香港の憂鬱 (2)

glooming days in Hong Kong (2)

香港の憂鬱 (1)からつづき)

(承前)人気百貨店である〝そごう〟(崇光)のバーゲンともなると、それを目当てに中国人観光客がバスを連ねてやって来て、根こそぎ買いまくる。観光客の買い物の仕方ではない。中国に帰って売りさばくために買いこむ客が多いということだ。地下鉄やバスの車内で、香港市民は高齢者や子供連れを見かけると、サッと席を譲るが、中国からの観光客はショッピングバッグをシートに置いたまま知らん顔している。

こんな状態が続くと、香港好きの日本人や欧米人も香港離れするだろうと思っていたら、さすがの香港政庁も「中国からの観光客の増加を抑制する」と言いだした。

そもそも香港市民の多くは、人生を賭して中国本土からやって来た移民とその子孫だから血縁・地縁は深いはずだが、彼らも昨今の中国人観光客の流入に不快感を示している。自分たちが守り繁栄させてきたビジネスとライフスタイルの脅威と感じている人も少なくない。「日本人・台湾人・欧米人は大歓迎だが、中国人には来ないでほしい」と言い切った友人もいる。彼らは血縁や地縁より、欧米型の秩序、ライフスタイル、文化といったものを選びたい、ということだ。それは 英国による植民化のなかで培われたものであり、日米など異国との付き合い方のなかで育まれたものなのだろう。

おそらくこれは、「マナーの悪い中国人よ、香港に来るな」といった単純な問題ではない。公権力が強い社会主義国だったがためにかえって異常な膨らみ方をした「私」をもてあます中国社会と、公権力の弱い植民地だったがためにかえって「公共心=公私の秩序だった棲み分け」が重視されるようになった香港社会との相剋の問題であり、植民化の功罪の問題であり、経済(お金)と節度・品位の問題である。

(おわり)

HKTBの統計より

HKTBの統計より

批評.COM  篠原章
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