大韓航空による米軍ヘリの整備について(再追記あり-1月9日)

窓枠を普天間第二小校庭に落下させた米海兵隊のヘリコプターCH53について、(2017年)12月14日付のFacebook並びにTwitterに以下のようなコメントを掲載しました。

窓枠を普天間第二小校庭に落下させた米海兵隊のヘリコプターCH53約40機を整備するのは「大韓航空」です。同社は2015年5月23日に整備事業者として選定され、その契約期間は2020年までの5年間となっています(以下韓国・聯合ニュースネット版記事を参照)。

(見出し)大韓航空 在日米軍輸送ヘリの整備事業者に
【ソウル聯合ニュース 2015/05/26 14:21配信】
大韓航空が日本に駐留する米海兵隊のヘリコプターCH53約40機の整備を担当する事業者に選ばれた。同社が26日、明らかにした。
同社は昨年8月の公開入札に参加し、今月23日に選定された。
来月から2020年までの5年間、システム点検や機体を分解しての主要部位点検のほか、非破壊検査を実施し欠陥を修理、補強する。事業規模は500億ウォン(約55億4800万円)台。
「スタリオン」と呼ばれる同機は、米シコルスキー・エアクラフト社が製造した大型ヘリで、長距離の人員輸送や重量物輸送、機雷探知・除去などに用いられる。
大韓航空は1989年から2010年まで、米軍が保有する同機の整備事業を担当していた。

この記事によれば、CH53整備の事業規模は500億ウォン(約55億4800万円)台といいますが、その原資は日本国民の血税です。大韓航空は、目下、嘉手納基地のF15戦闘機と三沢基地のF16戦闘機の整備事業も請け負っていますが(産経WEST参照http://www.sankei.com/west/news/150108/wst1501080002-n1.html)、これらの整備費も日本国民が負担しています。日本の安保と「空の安全」の一部が、一定の実績があるとはいえ、海外の民間航空会社に委ねられ、その経費を国民が負担する実情には疑問を感じます。

この件について、懇意にしているある民間エンジニアは、
「航空機、船舶、プラントのような世界単一市場の事業は、競争入札だと韓国が受注してしまう。韓国企業は赤字でも平気で受注しますからね。そのため、近年続々とその無理が発覚しています。韓国の挙国一致安売り体制は、最終的には納品物の品質に響いてきますから、今回のような事故が起こるのも当然といえば当然です。韓国の最新の高速鉄道KTX湖南線の運行初日である2015年4月2日、先頭車両の整備扉が開きっぱなしになりました。重大事故なので運行を中止すべきところ、あろうことか扉をガムテープで仮留めし、風圧でバタバタいわせながら時速200キロでの運行を続けたという、マンガみたいな事故が起こっています」と語っていました。

これは「反韓」とか「嫌韓」とかいった、「ためにする」話ではありません。自国の安全や自国民の生命・財産に、自分たち自身が責任を持てない体制でいいのか、という深刻な問題です。事故処理だけでなく、政府には米軍に整備体制の再検討を求めるなど抜本的な対策を強く要請したいと思います。

【追記 12月15日】

夕刊フジの記者が大韓航空に問い合わせたところ、「窓枠の整備は契約の対象外である」との返答があったとのことです。現段階で契約内容までチェックできませんので、ここではとくに反論しませんが、海兵隊などの軍用機整備を日米同盟外の第3国の民間企業が請け負う現状は正常とはいえません。その第3国である韓国の最高首脳は、先頃、中国の最高首脳の求めに応じて「日米韓同盟はありえない」と発言しました。日米同盟に敵対しかねない方針をとる国の企業に日米同盟下で運用される軍用機・装備品整備を任せるのは再考すべきです。今回の事故を機に、安保上の問題、技術レベル(安全・リスク管理)の問題の二つの観点から、同盟外にある外国企業への発注は再検討すべきでしょう。

