「辺野古移設」は2037年 — 遅延と経費膨張の責任は誰にあるのか?

米軍普天間飛行場移設に伴う名護市辺野古の新基地建設について、米軍関係者は7日、記者団の取材に対し、新基地の完成が「早くて2037年になる」と述べ、移設が終わるまでの間「普天間基地はここで維持される」との認識を示した。軍事的優位性は普天間基地の方が高いとの考えも語った。台風など災害の影響で工事はさらに遅れる可能性もあるとし、普天間基地の危険性除去までの期間が長期に及ぶ可能性を示唆した。
現状の普天間基地の重要性の例として、滑走路の長さが2800メートルあることや、西海岸の高台にあることを挙げた。滑走路が長いことでさまざまな大きさの航空機を運用でき、西側の高台に面しているためレーダーの視界が広がるなどの利点があるとした。
一方、移設先となる辺野古新基地は滑走路が1800メートルと短いほか、東海岸の埋め立て地という、普天間基地とは真逆といえる環境にある。
この関係者は政治面を考慮せずに軍事的に考えれば「普天間基地の方がいい」と語った。一方、辺野古新基地では海との連携が容易になるとの優位性も示した。ただ、具体的な計画はないとしつつ、資金面や環境面への影響を踏まえ、さらなる見直しの可能性も示唆した。
米軍が開いたメディアワークショップで関係者が取材に答えた。ワークショップでは、報道陣向けに米海兵隊のオスプレイ搭乗があり、普天間基地から米軍北部訓練場に移動した。
(琉球新報 2023年11月8日付)

もっともホットなニュースなのに、あまり話題になっていないのはなぜなのかよくわからない。「年内の衆院解散は見送り」「財務副大臣の不正」などといったニュースにかき消されてしまっているが、沖縄県民・日本国民を二分した「過去の経緯」を全否定するようなニュースだと思う。また、これによって、移設経費が総額1兆円を軽く超えることも確実である。

ぼくの場合、正体不明の「怒り」まで込みあげてくるのだが、メディアや政治家はほぼ沈黙している。たしかにニュースにはなっているものの、その扱いは地味だ。

1996年に辺野古移設プランが始まっているので、2037年に移設が行われるとなると、優に40年を要することになる。なんと半世紀近い。96年に生まれた子どものそのまた子どもまで生まれている。

テレビ、新聞などのジャーナリストを集めて行われたワークショップでの発言なので、責任ある地位の軍人が責任を持って喋ったことかどうかは不明だ。これまでも「米軍関係者」「在沖米軍幹部」の「話」として伝えられたことが、日本政府や日米政府の公式見解と食い違うことはあったが、今回示された「観測」は、はっきりいって「そりゃないだろ!」といいたくなるようなシロモノである。

そうだとすれば、「時間とカネがかかりすぎる」「政治的に困難」として片づけられてしまった「勝連沖埋め立てプラン」のほうがはるかにマシだったことになる。

「純軍事的には普天間基地のほうがベター」や「辺野古滑走路の短さは嘉手納基地が補う」という発言もあったようだが、基地容認派も反対派も一緒になって「普天間基地の固定化は認められない」と強く主張してきたし、下地幹郎と喜納昌吉が代案として示した「普天間と嘉手納を統合する」(嘉手納統合案)も空論として排除されてきた。

一方で、「移設は早くとも2037年」という米軍当局の観測を知ってホッとした人たちも多いはずだ。少なくとも政府からの補助金(沖縄振興策)は、2037年まで途切れることなくつづくだろう。土建業界など基地に寄生して生きる「業界」もそれまでは安泰だ。「基地反対」を唱える諸党派も、その時期までは存続することになる。みな万々歳だ。

では、ぼくの感じた「怒り」はいったい誰に向けられるべきものなのか。「政治にはカネはかかる」とはまさにこうした事態だろうが、安全保障・国防とは直接関係のない莫大な経費まで必要になると予想できなかったのか、その原因は突き止めてしかるべきだろう。「誰も責任を問われない」では済まされないことだ。

責任を負うのは一義的に日本政府だが、県選出の歴代国会議員、歴代沖縄県知事、過去の利害関係者(業者・反基地運動の活動家)にも責任がある。米軍当局にも一定の責任はあるが、この問題ではあくまでも「従」の立場だ。

今後は「責任の所在」を徐々に解明していくつもりである。

ちなみに、この記事には「ワークショップでは、報道陣向けに米海兵隊のオスプレイ搭乗があり、普天間基地から米軍北部訓練場に移動した」とある。あれだけオスプレイに反対する論陣を張りながら、オスプレイ搭乗の感想や見解が見当たらないのも奇異なことだ。おそらくほとんどの記者が「オスプレイ初搭乗」だったと思われるが、メディア人として「落とし前」をつけてしかるべきではないか?

普天間飛行場に駐機中のオスプレイ群

批評.COM  篠原章
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Pocket