「右でも左でもなく前へ」安里繁信の政策(記者会見書き起こしあり)

《安里繁信記者会見》

6月22日、7月21日に投開票される参院選沖縄選挙区の候補予定者(自民党)である安里繁信氏が政策発表記者会見を開いた(於:ダブルツリーbyヒルトン那覇首里城)。

会見は質疑応答も含めて約37分。うち安里氏による政策の説明が12分強、質疑応答が25分ほどだった。

安里氏は表紙・裏表紙を除く全26頁のパンフレットを配布して政策を説明した。パンフでは「♯オキナワプライド ウチナーの声を真ん中に」がキャッチコピーである。

安里繁信政策パッケージ(表紙)

安里繁信政策パッケージ(表紙)

政策説明部分は書き起こさなかったが、
(1)「右左」という立場を越えて前に進む沖縄をつくる。
(2)50年先の沖縄を見据えた次期沖縄振興計画(2022年〜)を策定する。
(3)本島北部に空港を設置するなど沖縄の足腰を強めるようなインフラ整備を推進する。
(4)県民投票で「辺野古反対」の民意が示される一方、埋め立てが合法であるとの最高裁の判断も示されるという相反した現実を真摯に受けとめ、中央に沖縄の声をしっかり届けながら、辺野古と切り離した普天間飛行場の返還を進めるなど現実的な解決策をさぐる。
(5)47の有人島をすべて回った結果痛感した「離島苦」の現実を重視し、「国境防衛」という観点も勘案しながら、若者が安心して暮らしの生活基盤を整備する
といった政策が発表された。

安里繁信

政策発表記者会見に臨む安里繁信氏(6月22日)。琉球新報動画より。

《安里繁信の政策》

パンフには、キャッチコピー「♯オキナワプライド」をパッケージの名称とする政策を3つのカテゴリーに分け、沖縄県民本意の地域創造を意味する〈やさしい沖縄 145万県民が育むやさしい「私たち」の沖縄へ〉が24項目、日本のなかの地域創造を意味する〈つよい沖縄 1億2千万国民を牽引するつよい「日本」のオキナワへ〉が15項目、世界のなかの地域創造を意味する〈世界に誇るOKINAWA 76億人の世界に羽ばたく誇り高き美しい「世界」のOKINAWAへ〉が14項目、合計で53項目の政策が示されている。加えて、沖縄本島北部8項目、中部12項目、那覇・南部8項目、宮古八重山5項目、離島13項目の計46項目にわたる地域別政策が網羅されている。

安里繁信政策パッケージから

安里繁信政策パッケージから

安里繁信政策パッケージから

安里繁信政策パッケージから

 

〈やさしい沖縄〉カテゴリーでは、児童福祉政策(子どもの貧困対策)、教育政策、高齢者福祉政策、医療福祉政策などが並んでいる。おそらく対抗する高良鉄美候補を同様の政策を打ちだしてくるだろうが、「日米地位協定の抜本的改定交渉」「普天間飛行場の1日も早い閉鎖の要請」などは安里氏独自のアイデアに基づく。「政府との対立」では問題は解決しないという思いが強く感じられる。沖縄空手や琉球舞踊・組踊りの保存・振興といった文化政策もこのカテゴリーに含まれている。

〈つよい沖縄〉カテゴリーでは、経済の足腰を強化するための数々のインフラ整備(制度・ソフト面での整備を含む)が具体的に取り上げられているが、これまでの国政候補者にほとんど見られなかった「沖振法・沖縄振興計画策定検討委員会の設置」「法人税減免による県民所得の向上」「県民の生活を重視した県土発展のゾーニングを検討する委員会の設置」などといった政策に大きな特色がある。IT・AI促進政策は一見月並みに見えるが、行政事務のAI化(RPA化)を明確に打ちだしている点は新しい。

後段の記者会見における質疑応答にも出てくるが、県民自身の力を「核」としたあらたな沖縄振興への展望には、安里氏の強い決意と意欲が感じられる。関連するが、国土交通省などのお役人やお役人出身の政治家以外から「県土全般のゾーニング」という言葉が飛び出すこと自体がきわめて珍しい。ゾーニングは経済の成長や生活の質の向上にとって不可欠の制度的インフラだが、そのことを自覚して行政に取り組もうとする民間出身の国政候補者の登場は、未来に向かって変わり行く沖縄の新しい時代を予感させる。沖縄にとって「土木」を中心とした振興策はむろん重要だが、「何のためにインフラ整備をするか」がゾーニング段階からより明確になり、IT・AIの導入と活用が本格化すれば、「無駄遣い」「沖縄優遇」といった批判は起こらなくなるだろう。

