「全基地返還で経済効果3.5兆円」の検証
「全基地返還で経済効果3.5兆円」という試算を沖縄国際大学の友知政樹教授が発表しました▼。「基地がなくなれば沖縄は豊かになる」という神話の改訂版です。
沖縄全基地返還、跡利用で県民所得は1.8倍7兆円強
(沖縄タイムス2015年12月6日)
https://www.okinawatimes.co.jp/article.php?id=144617
全基地返還で経済効果3.5兆円 友知沖国大教授が試算
(琉球新報 2015年12月5日)
http://ryukyushimpo.jp/news/entry-183286.html
沖縄県議会が全基地返還で9155億円の経済効果があると発表したのが2010年。今年の2月に沖縄県企画部が、返還を予定される嘉手納より南の5基地の跡地利用について発表した試算が8900億円。今度は友知教授の3.5兆円です。風呂敷が急に広がりました。
本稿では、この数字がいかに怪しげなものであるかを検証します。
県議会の9155億円が完全な計算ミスであることは小著『沖縄の不都合な真実』で指摘しました(正しくは約5000億円)。沖縄県企画部の8900億円に形式的な計算ミスはありませんが、基地跡地に同じようなショッピングモールやホテル、テーマパーク、医療施設などが乱立してパイの奪い合いになれば、この数字がいかに空想的なものであるか素人でもわかろうというものです。おまけに返還後に予想される地価暴落も計算には入っていません。企画部は8万人という雇用増も試算していますが、これは沖縄の現在の失業者数約4万人のほぼ倍数であり、基地が返還されると県内労働力では賄えない労働需要が発生することになります。常識的にいってそんなことはありえません。
さて、友知教授の試算。これは、北部の基地を除く全基地(嘉手納基地など)についての返還後に生ずるだろう経済効果を計算したものですが、県企画部の8900億円という空想的な試算を拡張したに過ぎません。詳細はわかりませんが、県民を惑わせる数字です。
もっと決定的なことを指摘しましょう。
この記事を信ずるとすれば、友知教授は、県民所得も3兆円ほど増えると主張されているようですが、これは経済の専門家らしからぬミスだといわざるをえません。県民所得はGDPベースですが、経済効果は販売額ベースの数字です。ベースが違うのです。百歩譲って友知教授の3.5兆円という経済効果の試算が正しいとしても、県民所得の増分は、経済効果に産業連関表に基づく粗付加価値率という係数を乗じたものでなければならないはずです。一般にこの係数は0.55程度と推測されますから、友知教授の前提をもとに計算しても1.8兆円の所得増です。1兆円以上の水増しです。もちろん、これもまた空想的な数字であることに変わりはありません。
友知教授の試算した雇用増について記事は触れていませんが、友知教授の前提を考慮するとおそらく20万人ほどの雇用増となるでしょう。現在の沖縄の労働力人口は68万人程度ですから(失業者含む)、労働力人口は90万人程度に増えることになります。沖縄県の15歳以上65歳未満の全県民が働いても賄えない数字です。有史以来、人類が経験したことのないような好景気が訪れるということなのでしょうか?
「全基地返還で沖縄は豊かになる」というのはやはり虚妄なのです。
ただ、友知教授の「基地問題は本質的には経済問題ではなく、命の問題。経済効果が例えゼロでも基地は撤去されるべきだ」という主張は、ひとつの見識でしょう。この点だけを主張すれば十分なのに、怪しげかつ間違った計算結果を公表するなど、研究者としての良識を問われることになりかねません。