ASKA逮捕に寄せて〜求められる薬物依存治療施設

A Serious Problem; No Substance Abuse Treatment Center in Japan

チャゲアスのASKAが逮捕された。
本人は所持・使用を否認しているというが、「都内マンションから微量の覚醒剤が見つかった」と報じられているから、勾留・取り調べの後に起訴され、夏には裁判が始まるだろう。もつれないかぎり3回の公判を経て、初犯であるが故に「懲役1年6か月・執行猶予3年」という判決を受けることになる。

「覚醒剤使用は悪いことか」と問われれば違法であることは間違いない。が、これは「薬物依存」という病である。アルコール依存、ニコチン依存は半ば病と認識され違法行為でもないが、覚醒剤依存を病と認識している人は少ない。覚醒剤に依存する体になってしまったこと自体が「反社会的」と考えられている。

実態を見れば、ほとんどの場合、薬物依存は自傷行為であり、「制裁」よりも「治療」が必要な病である。覚醒剤依存が重大犯罪につながるという人もいるが、犯罪データベースを調べてみれば、ほとんどが「所持・販売」に関わる検挙で、覚醒剤依存が殺人や傷害・強盗など凶悪事件に発展した事案は意外なほど少ない。アルコール依存が犯罪や事故の一因となるケースもあるが、アルコール依存症患者に社会的制裁を加えろという人はいない。「他人への迷惑」という点ではタバコがいちばん犯罪的だ、という人もいる。にもかかわらず、薬物依存だけが白い目で見られている。

昨年来の報道を信ずるとすれば、ASKA はかなり深刻な覚醒剤依存の可能性がある。一般的な中毒症状は「1.煙吸引(あぶり)」→「2.粉末吸引(スニッフィング)」→「3.静脈注射(つき)」 というふうに深まっていくというが、ASKAの場合、「3」の段階まで進んでいた可能性がある。なによりも治療に専念すべき深刻な患者である。

ところが、日本には薬物中毒者を治療する専門施設がない。大病院が彼らの治療に当たってはいるが、つねに満床に近い大病院に、十分な薬物中毒者を受けいれるだけの能力はない。勤め先はもちろん家族や友人も、彼らを「中毒者」というよりも「犯罪者」扱いするから、自宅での治療にも限界がある。中毒者はまともな治療も受けられないまま苦しみつづけ、薬物から解放されない。二度目の逮捕で実刑を受ければいったんは中毒から解放されるが、困難な社会復帰が再び薬物に走らせることになる。

薬物依存治療の施設を充実させ、彼らを「犯罪者」として扱うのでなく「患者」として治療すれば中長期的には中毒者を減らすことにつながり、併せて「暴力団の資金源」も断つことができる。むろん、薬物取締のためのコストも削減されるはずだ。薬物依存治療施設の充実は、違法薬物に関わる社会的コストを最小限に抑えるための最も効果的な方法だが、残念ながら「一部の悪人が勝手にやっている違法行為だから取り締まるだけでよい」という社会通念が支配的だから、事態は一向に改善されない。残念である。

aska

批評.COM  篠原章
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