崩れ始めた「オール沖縄」と翁長知事のラストチャンス=高裁「和解案」(追記あり)
宜野湾市長選での敗北をきっかけに、普天間基地の辺野古移設に反対する「オール沖縄」が音を立てて崩れ始めています。
「オール沖縄」が支援する志村恵一郎氏候補陣営は、6000票もの大差で現職の佐喜眞淳候補に敗北を喫しました。この開票結果を受けて、翁長知事の後ろ盾となっている呉屋守将金秀グループ会長(辺野古基金共同代表)が、志村陣営の選挙対策本部長代行だった伊波洋一元宜野湾市長に「詰め腹」を迫ったことが、選挙翌日の琉球新報で報じられ注目を集めました。志村氏も翁長知事も呉屋氏も「保守系反辺野古」ですから、呉屋氏としては、志村氏と二人三脚で選挙を進めてきた翁長知事の責任追及が始まる前に、先手を打って「革新系反辺野古」を象徴する伊波氏に責任を転嫁したつもりだったのでしょうが、これは明らかに禍根を残しました。
近年の宜野湾市における選挙の動向を見ると、共産党、社民党、社会大衆党の「革新系」の得票は最低で約17000票、最高で約22000票となっています。革新系基礎票は17000〜19000票程度です。志村氏が22000票で破れたということは、翁長氏の応援による得票は3000票〜5000程度ということになります。ただし、前回の市長選で佐喜真氏に敗れた伊波氏の得票も22000票ですから、「翁長氏による上乗せはなかった」という見方さえ可能です。いずれにせよ、敗因は保守系有権者をまとめきれなかった翁長知事側にあることは明らかです。呉屋氏の伊波氏批判は、伊波氏サイドから見ればとんでもない言いがかりで、「オール沖縄」に分裂をもたらしかねない対応でした。
さすがに翁長知事も危機感を持ったのか、宜野湾市長選の敗北によって「オール沖縄」が動揺しないよう、30日、知事公舎に「オール沖縄」を支える主だった市町村長を集め、今年予定される首長選、県議選、参院選での協力を確認しましたが、その「オール沖縄派」の市町村長の足並みも不揃いです。たとえば、石嶺傳實読谷村長は、昨年12月、「苦渋の決断」で、返還されるキャンプ・キンザー(牧港補給地区)の倉庫など一部施設の移設を受け入れると村議会で表明しました。面積など規模は小さいですが、これも普天間基地の辺野古移設と同様、移設条件付きの基地返還であり、両者ともSACO合意の返還プログラムに位置づけられた「基地の整理・縮小」のプロセスです。牧港はOKだが、普天間はダメという論理が説得力を持つか疑問です。「名護市の民意は反対だから辺野古移設はノー」だとしても、「読谷村の民意は容認だから読谷移設はイエス」と言い切れるでしょうか。
宜野湾市長選敗北の動揺も収まりきらぬうちに、国が沖縄県を相手取って起こした行政代執行訴訟の第3回口頭弁論が、1月29日、福岡高裁那覇支部で行われました。この公判で多見谷寿郎裁判長は、沖縄県が求めた証人採用の一部を認めるとともに、国及び県に対して「和解」を勧告しました。
和解勧告は誰も想定していませんでしたが、過去の判例などからいって不利な状況を否めない沖縄県側が、来たるべき判決によって傷つかないようにする配慮ともいっていいもので、暫定的な和解案と根本的な和解案の二案からなるといわれています。暫定的な和解案は、もう一度両者が交渉のテーブルに着いて仕切り直すという案、根本的な和解案は、なんらかの金銭補償を伴う案といわれていますが、裁判所の意向で非公開となっています。いずれにせよ裁判所が、出口を失った翁長知事に手を差し伸べ、落としどころを探すよう誘導する奇策といってもいいもので、翁長知事側の出方が注目されますが、たとえば、何らかの条件付きで埋め立てが結果的に続行されるような妥協案で合意された場合、「オール沖縄」は瓦解することになります。他方で、和解に達しなかった場合、沖縄県側には今後厳しい判決が予想されます。後者の場合、「オール沖縄」は形式的には存続することになりますが、保守と革新の間に生まれた亀裂はおそらく修復されることはなく、「オール沖縄」が完全に瓦解することも十分予想されます。
ただ、29日に裁判所前で行われた集会では「オール沖縄の結束」を確認するスピーチが相次ぎました。呉屋守将氏も「私どもの行く道は決して平たんではありませんが、正義の道、この一本しかございません。法廷の中も外も私たちの民意で埋め尽くそうではありませんか。熱く打たれれば打たれるほど強くなる気持ちでオール沖縄はがんばります」(「しんぶん赤旗」1月30日付)と、宜野湾市長選当日の伊波洋一氏批判で巻き起こった波紋を鎮めるかのようなスピーチで訴えました。
しかしながら、「オール沖縄」の亀裂を修復するのはすでに困難、というのが篠原の見方です。潮目はすでに変わりつつあり、「オール沖縄」にとって有利な材料はほとんどありません。もっとも、対する自民党沖縄県連が、潮目の変化を上手く捉えられるかどうかまだわかりません。和解案への対応や6月5日に投開票が行われる県議選での闘い方によっては、混乱はまだまだ続くでしょう。
【追 記】2月2日23時45分
高裁和解案がリークされ、共同通信で報道されました。
米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古沿岸部への移設をめぐる代執行訴訟で、福岡高裁那覇支部が国、県に示 した二つの和解案の内容が2日、判明した。一方の案は翁長雄志知事に埋め立て承認取り消しの撤回を求め、国には移設後30年以内の辺野古返還などを米国と 交渉するよう促した。別の案は、国が訴訟を取り下げて工事も中止し、県と再度協議するよう求めている。
関係者が取材に明らかにした。多見谷寿郎裁判長が1月29日の第3回口頭弁論後、国と県との非公開の協議で根本的な解決案と暫定的な案の二つを提示し、内容は明かさないように伝えていた。「辺野古移設後、米国と返還交渉を 代執行訴訟の和解案」(共同通信)
2月2日23時03分 配信
http://this.kiji.is/67209808676439542?c=39546741839462401
「移設後30年以内に米国に返還交渉」は見事なプランだと思います。裁判長に敬服しました。もう一つの「仕切り直し案」は、振り出しに戻って両者で打開策を見つけよ、というものです。移設を阻みたい翁長知事は、仕切り直し案を取りたいでしょうが、国は呑まないでしょう。たとえ交渉のテーブルについたとしても、移設の可否については両者妥協の余地はなく、解決を先延ばしするだけに終わります。「移設後30年以内に返還交渉」を知事が選ばないとすれば、同じことがくり返され、翁長知事にとって厳しい判決が下るだけでしょう。厳しい選択ですが、知事がもし常識人なら、これ以上国と係争する事態は避け、「移設後30年以内に米国に返還交渉」を選ぶでしょう。共産党、社民党などは闘うことを選ばせようとするでしょうが、これまで受け身の判断に徹してきた知事が主体的に判断できるか否かです。見ものです。