米兵犯罪問題の中間総括

※米兵犯罪問題について、友人に送ったメールを編集して掲載します。この問題に関する中間総括になっています。

Tさん、批評.COMの記事(11月23日付および 11月25日付)を ちゃんと読んで下さいよ。 Tさんのために書いたんだから。Tさんは「(米兵は)人の国にお邪魔しているんだからわきまえるべきだ」というけれど、米兵たちは以前とは違って明らかに 遠慮してます。それは米軍の犯罪発生率の低さにも現れています。軍とはいえ人間社会ですから、誰一人犯罪を犯さないなんてことはありえません。犯罪ゼロは 理想ですが達成不能です。たとえ犯罪がゼロになったとしても、基地反対派は「基地全面撤去」と主張するにちがいありません。だったら「米兵の犯罪」を根拠 に「基地撤廃」を叫ぶのは欺瞞じゃないでしょうか。戦術としても稚拙じゃないでしょうか。

 そうではなくて「ちゃんと経済問題や安保について正 面から語りましょうよ」とぼくは繰り返し主張しているんです。基地反対派の方々は「軍人なんて戦争という人殺しを専門にする連中だ」ともいうけど、米国の 犯罪発生率は日本で一番高い大阪の2倍以上ですから、沖縄の6倍以上です。人殺し専門にしては、米兵の日本・沖縄における犯罪率は低いと思いませんか。そ れはやはり他国だから遠慮しているからなんです。そういう意識は70年代よりも格段に高いし、ここ10年余り、駐留米兵のあいだで「他国にいる」という意 識は着実に浸透してきています。それは以前にぼくが示した数字の変化が示すとおりです。

 基地反対派の方々の「米兵出ていけ運動」「オスプレ イ出ていけ運動」では、感情が昂ぶるだけです。沖縄は分裂しかねません。過去40年間に発生した5700件の事件が問題視されていますが、米兵の規律が乱 れていた70年代と現在ではまるで違うという環境変化をまず直視しなければいけないと思うのです。

凶悪犯・風俗犯 検挙件数

 現在の米兵が絡む事件は概数ですが年間平均50件前 後、レイプ事件を含む凶悪犯はこの4年間で16件。この間に沖縄県警が扱った凶悪犯事件は253件。比率は6.3%。沖縄の軍人軍属の男子約4万、沖縄県 男子の人口69万人を元に米軍関係者男子比率を見ると5.5%ですから凶悪犯の発生する比率はたしかに米軍のほうが1ポイント弱高い。けれども、強制猥褻 を主体とする風俗犯まで含めるてみると(凶悪犯+風俗犯)、県警の検挙数は4年間で556件。このうち米軍関係者が関わった事件は19件。構成比は 3.4%となります。この数字を見ると、米軍関係者による凶悪事件+性的暴行事件だけを問題視できるのかと大いに疑問に思います(以上、上掲画像を参 照)。

 さらに、深刻化する家庭内DVはこの間になんと約 2500件(相談件数)。もちろん加害者・被害者のほぼすべてが沖縄県民です。ケガした妻の傷の程度にかかわらずたんなる暴行事件(粗暴犯)として処理さ れますが、ケースによっては凶悪犯・風俗犯よりも悪質なものも相当数含まれるわけです。これらの数字を見ても、米兵だけを問題にすることがいかにバカらし いかわかります。過去40年間の累計が多いからといって、現在の沖縄にとって「米兵・米軍は日常生活の脅威である」とは断定できないことは明らかです。 DVを減らすことのほうが、沖縄県民にとって幸福だという結論さえ導かれます。

 米兵の事件は、数字的には過去に比べて改善されてい るわけですから、さらなる改善を求めるのは当然としても、米軍関係者ばかり責め立てて沖縄県民内の事件を軽視するのは、県民の安全をおろそかにすることに つながります。ジャーナリズムも知識人も政治家も、こうした事態を真面目に認識すべきではないでしょうか。今のような状態は不健全ですし、不真面目だとい わざるをえないと思います。

 彼らの問題とする過去の「沖縄(琉球)vs日本」関 係についても、事実認識に関してはミスリードばかりです。歴史観が歪んでいるというより主観的で無自覚です。基地偏在は重要な課題ですが、だからといって 「沖縄は差別されている」というのは心理的な負担を過大視することになります。沖縄差別という思想も『沖縄ノート』時代とまったく変わりません。60年代 の左派が進めた闘いのほとんどは、ある種の熱病のようなもので、民主主義・資本主義に対する理解も、人権やヒューマニズムに対する理解も不十分だったこと は、今や明らかになっていると思います。にもかかわらず、21世紀の基地反対運動や沖縄民族主義は、60〜70年代初めに普及した誤解だらけの「市民思 想」を代表する大江健三郎さんの主張をなぞっている。おかしいと思いませんか?

 沖縄の基地反対運動は、総じていえば徹底した他力本 願で、要求が通らないと「差別」だという。最近は沖縄も福島もパレスチナも同じだという人まで出てきています。財政支出の大部分を他国の資金援助に頼るパ レスチナもたしかに経済的には「他力本願」ですが、事態の深刻さがまったく違います。福島も、国内だけに沖縄と似た構造にみえますが、その深刻さは沖縄と まるで違います。

 基地反対派が、もし本気で「基地の即時撤廃、米兵は すぐに出ていけ」という目標を達成したいなら、もっと過激な直接行動や武装闘争に訴えるほかなくなります。そんなやり方はダメだというなら、安保や財政問 題・経済問題・貧困問題に真剣に取り組まないといけないのではないでしょうか。米兵の犯罪やオスプレイを過剰なまでに問題化するのは、沖縄問題の解決をま すます遅らせるだけです。その間に、貧困やDVにあえぐ多くの人たちが放置され続けるのです。そんなことが許されるのでしょうか?

批評.COM  篠原章
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