」の第2戦は幸之助氏の勝利だった。

浪人中の2014年11月、下地氏は沖縄県知事選挙に出馬する。現職の仲井眞弘多氏にオール沖縄をバックにした前那覇市長・翁長雄志氏が挑んだことで話題になった知事選だったが、仲井眞氏(261,076票)は翁長氏(360,820票)に10万票近い大差を付けられて敗れている。このとき下地氏は、自ら結党した地域政党の「政党そうぞう」と維新の党の支援を受け69,447票を獲得している。

驚いたことに、下地氏は知事選直後の12月に行われた総選挙に維新の党から出馬する。結果は、赤嶺政賢(当選/共産党・オール沖縄)、国場幸之助(比例復活)に次ぐ3位で、知事選時の得票に及ばない34,328票に終わった。知事選時の選挙態勢をそのまま活用して総選挙に臨むという、下地氏の意表を突いた作戦は、必ずしも功を奏したとはいえなかったが、重複立候補していたため、九州ブロック全体の維新票のおかげで比例復活する。「下地対国場」の第3戦は引き分けに終わった。

翁長雄志氏を頭目とするオール沖縄は、翁長氏の知事当選をきっかけに勢いを増し、2014年の総選挙では全国的に自民党が圧勝したにもかかわらず、沖縄の4選挙区すべてがオール沖縄の議員によって独占された。

2017年の総選挙では、沖縄4区が自民党の西銘恒三郎氏によって「奪還」されたが、他の3区は引き続きオール沖縄の議員が占め、参院選、知事選でもオール沖縄の勝利が続いている。沖縄一区も2014年に続き、共産党の赤嶺政賢氏が60,605票で当選を果たし、自民の幸之助氏が54,468票で次点、維新の下地氏が34,215票で3位に甘んじた。下地・国場の第4戦も引き分けに終わった。幸之助氏も下地氏も2期連続で「比例復活」を遂げたが、自民も維新も「比例復活」に対する評価は低く、次期総選挙で継続して比例重複候補に選ばれるかどうかは微妙な情勢だった。幸之助氏も下地氏も、「次期総選挙での選挙区当選」を目指すようになった。

政治家・下地幹郎の評価

選挙での動向は以上の通りだが、政治家・下地幹郎はどのように評価されているのか。民主党政権下での大臣(防災担当・郵政民営化担当国務大臣)経験、政党(国民新党)での幹事長経験を考慮すれば、沖縄の代議士のなかでは「ピカイチ」というのが一般的な評価である。衆院当選同期の菅首相や「排除された者に対する情に厚い」とされる二階俊博幹事長の覚えもめでたい。その一方で、「自民党→民主党→国民新党→維新の会」と政党を渡り歩いてきた経歴から、「当選のためには軸足を平気で変える政治家」という評価も付きまとう。

熾烈な選挙戦を闘ってきたため、「下地陣営の情報工作には辟易する」といった声も聞かれる。沖縄一区では、公明党や国場氏の支持者からはとくに敬遠されているほか、自民党支持者、反自民勢力支持者の双方から「利権屋」というレッテルを貼られることも多い。選挙区の那覇市や選挙区外(沖縄2区)だが同郷の宮古島出身者の多い浦添市の再開発では、必ずといっていいほど、「この事業は下地利権」といわれる事業が存在する。選挙の度に、「下地がカネをばらまいた」「下地が怪しげなカネを受け取った」という不名誉な噂を流される。

冷静に観察すると、県内外の政治動向・経済動向に目配りする能力が高く、政治家としての資質に優れているからこそ、それを快く思わない人びとが、下地氏を貶めるような噂を流し、レッテルを貼っているケースも珍しくない。

下地氏および下地一族は宮古島出身だが、宮古島出身者には沖縄の政界・経済界で大成功を収める人材が多い。「島」という同調圧力の強い閉ざされた共同体のなかにおいては、「出る杭」が打たれるのは常だが、宮古島出身者には打たれ強く独自の道を歩むことをいとわない資質がある。他島出身者からはその点を疎まれ、嫌われている。ある種の差別にも見える。

政治的状況を的確に判断する能力と、お金の匂いを嗅ぎつける能力は表裏一体である。お金の匂いを嗅ぎつける能力は必ずしも悪徳ではない。むしろ美徳だと思う。この能力は経済動向・景気動向に配慮した政策立案の基礎になるからだ。それによって不正な資金を取得しないかぎり、何の問題もない。下地氏に対するあらぬ評価の多くは、誤解や曲解にもとづくものだといっていいだろう。

対決の結末は?

今のところ自民党本部は、「下地氏の復党を認めない」という県連の判断を尊重する姿勢を見せている。党本部には「下地を生かしたい」という思惑があるというが、今できるとすれば、「菅案件」として下地氏を比例ブロックの単独候補にねじ込むことだけだ。ただ、それを強引にやれば、「他の公党をクビになった人物を自民党は優遇するのか?」という批判が、党内外党から巻き起こることは必須である。

したがって、菅首相が、下地氏を生き残らせることができるのは、県連が方針を転換した場合に限られる。目下、国場幸之助氏の女性をめぐるトラブルを大きく問題化しようという動きもある。仲井眞氏と國場組関係者との個人的なお金の貸借をめぐる民事訴訟を利用して、自民県連の決定に今なお一定の影響力のある同氏の動きを、下地氏にとって有利な方向に導こうとする人びとも出てくる可能性もある。

沖縄一区の保守系候補者がひとりに絞られれば、たとえ国場幸之助支持派と下地幹郎支持派のあいだに亀裂が入り、保守層なのに共産党・赤嶺氏に投票したり、投票自体を棄権する脱落者が出てくるとしても、赤嶺氏の得票可能な約6万票を上回ることはできる。幸之助・下地両氏のこれまでの得票動向を見ると、候補者を一本化すれば最低でも7万票以上を取ることができるからである。ゴタゴタが長引き一本化に手間取れば、あるいは他の有力候補者が出てくれば、3期連続で赤嶺氏に議席を奪われる可能性も否定はできない。

自民党としては、沖縄一区の候補者一本化を最低条件に、強い意思を持って総選挙に臨むことが肝要である。国場幸之助氏を排除した場合のリスクと下地幹郎氏を排除した場合のリスクを天秤にかけた上で、最終的な決定を下すほかない。もっとも、県連は、翁長雄志氏という強力なリーダーシップを持つ選挙上手を欠いてから迷走し続けている(「オール沖縄」も翁長氏の高度な選挙戦略の一環である)。自民党が再び沖縄一区を逃したら、県連に対する保守層の不満は頂点に達し、「第3の候補」を模索する動きも出てくるだろう。まさに県連の存立を賭けた「選択」が問われている。(了)

批評.COM  篠原章
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