元那覇市議長贈収賄事件と沖縄の戦後処理問題

久高友弘前那覇市議会議長(75歳)の贈収賄事件について、琉球新報が「深掘り」というコラムで詳報を伝えている(有料記事)。

それによれば、贈収賄事件の舞台となった那覇市水道局の土地をめぐり、久高前議長が工作費として受け取った資金の出所(金主)である元大物総会屋・小池隆一容疑者(鹿児島県姶良市在住/80歳)から、別の金主に乗り替えようとしたことで、二人を結びつけた不動産ブローカー・小原健司容疑者(東京都府中市在住/70歳)が焦り、久高前議長を詐欺で告発したことが事件の発端だという。

小池容疑者から受け取った資金の一部を使い込んでしまい、小池容疑者から返済を迫られた小原容疑者が窮して「詐欺罪での久高前議長の告発」という、きわめてリスクの高い手段に訴えた可能性が高い。結果的に小原容疑者も摘発され、元も子もない、(小原容疑者にとっては)なんとも「悲劇的」な結末を迎えてしまった。小池容疑者の返済要求がそれだけ厳しかったということだろう。なお、小原容疑者と共謀したとされる那覇市の不動産業者(在宅起訴)は、12月24日、那覇市内の病院で死亡している。

だが、この記事のなかでも関係者が指摘しているように、事件の本質はそういうところにはない。

戦後のどさくさに紛れて那覇市当局が民有地を詐取したか否か、というところに本質的な問題点がある。水不足が常態化していた那覇市にとって、水道事業はきわめて公共性が高い。水道のために使う用地は必須である。したがって那覇市の立場もよくわかる。だからといって土地の所有権を表す書類を偽造してまで民有地を強引に取得(民間の土地を市有地に換えるための土地登記の移転)していいのかといえば、「否」に決まっている。

書類が偽造であるのか、そうでないのかについては、再び訴訟が提起されると思うが、以前の最高裁判決時には提出されなかった土地所有権を示す古証文を、本来の地主が今後新たな「証拠」として提出してくると予想される。その真贋が司法の場で吟味されることになる。この問題は那覇市議会でも審議されているが、必ずしも決着はついていない。「(金目当ての)魑魅魍魎の跋扈」という後味の悪い印象だけが残されている。

米軍による監視の目さえくぐり抜ければ「なんでもあり」だった米軍統治時代の沖縄での出来事だから、「民」だけでなく「公」も等しく違法行為・脱法行為を企てていた可能性はあるが、司法の場でそれを立証できるか否かが焦点となる。

「沖縄戦で書類が焼失(消失)してしまった。悪いのは戦争だ」というのは簡単だが、戦後処理のあり方、過去の行政のあり方が問われているのである。沖縄民政府(米軍)や琉球政府、那覇市役所の行政行為が、「当時の基準」(または現在の基準)にてらして「適法」といえるのかどうか。「住民福祉という観点からやむをえない正義」といえるのかどうか。司法の場での決着が求められている。訴訟の提起は沖縄の戦後史を検証する意味でも重要なことだ。

那覇市役所・市議会

 

批評.COM  篠原章
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