沖縄タイムスへの反論ー「日本一殺人の多い沖縄」は問題ではないのか?

6月11日付け『沖縄タイムス』1面トップの記事は、〈凶悪犯米軍関係2・3倍 「県人等」上回る〉という見出しの下、「米軍がいかに凶悪か」を実証しようとする記事でした。内容的には、篠原が、『報道されない沖縄基地問題の真実』(宝島社・2016年)で指摘した「県民の刑法犯罪は米軍関係者のそれを上回る」に対する反論を意識した記事だと思われます。


米軍関係者の凶悪犯、県人等の2.3倍 人口1万人当たり、県警摘発
(沖縄タイムス+プラス 2016年6月11日のスクリーンショット)


米軍凶悪犯、高い人口比 基地内犯罪は統計なし
(沖縄タイムス+プラス 2016年6月11日のスクリーンショット)

時期が時期だけに、そのままスルーすることも考えましたが、やはりデータに関わることだけに、こちらからも『沖縄タイムス』が無視または軽視している事実をきちんと指摘しておいたほうがよいと判断しました。

ここで指摘したいのは以下の3点です。

  1. タイムスの指摘どおり、凶悪犯の摘発人数は、「米軍関係者」のほうが「県人等」より高いことは事実です。2006年から2015年までの10年間で見ると、人口1万人あたり米軍関係者1・03人、県人等0・45人と米軍の数値が上回ることは間違いありません。ただし、タイムスも記事中で触れている通り、刑法犯全体の摘発人数は、人口1万人あたり米軍関係者11・24人、県人等26・61人と、県人等の数値のほうが米軍関係者のそれを上回る事実はもっと重視すべきです。
  2. 凶悪犯のうち殺人罪を適用された事犯の発生件数(殺人罪発生率)について見ると(人口10万人あたり)、手元にデータのある2000年から2014年までの15年間の平均は、県人等1・46、米軍関係者0.00と、県人等の数値が米軍関係者の数値をはるかに上回ります。米軍関係者を容疑者とする殺人事件としては21年ぶりに起こった先の事件を含めると、米軍関係者の殺人剤発生率は、0・02となります。この場合でも、県人等の数値とは比較するまでもありません。
    より強調したいのは、殺人罪発生率(2000年から2014年までの15年間平均)を都道府県別に比較すると、沖縄が大阪と並んで全国最高のレベルにあることです(篠原作成の下掲画像参照)。2001年から2007年については大阪を上回り単独の1位です。
    米軍によりいっそうの綱紀粛正を求めるのは当然ですが、県民の「いのちとくらし」という観点から見た場合、データ的には県民等の殺人を抑制しないかぎり、安心は得られないことがはっきりしています。多くの殺人が貧困やお金に絡んでいますから、日本一所得格差の大きい沖縄経済の改善が急務です。そのことを差し置いて、米軍の犯罪だけを責められません。
  3. 6月11日の『沖縄タイムス』は、社会面(31面)において、新原昭治氏のコメントを紹介しています。同氏は、やはり篠原の指摘を批判しながら、「米軍は事件を1件も起こしてはいけないはずだ」と理想論を述べ、日米地位協定の抜本的改定を要求しています。
    気持ちはわかりますが、県内の治安の問題は、やはりデータに基づいて冷静に考察すべきだと思います。米軍に綱紀粛正を求めることはもちろん必要です。が、県民のいのちとくらしを守るためには、県民等の殺人事件の発生率を一刻も早く下げる方策が求められます。県内の治安や防犯の問題を考える際に、日米同盟のあり方や憲法改正問題にも直結した日米地位協定の抜本的改定を前面に出すのは、県民のいのちとくらしの軽視につながりかねないと考えます。

なお、沖縄における事件や殺人発生率については、『新潮45』7月号(6月中旬発売)でより詳しく論じています。

府県別殺人罪発生率

批評.COM  篠原章
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