〈世界に誇るOKINAWA〉カテゴリーでまず目を引くのは、「平和の心は沖縄の心」という言葉である。「沖縄の心は平和の心」という言葉は、沖縄の政治家がしばしば口にするが、前後を逆転させたところに新味がある。「沖縄の心は平和の心」は沖縄と平和を一体化するようなイメージがあるが、「平和の心は沖縄の心」とすると、「平和の心」という普遍的な価値を沖縄も世界とともに「共有」しているという意思表明となり、「共有」が強く意識されているところに安里氏の新機軸がある。「世界に羽ばたく人材の育成」はおそらく安里氏のもっとも強調したいところだろうが、育成の手段などはここでは具体化されていない。五輪・パラ輪の各種セレモニーに向けた沖縄文化のセールスを忘れていないところは、エンターテインメント・ビジネスに精通する安里氏らしい特色である。

地域別政策パッケージの中では、離党重視の諸政策に大きな特色がある。近年インバウンドの急増で一見華やいで見える沖縄だが、人口や観光資源・施設の豊かな本島・宮古島・石垣島などを別とすれば、「過疎化」「高齢化」「居住環境の劣化」は甚だしい。高校段階から子どもを島外に出さなければならないため(離島には義務教育のみ)、教育費負担も主要島とは比較にならないほど高額だ。一方で所得の源泉は大きく制約されている。会見でも取り上げられているが、一部の離島では生コン価格が本島の3倍におよび、老朽化した自宅の建て替えもままならない(沖縄はそもそも生コン価格が全国水準より高い)。借金して子どもに島外での教育を授けても、住まう家がないから子どもたちは帰島しない。都会でマンションを購入するほうが安価だからだ。こうして過疎化・高齢化は手が付けられないほどのスピードで深刻化する。そうなれば、離島(国境)防衛もままならぬ事態すら起こってしまう。安里氏はこうした事態を回避するための諸政策を打ちだしている。これまでの知事選・国政選挙の候補者は、本島など主要な島だけに対象を絞った政策パッケージが多かったが、安里氏には「離島を取り残して沖縄の発展はありえない」という強い決意があるようだ。

安里氏の政策パッケージの概要は以上の通りだが、以下には記者との質疑応答をすべて書き起こしてある。まずはご覧あれ。

《質疑応答》

――(NHK) この政策集の中で掲げている政策の中で、安里さんがもっとも訴えたいことは何でしょうか。つまり、政策上今回の選挙は何を争点にする選挙だとお考えでしょうか。

安里 ありがとうございます。私が考える今回の選挙の意義というのは、先程来、少し説明いたしましたけれども、我々が右と左という対立をやめて、前に進めて、半世紀先の新しい沖縄の振興計画を作って、その先の新しい未来を示す選挙だと思っています。

――沖縄振興を現実的に作っていくということが、安里さんが最も訴えたいことで、そこが争点になるということでしょうか。

安里 はい。

――(沖縄タイムス) 政策集の25頁について伺いたいんですけれども、「新たな基地負担を懸念する県民の声を受け止め」とあるのは、辺野古問題については、端的に、「賛成 / 反対」「容認するのか / しないのか」そこの考えを聞かせてください。

安里 ぼくは、「正直に辺野古問題について答えなさい」ということであれば、明確に答えさせて頂くのは、「民意は示された」ということです。我々の社会は民主主義ですから、我々が民主主義を否定してしまったら、この社会が成り立たない。そこに立って、あの県民投票で示された民意というものを現実として受け止めて、その声を現状の厳しさというものを、ぼくは伝えていく立場だと思うんです。そのことが結果として沖縄県民を分断してきたひとつの要因だと認識しているんです。

これは「肯定も否定もしない」という話で誤魔化すつもりはまったくなくて、我々はいくつかの事実を直視していかなくてはならないと思っています。

まず、強く訴えて行かなくてはならないひとつの項目をあげるとするならば、仲井真県政が埋め立てを承認しました。そのときに要請として挙げていた条件として付けくわえていた内容の中で、普天間の機能を一日も早く停止するという、5年以内運用停止というのがありました。もう5年経ちました。ですから、普天間の以降の機能については、一日も早く運用停止するよう、私は声を上げていきたいと考えています。

