オバマ再選は中国と「日本の革新勢力」を追いつめる

オバマ再選で、日本の保守派の人たちも少なからず落胆しているという。民主党は尖閣問題で弱腰だから、というのが主な理由である。ネット上で検索しても、ほとんどのメディアが、「中国はオバマ再選を喜んでいる」と報じている。

 が、「中国首脳はオバマ当選を祝福した」というのは あくまで表面的な話である。中国にとってはロムニーのほうがオバマよりはるか御しやすかったのである。この点については、復旦大学アメリカ研究センターの 沈丁立 SHEN DINGLI 教授も”Foreign Policy”誌上で詳しく述べている。 オバマのほうがロムニーよりも中国の国益を損なうという、ちょっとした警告である。ロムニーは「金の流れ=経済」にもとづいたシンプルな世界観をもってい るから、反中国的な主張はあっても、中国側が相互の経済的利益を強調すれば、最終的に制御できると見ている。これに対してオバマは「中国の脅威」を強調し ながら米軍再編を進めている。沈教授は「中国の脅威というのは妄想である」といいたけだが、オバマは再選後もその政策を変えないだろうと予測している。

 実際、ロムニーが中国に投資していることは、オバマ とのテレビ討論でも明らかになっている。ロムニーは中国の為替操作を激しく攻撃したが、大統領になればその政策を簡単に取り下げただろう。ロムニーは「儲 けられれば」いいのだから、中国がロムニーの権益を保証すれば、自らの政策を中国の意向をくんで骨抜きにするくらい、なんとも思わないはずである。つま り、尖閣問題でロムニーが強硬な姿勢を示す可能性はきわめて低かったのである。

 だからといって、オバマが尖閣問題で強硬な姿勢を示 すわけでもないが、少なくともオバマは「金だけで動く」男ではない。米中貿易にはある程度熱意を見せるだろうが、中国の脅威を唱えつつ、人権や民主主義も 口にするはずである。その意味で中国にとってはやりにくい大統領ということになろう。

 結局、尖閣問題を抱える日本にとってはオバマのほうが「マシ」ということになるが、原発、基地問題、TPPについては、どちらがなっても大差はないのだ。

 日本の「革新派」の活動家たちはオバマ再選を喜んで いるようだが、実のところ対米関係ではこれからも気が抜けない状態がつづく。「革新派」が望むような基地再編・縮小は簡単には起こりえないし、首脳会談が あれば、オバマはオスプレイを自衛隊に売り込むはずだ。日本が「TPP不参加」などという結論に至れば、あの手この手でプレッシャーをかけてくるにちがい ない。

 アメリカの政治や世界戦略は、けっして「きれいご と」には終わらない大人の世界である。日本の「革新派」はいつまでたってもそのことを正しく認識しようとしない。1960年代末以降ほとんど変わらないそ の主張では、とてもアメリカには太刀打ちできない。米国が「悪」で、日本政府はその「悪」に追従し、世界をきな臭く歪めている、などという世界認識はもう 破綻している。「九条の会」に 至っては「中国や北朝鮮はそうした悪への対抗勢力、すなわち善である」という認識すら垣間見える。「善悪」という基準で世界が解釈できるなら話は簡単だ が、善は時として悪になり、悪は時として善になるという世の摂理を学習しない限り、戦争や紛争はけっして抑止できないはずである。

批評.COM  篠原章
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