このコメントに対して、普段から良き論争相手であるジャーナリストのO氏から、「大韓航空が在日米軍機を整備して何が悪いのか」という主旨のメールをもらいました(12月20日)。O氏の批判(概要)は以下のようなものでした。

仮に米軍が同盟国である日本の企業(例えば全日空)に輸送機の整備を委託し、その輸送機が在韓米軍に配備されたとして、それも問題だろうか? その場合、韓国に配備された段階で全日空は整備から外れるべきだということになるのか。米軍に限らず韓国企業が外国からの受注を増やしているとすれば〈安くて技術がある〉ということだ。韓国企業が多く落札しているからといって責められる理由はない。あなたの主張には〈韓国憎し〉の臭いがする

このメールを受け取った後、奥茂治氏の裁判(12月21日)を傍聴するため韓国に旅立ち、12月22日現在篠原はまだ韓国内にいますが、O氏には、天安(チョナン)市内のホテルから返信メールを送りました。この返信メールは、整備事業と日米同盟の関係について、わかりやすく整理されていたテキストになっていますので、本日(12月22日)公開しておきます。読者の皆様の参考になれば幸いです。

Oさん、一昨夜はお誘いをお断りし、たいへん失礼しました。でも、Oさんと飲んだら翌朝の羽田発はきわめて怪しかったと思います。

目下、ソウルから60キロほど南にある天安(チョナン)という街にいます。大田(デジョン)の手前です。農工が混在する街で、大田ほどではありませんがなかなかの大都市です。北海道道央部並みに寒いとはいえ風情があります。ツメの甘いところがあるのがちょっとした難点ですが、韓国の人のきめ細やかなサービス精神は心地よく、韓国滞在はいつも快適です。

さて、大韓航空の件ですが、「韓国憎し」というのとは違います。ポイントは以下のように複数あると考えています。

1つは技術的な不安です。大韓航空は他の韓国企業と同じく、国際競争入札ではかなりのツワモノです。「安くて技術力がある」というのは一面では真理ですが、プラント業界や輸送機器・船舶業界では、「安かろう悪かろう」の評価はなかなか消えません。たしかに入札では優位に立つ見積もりを出してきますが、仕様書通りの納品がないことは日常茶飯事で、見かけはまともに見えてもすぐに使えなくなることも珍しくないといいます。雑な仕事が多いというのが、技術者の間では定説になっています。日本の企業が尻拭いをするケースも多々あるようです。韓国が造船など多分野で大きなシェアを持つにもかかわらず業界の再編成を迫られているのは、労賃の上昇などコスト面での構造的問題に加えて、「技術力」に対するこうした過大評価が修正されつつあるせいだと思います。ちなみに今日は、「韓国技術の粋を集めた」といわれた高速鉄道KTXに乗りましたが、品質としてはJRの在来線特急のレベルだと思います。他国では考えられないような雑な内装やシートのレイアウトも気になりました。

また、韓国政府は国際競争入札で自国企業が仕事を取ることを、国を挙げて支援しています。補助金や税制上の優遇措置を与えて競争力を「強化」しているのです。日本にもかつてそういう時代がありましたが、現在の貿易のルールからいえばこれは「違反」です。違反としてあまり追及されないのは、案件に直結した補助金や税制優遇ではないからです。外部から見てわかりにくい仕組みになっています。

大韓航空の技術的レベルが著しく低いとは思いませんが、韓国企業のこれまでの「実績」を見るとやはり不安は拭えません。政府の後ろ盾と米国(オバマ政権)の防衛費削減を背景として、韓国企業はアジア太平洋の米軍基地各所で整備事業を落札してきました。他国の企業では追随できない低価格での落札だったといわれています。武器輸出三原則に抵触するため、最近まで日本の企業が入札に積極的に参加できなかったことも、大韓航空にとって好材料でした。技術というより、制度的・コスト的要因が大韓航空の落札を成功させてきた、というのがぼくの見方です。

