賞味期限切れとなった「辺野古反対」— 2018年名護市長選の分析
名護市長選(2018年2月4日投票) 開票終了
とぐち武豊 候補 20,389
稲嶺 進 候補 16,931
投票者数 37,534(前回35,733よりも+1,801)
有権者数 49,372(前回46,582よりも+2,790)
投票率 76.92%(前回76.71%よりも+0.21%)
投票率は前回とほぼ同じ、選挙権年齢の引き下げもあって有権者数は2,790増、3,458票の票差でのとぐち候補の勝利でしたが、前回の保守系候補・末松文信氏の得票である15,684票を基準に考えれば、とぐち候補は4,705票も上乗せしたことになります。対する稲嶺候補は前回より2,908票も減らしました。
名護市の場合の基礎票(組織票)は、自民票は15,000票、共産・社大・社民票もほぼ同数、公明票は3000票だと思われます。たしかに公明票の行方は選挙結果に影響を及ぼしますが、これらとは別に4,000〜5,000票ほどある無党派層も無視できない存在になっています。
今回の選挙で、とぐち陣営を選んだ公明党は今まで以上に熱心に選挙運動を展開していましたので、自民票15,000+公明票3,000=18,000の基礎票はしっかり固められたと思います。近年では自民・公明の基礎票を固めるだけでかなり苦労しますが、とぐち候補はさらに2000票余りを獲得しました。これがいわゆる「無党派層効果」とでもいうべきもので、その部分が前回の稲嶺候補の得票からそっくり抜かれた計算です。
とぐち候補の立場に立てば、今まで以上に多数の支援者が早くから集まって、地道な選挙運動を重ねてきた結果だといえるでしょう。RBCの若造記者は「組織票の勝利」と述べていましたが、地縁・血縁を重視する旧来型の選挙運動と、若い世代を中心に行われた無党派層を掘り起こす選挙運動をうまく結びつけたことで得られた勝利でしょう。
過去二回の市長選挙で稲嶺候補は、「辺野古反対」一辺倒でも勝利できましたが、若い世代を中心に「辺野古が争点」と聞いてもピンと来ない有権者が増えていました。そこで、稲嶺候補は「パンダ招致」を目玉としながら市政の実績も掲げて闘いましたが、「稲嶺候補から辺野古反対をとったら何も残らない」「パンダ招致バナシはなんとも怪しい」といった声も少なくありませんでした。
結果的にいえば、「パンダなど持ちだしてもときすでに遅し」でした。地方の一市長が政府を相手に闘うこと自体は「勇敢」に見えますが、辺野古移設については事実上何の成果も挙げていないことは明白で、稲嶺支持派の市民の間にも「負け戦に市民生活を奪われてはかなわん」という思いがあったようです。要するに、これまでの辺野古反対一辺倒の姿勢がすでに「賞味期限切れ」を迎えてしまった、ということでしょう。もっとはっきりいえば、「辺野古移設問題」そのものが争点として成り立ちにくくなっている、ということなのです。
今回はこれまでにない規模で、本土各地や県内各地から自民党議員や公明党議員が名護入りしてとぐち候補の選挙運動を支援しました。通常なら「よそ者」の働きかけを拒む傾向が強い土地柄ですので、かなりリスキーな戦術でしたが、市民は「自公の本気度」を予想外に素直に受けとめたと思います。「辺野古反対」にアイデンティティを見いだしてきた稲嶺候補の姿勢に対する反発が市民の間で徐々に膨らんでおり、こうした反発を、とぐち陣営の応援団が上手にすくい上げることに成功したのだと思います。
名護市長選が知事選に影響を与えることは確かでしょうが、ここは別物と考えて関係者は一から仕切り直してもらいたいと思います。とくに、知事選ではとぐち候補のような「(財源)中央依存型政策パッケージと地域密着型パッケージの組み合わせ」だけでは闘えません。知事選は、何よりもまず「翁長知事の賞味期限切れイメージ」をめぐる攻防になると予想されますが、「これまでにない斬新な方向性・政策」が争点として浮上するような選挙を心から望みたいと思います。
なお、名護市の人口および有権者数の変化を見ると、今回は選挙を目的とした他地域からの「人口移動」が最低でも500人程度あったと思われます。「イデオロギー益」や「団体益」を地方の首長選挙に強引に持ち込むやり方は名護市民を侮辱し、民主主義を踏みにじるものです。関係者はそのことを肝に銘じてほしいと思います。
批評.COM 篠原章