「これは県と国との約束である」という事実から、あの承認がスタートしたわけですから、ぼくらはひとつひとつ、憶測を越えて、都合も越えて、ひとつひとつの現実を県民が確認していかなければいけない時期が来ていると思うんです。加えて申し上げると、(辺野古埋め立ての根拠法である)あの公有水面埋立法という法律は、来春(2020年春)オープンする那覇空港の埋め立てを許可した法律と同じなんですね。これはみなさんお解りかと思います。ふたつの開発そのものが同じ法律の中でひとつのくくりになっている、どちらを選択するかという苦渋の選択という話ではなくて、同じ条件の下に那覇空港(の滑走路増設)もいっしょに進められるならば、後世がきっと「ありがとう」と言ってくれるという、当時のリーダーの深い心があったと思うんです。

その前提として、(普天間飛行場の)5年以内の運用停止というものが強く求められていたと思うんです。ですから、普天間問題について答えろということであれば、5年以内の運用停止の期間を過ぎている現状に対しては、一日も早い運用停止を求めていくということを強く訴えていく立場であります。

加えて、「法的な瑕疵はなかった」というひとつの現実があります。それは、あの埋め立て承認そのものが瑕疵があったんじゃないかという内容での訴訟だと認識していますけれども、(最高裁判決の結果)「法的な瑕疵はなかった」という事実もまた存在するわけです。ですから、「賛成、反対」とか、「これが間違っている」「民意だ」とか、あるいは「法治国家だから進めていいんだ」とか、この論争をこれ以上進めて行くことが、結果として沖縄県民を分断してしまうことになっていると思っています。

いくつかの事実を捉えて、「法的には瑕疵がなかった」、しかし「反対の民意が示された」、(という)この現実の厳しさを、伝えていくのが沖縄を拠点に、沖縄をアドレスに立つ政治家のメッセージであるべきだと強く認識しています。

したがって、ぼくは口が裂けても「推進」とは言いませんが、「反対」と声を上げて問題が解決するならとっくにあげてます。反対と叫べば解決するくらいなら、とっくに解決してるはずなんです。

(先に挙げたような)こうした事実を踏まえて、これからの時代に何を残していくべきなのかを、改めて声を上げて行かなければいけないと思いますし、「沖縄の問題」というくくりになっている課題をもう1回日本国民全体で考えていくべきじゃないかというメッセージも届けていく責任があると思うんです。

安全保障というものは、我が国が等しく国民がみんなで負わなければいけないものを、今沖縄にこれだけ集約されているわけですから、この「現状の厳しさってこんななんだよ」っていうこの難しさを、「マルかバツか」「All or Nothing」とか、それだけでは解決できないのが、この問題をここまで何十年にも渡って引っ張ってきた要因であろうということを、ひとりでも多くの方々に理解して頂きたいと思います。

外から吠えても変わらない、ということをぼくらはわかったわけですから、自民党の中に「沖縄は、こんなに厳しい状況ですよ」ということを声を上げていくことがぼくらの責任だと思います。

――(朝日新聞)今のお話しで、「厳しい現実を伝えていく」というのは、日本政府にというか、自民党に、ということでよろしいですか。

安里 (大きくうなずく)

――(朝日新聞)「外から言ってもなにも変わらない」と仰っているのは、「工事が進んでいる現状を反対しても仕方がない」、つまり何が言いたいかというと「容認する立場で」ということでしょうか。それともまた違う立場でということなんでしょうか。

安里 繰り返します、あの民意が下された以上、ぼくは「容認」ということは口がさけても言えません。

――(朝日新聞) 「容認ではない。でも反対ではない」ということ?

