東京都知事選 4候補討論会(JC主催)観戦記〜 A Debate between Leading Four Candidates for Tokyo Gubernatorial Election

JC(東京青年会議所)の主催した東京都知事選4候補討論会(6月24日)を観た。今回は候補者が多すぎて、4年前のような全候補者の寸評はできない。その代わり討論会の「観戦記」を記録しておきたいと思う。

守勢に回った現職・小池ゆりこ候補の受け答えは、石丸伸二候補や蓮舫候補の斬り込みをかわしながら視聴者(都民)を丸めこんでいく(説得していく?)という小池さん独自のスタイルによるもので、それはまるで「<予定調和>の世界を演出するのは私よ」という「自信」に裏づけられた女優の確信に近い。だが、実のところそれはあり合わせの端布で大きく破れた穴を必死に塞ぐようともので、穴を塞ぐことは上手にできなかったと思う。

たとえば、小池さんは迂闊にも(「よせばいいのに」と思ったが…)「コンドラチェフの波」(50年周期で景気は変動するという景気循環論の一大仮説)という専門用語を使って他候補を煙に巻こうとしたが、案の定、石丸さんに「経済には循環と構造があるが、小池さんはそこをごちゃ混ぜにしている」と突っこまれた。すると、小池さんは「太陽黒点説」(太陽の黒点の増減が景気を左右するという仮説)を持ちだして、石丸さんの突っ込みをかわそうとした。石丸さんの世代は太陽黒点説などという古色蒼然たる仮説なんか教わっていないから、石丸さんが「知らない」と答えると、「あなた知らないの?」と鬼の頸を獲ったような顔をしていた。

経済学の素養のあまりない視聴者なら、この場面で「小池の勝ち!」と感じたかもしれないが、太陽黒点説は農業が経済の主役だった時代に生みだされたふるーい仮説だから、こんな場で持ちだしてドヤ顔するような専門用語ではない。小池さんの正体がこれで見えてしまったと感じた視聴者も少なからずいたはずだ。

「コンドラチェフの波」も「太陽黒点説」も、東京経済の盛衰とはほとんど関係ない。問題の本質とは関係ない難しいターム(多くは横文字)を持ちだして煙に巻いていくのが小池さんの常套手段だが、多くの都民はもうそれに気づき始めている。

そのことをいちばんわかっているのは小池さん自身だと思うが、意外にさばさばした顔で明日からの選挙戦にまた臨むだろう。小池さんに他候補にまさる「強み」があるとすれば、まさにこういう鉄面皮なところだ。

蓮舫さんは、誰かに意見されたのか、すっかりソフトな路線に転換していた。国会での追及時と違って満面の笑顔を披露し、小池さんの「成果」を尊重するような素振りを見せながら発言していたが(これも蓮舫さんの戦術である)、彼女の正体もあまり変わっていないと見た。

東京都でもまた「仕分け」をやるという。だが、それが東京経済に貢献するとは思えない。仕分けによって少子化対策若者の貧困対策のための財源を作るというが、所得分配の原資となる経済的フローは、産業の創出・成長によってしか生まれない。つまり、東京経済の足腰の強化こそ肝要なのだ。その手法こそ問われるべきところだが、蓮舫さんは、柔和そうに見える(引きつった?)笑顔で、少子化対策、福祉、環境(神宮外苑再開発)のことばかり語る。つまり経済や産業にはからきし弱い蓮舫さんの正体が垣間見えている。蓮舫さんが光ったのは。小池さんを「ウソつき」呼ばわりした瞬間ぐらいか。蓮舫さんにはやはり攻撃的な姿のほうが似合うが、都知事になってからもあの勢いでやられたらなあ、という一抹の不安は残る。

田母神としお候補の場合、生き生きとしてくるのは国防を語るときだ。経済政策的には「政府支出をもっと増やせ」というケインジアン的な姿勢を貫き、若者の貧困、都民の実質所得減もそれによって改善できるという立場だった。自衛隊の司令官として政府と対峙・交渉するほうが似合ってはいるが、日本国に対する思いは誰よりも深い、という自負を持っているのだろう。「アメリカ批判」を展開する田母神さんに、良い意味での「(国民のために命を惜しまないという)帝国軍人」の片鱗を見た。

そして石丸候補。なお青臭さは残っているが受け答えは的確かつ合理的だ。発言の機会は他候補よりも多かったが、そうした「出しゃばりも許せる」と感じた視聴者も多かったはずだ。その見かけを「ナチスの青年将校みたい」と評した人もいるが、彼に、日本をファシズムに変えるほどの過剰な熱量はないだろう。石丸さんの正体は依然として不明だが、失敗はしても「馬脚を現す」ことはないと信じたい。

これら4候補以外ではゴトウテルキ(後藤輝樹)候補が気になってしょうがない。4年前、8年前の都知事選にも出馬しているが、そのときぼくは「泡沫候補業界のニューウェイブ」と書いた。今回も他の「泡沫候補」(失礼!)とはひと味違う。結婚して、明らかに成長の跡が見られ、もはや泡沫候補としての貫禄さえ備わっている。篠原は「何票とるか」に関心があるのではなく、後藤の行く末にこそ関心がある。マック赤坂のように自治体議員なるのか、又吉イエスのように闘いぬいて散るのか。ちょっとした見ものである。

以下は上記4候補+後藤候補の選挙公報

小池ゆりこ選挙公報

石丸伸二選挙公報

田母神としお選挙公報

蓮舫選挙公報

後藤輝樹選挙公報

批評.COM  篠原章
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