桜宮高校の問題は思ったより根が深い

7〜8年ほど前まで、大阪城公園には多数のホームレスがブルーシートや段ボールの「家」をつくって住んでいた。最盛期には600軒以上あったという。

 管理者である市当局は、「可愛そうだから」か「めん どくさいから」かは知らないが、これを黙認・放置していた。ご丁寧にも大阪の郵便局は、ブルーシートハウス・段ボールハウスに「番号」を振って、郵便まで 届けていた。不法に占拠した場所に勝手につくった家で郵便まで受け取れる。ぼくは素朴に「いい話だな〜」と思った。いいじゃん、いいじゃん、大阪ってなか なかやるじゃん。

 大阪でタクシー(ティッシュくれる 日本タクシー!) に乗ったとき、運転手さんのご機嫌を取ろうと(笑)話しかけた。

「大阪っておおからで人情のある町ですね。東京と違って大阪城公園のホームレスにまで郵便が届くんですね」

 運転手さんは恥ずかしそうな顔をしながらいった。

「お客さん、それが大阪の悪いところなんですよ。納税者へのサービスは満足にやらないのに、高い給料を貰う公務員が、どうでもいい仕事を増やして自分たちの権限だけは守るんです。人情とかやさしさとかはあまり関係ありませんよ」

 「へー、そんな考え方もあるもんなんだ」とぼくはびっくりした。

 が、考えてみれば、市民や国民の税金から給料を貰 い、法令を遵守しなければならない立場の公務員が、率先して法令を破り、本来の「福祉」を放棄しているというのが実態だった。不法占拠のブルーシートハウ スを放置するのも、そこに郵便を届けるのも、公務員本来の仕事ではない。ブルーシートハウスを撤去して、市民による公園の利用を守り、ブルーシートハウス に住む人たちの「再生」を考えるのが公務員本来の仕事である。ブルーシートを放置し、郵便を届けるのはそれこそ税金や郵政予算の無駄遣いだ。

 ぼくはそんなことにも気づかなかった自分を恥じた。

 その後、ブルーシートハウスは撤去されたが、大阪の公務員の実態が次々に明らかになった。そのほとんどは、公務員の「伝統的な既得権」に由来していた。給与の水準も相対的に高いことも明らかになった。

 ぼくは橋下市長や日本(大阪)維新の会の支持者では ないが、大阪という「公務員社会」をぶっ壊すのだ、という橋下市長の主張は理解できる。絶対的な公務員の給与水準のことだけをいうなら、たしかに大阪市は けっして高くはない。政令指定都市の中ではもっとも低いレベルだ。だが、大阪の一般労働者の平均年収は470万円。これに対して大阪市公務員一般行政職の 平均年収は640万円(橋下市長による給与カット後の年収)、公立学校教員の平均年収は650〜670万円という現状は、市民の眼から見て「格差」と捉え られても仕方がない。しかも、大阪市の場合、4世帯に1世帯が年収200万以下であり、生活保護率も全国屈指である。おまけに1人当たりの税負担は政令指 定都市でいちばん高い。財政赤字ももっとも深刻なレベルだ。

 橋下市長にさまざまな批判が向けられているのは承知 しているし、その一部についてはぼくも賛成だ。だが市長が、公務員や公的資金(補助金など)が幅をきかせてきた大阪の体質を深刻に考えているのは間違いな い。県民所得・市民所得に占める公務関係の所得比率は沖縄に次いで全国二位。部落差別の解消を訴えながら、事実上部落差別の温存につながっている同和対策 事業費の財政に占める比率は全国一位。大阪の財政的・経済的なポジションの凋落は目に余るし、教育水準の低下も深刻である。さらに、ここ20年余りの労組 や教員組合の活動を点検してみたが、彼らの活動は、市民や生徒を守ることではなく、「既得権死守」に向けられてきた、といわざるをえない。

 たしかに、福祉も教育も問題は山積だ。福祉や教育の 質を高めるにはお金はかかる。だが、その一方で、福祉や教育の経費が、何よりも市民や国民の税金によって賄われているという事実も無視できない。その経費 のかなりの部分が、公務員などの人件費だということも自覚しなければいけない。

 桜宮高校の生徒の自殺をめぐって、さまざまな問題が 指摘されているが、その背景には上で触れた「官高民低」(公務員・教員の肥大化)という根本的な問題がある。橋本市長の対応も物議を醸しているが、その発 言の背景には、「大阪市教育委員会」の実質的な人事権を日本共産党主導の教員組合が握ってきたという経緯も見え隠れしている。もちろん体罰は問題だが、体 罰だけが問題ではないのである。体罰を放置してきたシステムの問題をやはり皆で考えなければならない。

 実は似たような問題は、全国どこにでもある。ぼくたちは皆、無反省・無自覚でありすぎたのである。

 この問題の根は思ったより深い。「桜宮高の伝統は間違っていた」という橋下発言は、ぼくたち皆に向けられたものだと理解したほうがいいだろう。

sakuranomiya

批評.COM  篠原章
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