2021横浜市長選の楽しみ方

これまでの横浜市史のなかで公選市長を4期務めたのは飛鳥田一雄だけである。社会党委員長も兼任して人気もあった飛鳥田は、横浜6大事業を策定した「功績」で讃えられることも多いが、負の遺産のほうが大きかったと思う。横浜の成長は、港湾関係者や製造業者を含む市民と地場企業の努力の賜物だが、飛鳥田の掲げる「正義」だった社会主義イデオロギーが時として彼らの努力を阻むこともあった。
 
林文子は有能な市長だったが、当選すれば4期となる今期は引退するはずだった。安倍・菅政権がIR推進を掲げ、政権の意向を尊重して横浜へのIR誘致を決断した林だったが、IR誘致反対に舵を切った菅首相によって梯子を外され、意固地になって出馬したとしか思えない。首相への意趣返しである。自分が市長に当選したいというより、首相が支援する小此木八郎の当選を危うくするのが林の目的だ。これについては一義的に首相の失敗である。小此木にとっても首相に支援されることで、票が減っているようにも見える。
 
横浜のドンといわれる藤木幸夫は、菅首相も林市長も熱心に応援してきたが、ベイブリッジ外側に外航船の拠点を集め、ベイブリッジ内側は市民の港にしようという港湾関係者の思惑を裏切るような、ベイブリッジ内側の山下ふ頭へのIR誘致を菅=林ラインが決めたことに立腹しているのであって、林や小此木を斬り捨てたわけではない。
 
ただ、藤木が山中竹春支援を決めたのは、同じく藤木と懇意にしている江田憲司が推す山中なら、港ヨコハマの将来をまともに考えてくれるだろう、という思いがあるからだ。小此木がなっても山中がなっても、港に土足で踏み込むようなことはしない、と藤木は判断していると思う。
 
世論調査では、神奈川区、中区、西区、南区、戸塚区、磯子区といった「旧市街」が小此木強しで、それ以外の比較的新しい区では山中強しだが、数の上では後者が優る。このまま進めば「山中当選」と読んでいいだろう。それにしても僅差ではあるので、小此木は、確実に投票に行ってくれるよう、公明党も含めた支援組織を固めることが急務だ。
 
松沢成文は市長当選を目的にした立候補ではなく、おそらく来る衆院選を睨んだ予備選挙との位置づけて臨んでいると思う。田中康夫の思惑はわからないが、松沢を凌ぐ票を集めるようなら、彼の政治家としてのキャリアはまだ続くと見てよい。
 
泡沫と言われた坪倉良和が当選圏外ながら健闘している。坪倉は水産仲卸業だが、地元に密着した魚屋はやはり強いということか。衆院議員経験のある福田峰之、市議を長く務めた太田正孝は低調だが、両人の主張は市民としての目線がしっかり感じられて好感が持てる。
 
争点はすでにIRではない。そこに目を取られると、横浜の未来が見えなくなる。横浜は日本の近代化をもたらした街だ。22世紀に向けてまだその役割は終わっていない、と考えたい。開港以来、多様性をもっとも尊重できる活力ある都市だったのだから、これからもそうあってほしい。
 
これだけおもしろい候補が揃った選挙など滅多にお目にかかれるものではない。十分楽しませてもらうつもりだ。
 
なお、各候補の第一声を撮影した動画がTVK(テレビ神奈川)の特設ページにアップされている。楽しみが倍増するので、これはお奨め。さすがTVK!
 

横浜市開港記念会館

批評.COM  篠原章
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