安里 「反対」の声を現実に受け止めて声を上げていくのが、沖縄から(議員として)出ていく人間の役割なんじゃないですかね。ただし、「法的な瑕疵はなかった」という事実も片方にあるわけですよ。「じゃ、どうする?」っていうのをぼくらが考えないといけないのを、こういう質問を繰り返すだけでもう完全に分断しちゃってるんですね。

ぼくは、逃げてるつもりは全然なくて、究極のリアリストですから、国をこれからどうしていくかということを、ぼくらはこれから本気で考えていかないといけないし、沖縄をどうしていくかということを本気で考えて行かないといけない。この現実に生きていく我々としては、もう平成の時代で「この議論の答えは出た」「沖縄の民意は示された」、その事実から「こんなに難しい状況なんですよ」ということをぼくらが声を上げて行かなければならないと思うんです。

――(朝日新聞) わかりました。もうひとつ、今度は国政選挙なので、憲法問題もひとつの争点になると思うんですが、憲法改正についてはどういう考え方をお持ちですか。

安里 私は自民党から出ますから、自民党の党是で謳われている一丁目一番地が「憲法改正に向けての取り組み」だと認識しています。その上に立って、憲法九条の理念をしっかりと継承しながら、常に、バージョンをバージョンアップして今の時代に合うようにしていかなければ、リニューアルしていくのがこの世の中の流れだと思うんですね。

で、憲法を議論しない社会そのものが、ぼくはちょっとおかしいを思うんです。ですから、学者の理論だけに引っ張られても行けないし、もっと国民目線で憲法のあり方について議論を深めていかなければ、国家と国民の関係そのものが曖昧になったまま、社会が流れているような気がするんです。

ですから、ぼくが「もう1回政治に関心を傾けて行こう」と呼び掛けるテーマとして、「憲法をみんなで考えませんか」という、「憲法このままでいいの?」「このままでいいなら今後どうしていこうか」「ちょっとこの辺見直した方がいいよね」など、我々の憲法ですから、我々国民の手によって、もう一回憲法を考えていくという社会を作って行かないかぎり、ぼくはこの国って成長しないと思っているんですね。

憲法を考える事そのものが悪だみたいな報道が目につくんですけれども、ぼくは平和憲法大好きです。大好きですけども、それではリカバリーできない国際社会になって来てるんですよ。その中において、平和を保守するぼくら日本人うちなーんちゅとして、平和というのは、これはもう当たり前のことですけれども、これを大事にして行きながらも、これだけ自然災害が多くなってきている社会がある。じゃあ、これからどんな思いでぼくらがこれから国家と向き合っていくべきなのかということを、国民が憲法を論じることが許されない環境になっていること自体、関心を寄せない現状自体がおかしいし、国会の場においても、まだまともな議論がされてないじゃないですか。単純に今、自民党の草案がありますけれども、あくまでもあれは、議論を仕掛けていくうえでの提案ですよね。この案に基づいての意見交換すら今出来てないのが現状なんです。

ですからぼくは、そこはもっとフラットに、憲法を考えるということは、国家を考えるということになっていくので、我々は日本人として憲法については正面から受け止めて、「今の時代をどうしていく」「国との関係はどうしていく」とすべてそこに謳われていくべきものですから。そんな認識の中で憲法を捉えていくべきじゃないかと、ぼくは思います。

――(琉球新報)辺野古を関連するんですけれども、政府与党としては「普天間の危険性除去」と「辺野古移設」がセットになると思うんですけれども、軟弱地盤の問題が明らかになって、工期が当初計画よりも伸びるということが想定される中で、一日も早い危険性除去に向けて、どうやって危険性を除去するのか、安里さんのお考えがあればよろしくお願いします。

安里 「危険性除去」というのは、普天間の危険性除去のことですよね。それについては先程お伝えした通り、あの埋め立て承認をした事実から今日まで、まだ運用を継続して行っているわけです。実際に、私も宜野湾で子育てをしている者として、昨年の秋の運動会に子どもたちの晴れの舞台を応援に行きました。子どもたちにとって運動会というのは、一年に一回の大切な時間で、おじいちゃんおばあちゃん、あるいは、とうちゃんかあちゃんに自分の晴れの姿を見せたいという思いで、一所懸命練習してその日に臨むんです。その日に臨んで、誇らしげに入場行進をして来て、入場行進のあとで校歌を歌って、みんなで「お歌」を合唱したんですけれども、その歌っている最中に上空をオスプレイが飛んだ。そしたら、その歌声はすべてかき消されてしまった。

私も安全保障の日米体制というものは、今の東アジアにおいてとても重要な役割を担っていると認識しています。そんなぼくでさえ、その状況をみたときにため息が出ました。怒りすら覚えました。