競争入札そのものが悪いことだとは思いませんが、一定の品質を維持し、技術情報の漏洩を回避するために、日米同盟下での契約には一定の条件をつける必要はあると思います。随意契約はしばしば不正の温床といわれていますが、無制限な競争入札も最良の選択とは言えません。

2014年に武器輸出三原則を改訂してあらたに「防衛装備移転三原則」を定めた現在、日本企業も在日米軍の機体整備を以前よりも受注しやすくなってきました。日本飛行機など整備技術の高い企業も存在します。こうした機会を捉えて、米軍基地内に関わる業者選定方式の見直しは急務だと思います。加えて、整備施設の設置経費や管理人員などの給与については思いやり予算が投入されている以上、日本政府・日本国民も注文を付ける資格はあります。機体整備について日米が責任を持つ体制の構築には、日米地位協定を改訂する必要はなく、現行の日米相互防衛援助協定(MDA協定)の範囲内で可能です。あらたな立法措置は必要ありません。

日米同盟下にある米軍基地の危険性が注目されている以上、米軍の事故に対して日本政府が連帯責任を負うのは当然で、日本政府が今まで以上に口出しできる環境も醸成しなければならないと思います。韓国企業が相手では、万一の場合、責任の所在が不明確になりかねません。「日本政府が原因究明や再発防止に責任を持つためにも、現在の入札制度では不十分な気がします。こうした改善の積み重ねが、日米地位協定の見直しのきっかけにもなると思います。

「日米韓同盟」という枠組みでもできれば、在日米軍基地・在韓米軍基地、自衛隊基地、韓国国軍基地まで含めて技術情報などを共有するということもありうるでしょうし、日韓企業がお互いの基地に業者として出入りすることも認められると思います。が、韓国現政権は「日米韓同盟はありえない」という立場を取っています。こうした点を考慮しても、在日米軍基地における韓国企業の受注には慎重になるべきだと思います。

ただ、ネックになるのは米軍、とくに海兵隊のオープンな体質でしょう。米国籍がなくとも入隊できる軍隊ですから、外国企業や外国人の雇用にもかなりオープンです。そこが米海兵隊の強みでもあり、弱点でもあります。航空自衛隊のある退役将官は、「米軍は海兵隊に限らずオープンすぎるところがあり、思慮も足りない。対ソ強行策のために米国が中国に接近していた時代には、米国産戦闘機の技術と技能を丸ごと中国に供与してしまった。その結果、中国空軍は航空自衛隊に匹敵する技能と技術を体得してしまった。米国のこの脇の甘さが、中国の南進政策を可能にしてしまったといえる」と語っていました。危機をつくり、危機を煽るのはいつも米国です。日米同盟はいずれ解消すべきだというのが、ぼくの基本的な考え方ですが、日本が主導権を握り、やがて安保上の自立を獲得するとしもまだまだ先の話でしょう。日本が少しずつイニシアティブを強化していくためにも、米軍基地内の発注や受注にもっとコミットしていくべきではないでしょうか。

そうそう、この後ソウルから大韓航空でソウルから沖縄に向かう予定です。搭乗が楽しみです。

篠原

【再追記 2018年1月9日】
年が明けても米海兵隊ヘリのトラブルがつづき、沖縄県民は当然のこと、みなさすがにうんざりしている。大事に至っていないのがせめてもの救いだが、日米が共に責任を持てる整備態勢の強化が急務だ。このままでは海兵隊の存否を問う感情論が支配的になる。東アジア(北朝鮮)情勢はようやく安定化の方向で動きだしそうだが、中東情勢(サウジ=イラン)が急変している現在、在日米海兵隊員・軍属および装備の「疲労」が限界まで蓄積している可能性がある。ヘリの整備態勢および海兵隊員・軍属の健康管理について、日米間でより突っこんだ協議が必須だ。

批評.COM  篠原章
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