野党連携の誤算 — 国民の「左派警戒感」が露わとなった総選挙

バランスの取れた有権者の判断

今回の総選挙では、選挙をめぐる世論調査、出口調査にずいぶん引っ張られることになった。調査は、序盤、中盤、終盤と、ころころ変わった。結果的に、選挙前の自分自身の「勘」にいちばん近い勢力図になったが、当てににならないものを参考にしてSNSに書きこんだことは反省材料だ。

デモクラシーには衆愚政治という意味もあるが、総括的にいうと、今回の総選挙では、日本の有権者はかなりバランスのとれた判断をしたと思う。動いた票の多くは自民党から日本維新の会に流れたもので、「保守または中道」を指向する有権者に大きな変動はない。2議席減った共産党の票はれいわ新選組に食われただけ、立憲民主党は自民に一部の議席を取りもどされるというおまけまでついて、最終的には自民+無所属与党系264で改選前より19議席減、立憲+無所属野党系113で改選前より11議席減で、合計30議席減は維新の30議席増に見事に対応している。形式的にいえば欠員4と不出馬1があり、これは公明3議席増、国民民主3議席増にほぼ対応する。

ジジイたちの温存に「成功」した野党共闘

立民、共産などによる野党共闘は「ある程度の成果があった」と当事者たちは自画自賛しているが、それは完全な間違いだ。彼らは甘利明、石原伸晃などといった大物自民議員の選挙区落選を受けて成果があったと判断しているようだが、この野党共闘の最大の成果は、小沢一郎、菅直人、江田憲司などといった「お爺さん有力者」を落選させなかったことにある。敵地攻撃には失敗したが、自陣防御には何とか成功したというにすぎない。

共闘に参加したれいわの山本太郎は「野党共闘の見直し」を口にしているが、当然といえば当然の判断である。お世辞にも前向きの共闘とはいえなかった。野党共闘は事実上失敗したのである。これを機に、立憲民主党は枝野=福山体制を葬り去り、思い切って小川淳也などのより若手をリーダーとした体制に移行したほうがいい。

左派には警戒的だが疑惑には甘くない有権者

甘利幹事長の選挙区落選については、横浜市長選を機に活動家に転じた郷原信郎弁護士の落選運動がかなりの程度影響したと思う。郷原弁護士は立民・江田憲司の落選運動も展開したが、こちらは思惑通りに進まなかった。しかし、それは野党共闘があったからで、共闘がなければ江田は落選した可能性が高い。日本の有権者は、左派には警戒的だが、疑惑には甘くない。神奈川県のような都市化が進んだ選挙区ではとくにそうだ。甘利は、前回の選挙で「ミソギは済んだ」との判断だったのだろうが、ネットで検索すれば疑惑はたちまち甦る。郷原の落選運動はそのきっかけになったと思う。

オール沖縄の崩壊

沖縄3区で自民・島尻安伊子が当選し、立民・屋良朝博が落選したのも、疑惑で傷だらけになっていた屋良を忌避する有権者が一定程度存在したことの証だ。ただし、沖縄の有権者にも左派警戒的な流れが戻っており、翁長雄志元知事が辺野古反対を合い言葉にオール沖縄という保革連合を率いて連勝していた時代はもはや過去の話になりつつある。自公が議席を得たのは沖縄3区と4区だが、得票全体を見ると、1区と2区でも保守票(下地幹郎票・山川泰博票含む)が革新票を上回っているもはやオール沖縄は崩壊したと見てよい。この流れはおそらく来年の名護市長選、那覇市長選、沖縄県知事選へと引き継がれる。

左派路線の失敗

立憲民主党の枝野幸男や福山哲郎が左派的な発言をすればするほど、日本の有権者の左派警戒感は高まる。辻元清美の落選がその証しの一つである。自公体制容認の有権者はぶれにくくなり、「自民はちょっとイヤ」という有権者は維新に引きつけられる(一部は国民民主に流れる)。左派であることを隠そうとしないれいわの支持は増えるだろうが、その支持者層に厚みはなく、共産党とバッティングすることになる。

地方発の新しい流れは生まれるか

ただ、いわゆる無党派層の中には、与野党問わず既存政党(れいわも含む)の政治手法に飽き飽きしている有権者も多く、今後、地方政治から新しい流れを作ろうとする人たちが続々出てくるとは思う。その流れが国政を左右するほど大きくなるかどうかは未知数だが(維新はその流れに片足が入っているが既存政党から漏れ出た政治家も多い)、今後注目していきたいと思う。

 

 
批評.COM  篠原章
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