じゃあ、宜野湾に暮らしている方々って、どんな思いで生きているのかって考えたときに、これはもう計り知れないものがあると思うんです。ですから、嘉手納以南の返還という方針が出てからかれこれもう20数年経つんですから、ぼくらがもう一回この時間、これからの時間、この問題についてどのように向き合っていくべきなのかということを、本気で声を上げて行かないと。

あれは玉突きだということで、玉突きが前提で承認されたものではないんですね。みなさん、おわかりの通り、辺野古に移設ということは、これは移設問題。でも、当時の仲井真さんが示したのは、5年以内の運用停止ということなんです。

今の軟弱地盤の問題については、まだ工期も見えない、予算も見えない現状の中で、我々は注視していくとしかコメントを出しようがないんですけれども、ただ言えること、みんなで考えてほしいことは、「今あれだけの土砂が入ってますがどうしますか」ということなんです。

止められると言ったじゃないですか、じゃ、あの土砂どうしますか?掘り起こして元に戻せますか?そこもぼくらは、現実問題として考えなきゃいけないんですよ。

どういう技法であの土砂を掘り起こして元に戻すことが可能なのか、ぼくらはいくつかの現実と向き合って生きて行かなきゃならない中で、「止める、止める」といっても、すぐ止まる話じゃないかもしれない。あるいはこのままだったら「黙認する」ということは絶対言えないし、でも沖縄の民意が示されたという事実が、ぼくら沖縄県民にとって今後この問題とどう向き合っていくかということをひとつひとつ考えていかないといけないと思うんですね。

ですから、ぼくらが今思考停止になってしまったら、この問題は解決しないと思うんです。より沖縄益に近づけていく努力をして、沖縄の思いを実現する努力をする県益と、それと国益というものがあって、その狭間の、あいだにあるものを解決するのが政治だとするなら、ぼくらはこの一個一個の事実をどうしっかり決めて、再確認。再確認を繰り返して、今進んでいる現状も再確認して、どうするかっていうことを本気で考えていかないといけない時期に来ているんじゃないかなと思います。

平成の時代に出た答えというものを踏まえて、この令和の時代に辺野古問題についてもどう考えていくかということについて真剣に考えていきたいし、時間がかかるかもしれませんけれども、県民がこれだったら60点、70点、赤点じゃなくて、より100点に近づける、一日も早い平和で豊かな沖縄を創りたい。「そのためには、基地の整理縮小が必要だよね」ってこれはみんなが言っていることです。それに近づけていく努力を、ぼくらが諦めずに続けていくというのがとても大切だと思いますが、いかがですか?

――(宮古毎日新聞)左でも右でもないという旨については、よくわかりました。日米安保関連について、離島防衛論という話になると思うんですが、今、宮古八重山においては自衛隊のミサイル基地の配備について、どのようにお考えかお聞かせください。

安里 みなさんご承知の通り、今の離島防衛のあり方について、指針あるいは大綱で示したのは民主党政権時代なんです。民主党政権時代に初めて防衛大綱の中に自衛隊の離島配備をいう計画が盛り込まれたんです。その計画の中で、今の流れが出来ているという認識を持っていますけれども、今のこの東アジア全体の緊張感だけではなくて、今の自然災害のあり方も含めて、私も離島をくまなく歩いていると、自衛隊の方々のおかげで命を救われたという人にもたくさんお会いできるんですね。

ですからぼくは、自衛隊の存在そのものの役割というものは、今の時代にとても求められていると思いますし、これから島嶼県沖縄で暮らしていく者としては、離島配備の計画が進められているという現状については、より常識的な認識で受け止めています。民主党政権の中で、数少ない良いことをやった中で、ひとつは離島振興と配備計画を明確に打ちだしたということが、今でも高い評価として残っていると私は思っています。初めてのことでしたから。

――(八重山日報) 石垣の問題として、尖閣諸島に中国の船が入ってきているという問題があって、何十か月も連続で入ってきているという問題があるんですけれども、安倍政権の今の対応策を安里さんは支持されるのかと、対応策が考えれるのであれば、お考えを教えてください。

