警官・教員の不祥事と米兵の暴行事件はどちらが問題か
自慢することではないが、警察内部のことは人よりもよく知っている。立派な警察官もたくさんいる。が、警察官はストレスの多い仕事であることもたしかだ。だから、そのストレスが警官に相応しくない振る舞いにつながって事件になることも少なくない。
2011年に懲戒処分を受けた警察官と警察職員はな んと367人(全国)。そのほとんどが刑法に触れる事案だという。今年になってから報道された事件も調べてみたが、あまりにも多くて整理しきれないので、 とりあえず今月(2012年11月)、発覚したり報道されたりした警察官の「不祥事」を調べてみた。引っかかったのは8件。
◎強制わいせつ容疑の警官を処分ー福岡県警
◎傷害の疑いの警官を処分ー福岡県警
◎不倫相手と勤務中密会=覆面パト使用、警部処分―長崎県警
◎女性の裸体画像をネットに掲示ー埼玉県警
◎「痴漢」で逮捕の巡査長を処分ー警視庁
◎女子高生わいせつの巡査を懲戒免職ー大阪府警
◎捜査車両で下半身露出、女性に見せつけるー大阪府警
◎巡査長、隣人女性盗撮—大阪府警
これ以外に、神奈川県警のネット犯罪に関わる誤認逮捕や逗子ストーカー殺人に関わる被害者女性の個人情報漏洩など、公務中のミスも報道されているが、公務中のものはここでは除外してある。
ネット上で簡単に調べがついた事件だけで1か月に8 件。多いか少ないかといえば、国民の生命身体や財産を守る仕事だけに「多い」といわざるをえないだろう。今月についていえば大阪府警や福岡県警が目立つ が、ここ数年は神奈川県警の不祥事が問題になっているらしい。Wikipediaで「神奈川県警不祥事問題」という項目が立つほどである。NHKのアナウ ンサーなどメディアに勤務する人の痴漢行為も話題になるが、取り締まる側が取り締まられるわけだから、国民にとっては警察官の犯罪のほうがはるかに重い。
ネットではこうした警察官の不祥事は大きな話題になっているが、不祥事の多い神奈川県、大阪府、福岡県において、警察に「綱紀粛正」を求める市民(県民)の大規模な抗議活動が行われたとは聴いていない。
今月の教員の不祥事についても同じようにネット情報を整理してみた。おもなもので10件。逗子ストーカー殺人(神奈川県)の自殺した容疑者は元教員だが、もちろんこれは除外している。
◎女子トイレ盗撮、起訴された教諭を処分 宮城
◎殺人未遂容疑で小学校教諭逮捕=長男の首絞める 鹿児島
◎教え子にわいせつ行為の県立高教諭、懲戒免職処分 鳥取
◎わいせつ行為:中学教諭懲戒免 鹿児島
◎セクハラ:生徒に 中学教諭を免職 東京
◎懲戒処分:わいせつDVD販売の教諭停職 栃木
◎不法投棄:家庭ごみ13袋 県立高教諭を処分 青森
◎住居侵入の小学校教諭を減給処分 大阪
◎無免許運転17年間 県立高校教諭を処分 滋賀
◎元中学教諭の盗撮:県教委が塩尻市教委を指導 長野
なぜこんなことを書くのかというと、沖縄での米兵の犯罪があまりにも大きく問題視されているからである。
米兵の凶悪犯は2007年から2011年までの5年間で30件余り(沖縄の事件が占める比率は約60%)。うち殺人・強姦は10件弱だが、被害者の大半は外国人である。「実感と違う」という人もいるだろう。だが、これが実態だ。
警察官や教員の事件との単純比較はできないにして も、米兵=犯罪予備軍のような扱いをするのはどう考えても行き過ぎである。「ドイツ駐留米軍の地位協定に比べて日米地位協定は不十分だ」という議論も承知 している。だが、日米同盟を必ずしも全面的に支持していないぼくでさえ、在日米軍が犯罪の温床であるかのように騒ぎ立てるのはまったく「不公平」だと考え る。警察官や教員・公務員の犯罪を問題にするほうが、国民・県民にとってはるかに有益である。
米軍・米兵に対して、現行法の範囲内で処分や補償を 求めるのは当然としても、在日米軍を「好戦的な人殺し集団」として扱い、日米同盟や安全保障の問題と一緒くたに語る風潮は、どう考えても納得できない。警 官や教員の事件が問題視されないのに、米兵だけは徹底的に追及される。こんな不公平・不公正なことを、いつまでも放置してはいけない。
以前に触れたように▼、 米兵の事件・事故の減少という中長期的な趨勢は、米軍による綱紀粛正が効果を挙げている事実を示唆している。米兵の犯罪を過大に問題視する人たちは、米兵 の犯罪は「日米関係」や「沖縄の対米関係」にヒビを入れる、と主張しているが、実態は真逆である。彼らこそ、米軍・米兵を不当に扱うことによって、「日米 関係」や「沖縄の対米関係」にヒビを入れている張本人である。なによりも残念なのは、個人の犯罪を組織の犯罪とすり替え、日米関係・安全保障や基地問題に ついて、冷静な議論ができない環境をつくりだしている無責任さである。