安里 はい、対中国の脅威という問題だと思いますけれども、私は一喜一憂する必要性はないと思いますし、より緊張感を持って、これまでの計画で進めている通りに物事を捉えて行くべきという認識を持っています。ですので、先ほどの辺野古の話もそうですけれど、みんな知っているんですよ。脅威が近くに迫ってきていることを。わかっていても感情的に結果を出してしまったのが民意ですから、その答えもひとつの我々の事実として捉えて行かなければならないし、今安倍政権が水面下でどう交渉しているかということ自体、私もよく認識はしていません。ただG20が今後行われる中で、そういう議題がひとつでも積極的に建設的な意見交換ができることを期待したいな、と思います。外交と防衛をぼくは対(つい)だと思っていますから。

――(共同通信)辺野古関連で一点確認があるんですけれども、先ほど県民投票で「辺野古反対の民意が示されている」と。それを「政府なり自民党なりに伝えていく」と仰っていたと思うんですけれども、「伝えていく」ということから更に踏みこんで、辺野古の中止を求めていくという考えがあるのかどうかをお伺いしたい。

安里 繰り返します、先ほども答えを的確に言わせて頂いたつもりですが、「法的な瑕疵はなかった」という事実も片方に存在するんです。ですから、民主国家であるというのと同時に、法治国家ですから、その両方を睨みながら、「法律的には問題なかったけれども、民意は明確に示された」と、このふたつの事実を捉えて、沖縄の問題としてぼくは訴えていくべきだと思うんですね。「法的には問題なかったけれども、これくらい “反対” の民意が今でも強いんだよ」っていうことをぼくは伝えて行かなければならないと思っているんです。そして今、代替方針として掲げている嘉手納以南の基地返還整理縮小の問題についてもぼくらは声を上げていかなければならないですし。そこに、「沖縄が受け入れたじゃないか」っていう話にすりかえられないようにぼくが声を上げ続けていくということが、沖縄の政治に挑むぼくの仕事だと思っています。

先ほど言ったように、ぼくらが一緒になって「わーっ」って言ってそれで解決するんだったら、みんなやってますよ、とっくに。それでは解決しないってことはみんな知ってる話なんですね、事実として。

ですから、ぼくは、今もう令和の時代に、平成をどう総括して、より現実的なひとつひとつを我々は記録に残して、次の半世紀先の沖縄を創っていく上で、この問題をどう捉えていくべきなのかということを、国民的議論にもやはり持ち込みたいなと思ってますし、時間がかかるかもしれませんけれど、必ず解決の糸口をぼくは県民と一緒に模索していきたいと思っています。

稲嶺惠一

会見終了後に拍手を送る稲嶺惠一元知事:琉球新報配信動画より

《むすび—稲嶺惠一元知事が安里氏に寄せる信頼》

この会見から安里繁信の「人となり」まではわからない。政策については、選挙公報や街頭演説、安里陣営から配布されるパンフやチラシから多かれ少なかれ知ることができるが、「人となり」は簡単に伝わるものではない。が、選挙に掛ける熱意というより、沖縄を「前に進めたい」という熱意には並々ならぬものがあると記者・同席者は感じたはずだ。稲嶺惠一元沖縄県知事をトップにいただく応援団も安里氏のそうした熱意に動かされて安里氏の支援を決めたのだろう。

記者会見終了を告げる司会の声のあと、安里氏は立ち上がって記者席に一礼し、列席した支援者にも頭を下げたが、拍手を送る人々のなかに稲嶺惠一氏の姿があった。稲嶺氏は、大きく成長した我が子を見るような優しい表情で満足げに微笑んでいたが、その場面がとても印象的だった。安里氏の「人となり」は稲嶺氏のその笑顔から類推するほかない。

中国の大連生まれ、バンコク、福島、東京などで育った稲嶺氏は沖縄士族の名門の出身で、亡くなられた翁長雄志前知事とも同じ門中(血族)であり、「ジェントルマン※」というにふさわしい人物である。安里氏と選挙で戦う「オール沖縄」の元祖といってもいい沖縄タイムスの元社長・新川明氏との親交も深い。翁長雄志前知事の葬儀でも心温まる弔辞を読み上げている。その稲嶺氏が安里氏に強い信頼を寄せ、政治家として最適任であるという姿勢を示している事実は大きい。「右・左」「基地反対・賛成」という軸を前面に出す時代は終わったことを象徴的に告げるできごとだと思う。

※ここでいう「ジェントルマン」とは人格高潔で無私公平の人士という意味。

批評.COM  篠原章
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