不変の矜恃「基地反対」を守る闘士:高良鉄美の政策

《「辺野古反対」が最大の政策》

対立候補・安里繁信氏に遅れること1週間、参院沖縄選挙区に出馬する「オール沖縄」の候補予定者・高良鉄美氏が6月29日に政策発表記者会見を開いた(那覇市・教育福祉会館)。記者会見は質疑応答も含め35分間、うち政策発表は13分30秒ほど、記者との質疑応答は約22分だった。

会見には、玉城デニー知事(下の写真では高良氏の右隣)、糸数慶子現参院議員(同じく左隣)、照屋寛徳衆院議員(糸数氏の左隣)も同席し、合間には高良氏と糸数氏が談笑する場面も見られた。高良氏が候補に選ばれるプロセスでは、現職の糸数慶子氏が一時不満を表明して社会大衆党を離党するなど混乱も見られたが、現在関係は修復されている。糸数氏の同席は「オール沖縄の統一候補」であることを印象づける狙いもあったようだ。

高良鉄美会見

中央の色鮮やかなかりゆしウェアが高良鉄美氏(6月29日 琉球新報動画より)

政策発表のためのスピーチは原稿に目を通すかたちで行われたが、約6割の時間(8分)は「辺野古移設反対」「自衛隊配備反対」という主張に費やされた。「オール沖縄」が擁立する候補の場合、支援する党派・団体にとって共通する「政策」が「辺野古埋め立て反対」と「消費税増税反対」だけである以上、政策発表の席でも辺野古に重心を置いてスピーチするのは当然のことだ。政党でいえば、立憲民主党、国民民主党、日本共産党、社会民主党、社会大衆党(地域政党)などが高良氏を支持しており、さらに連合沖縄(自治労、沖教組など)を始めとする労組の大半が高良氏を支援する。

高良氏は、米軍基地が沖縄県民に負担を強いている現状を、ここ数年の米軍による事故・事件を例に挙げて詳しく説明した上、負担軽減のために辺野古新基地建設(埋め立て)を直ちに止めるべきだと強く主張した。さらに軟弱地盤や活断層の存在を前提に、玉城知事の就任後に沖縄県が試算した「辺野古移設経費2兆5500億円」を引き合いに出して、辺野古移設は技術的にも財政的にも不可能であると結論づけている。さらに、今回のように国が進める事業の公益と自治体の公益が衝突した場合、自治体に不利益をもたらさないよう決着する法的枠組みをつくるべきだという主張も掲げた。高良氏は基地反対運動を熱心に進めてきた「闘士」であると同時に、憲法の研究者として長く琉球大学教授を務めてきたが、新法の制定という主張は憲法学者としての面目躍如である。

《経済政策の柱は消費税増税反対》

基地政策以外で真っ先に挙げたのは、(この秋に予定されている)「消費税増税反対」という政策である。高良氏を支持する主要党派の「増税反対」の姿勢が出揃ったのは6月24日のことであり(立憲民主党がこの日増税凍結の姿勢を決めた)、高良氏の政策発表にギリギリ間に合った恰好だ。「消費税増税反対」は参院選挙を控えて与党との対決を鮮明にするために野党側がつくった「対立軸」だが、立憲民主党・国民民主党の母体である民主党が消費税増税推進の立場だった経緯を考えると、選挙に向けての高度に政治的な判断であるといえよう。万一、立憲民主党が消費税増税に対する政治姿勢を留保したら(あるいは推進に回ったら)、今回の政策発表で目玉になるのは「辺野古反対」だけに終わった可能性があった。もっとも、共産党の主張との親和性が高い高良氏本来の主張は「消費税廃止」だと類推される。

沖縄振興策については、過去の振興策の成果を認めたうえで今後も推進する姿勢を表明したが、「県民の心の入った振興策」を訴えた。本土ではなく沖縄県民が潤うかたちに振興策を改めよというのが高良氏の主張だが、この点は先に政策を発表した対立候補・安里繁信氏のスタンスに近いものに見える。が、「成長のために補助金を活用する」という目的が明確な安里氏に対して、高良氏は「県民への分配」を重視しているように思われる。高良氏自身の具体的な振興計画の柱が見えにくいせいだが、高良氏は今後、振興策に対するスタンスを明確にし、具体的なプランを発表する姿勢が求められるだろう。また、高良氏は子どもの貧困など福祉や医療、教育の充実にも触れたが、福祉・医療・教育については安里氏も充実を訴えており、この分野ではお互いに「政策の差別化」は難しいだろう。

《質疑応答—安保破棄・自衛隊違憲の立場が明確に》

質疑応答では、まず日米同盟や憲法に対する高良氏のスタンスを問う質問に多くの時間が割かれた。高良氏は日米安保条約破棄を主張する立場であることを明確にしたが、その点では立憲民主党や国民民主党と姿勢が異なる。両党の立場は、日米同盟は支持するが辺野古埋め立ては支持しないというものだから、原則として高良氏の主張は受け入れがたい。そうした矛盾を突かれることを気にしてか、会見終了間際に「日米安保を即時破棄するということではなく、段階的に破棄するという意味だ」という趣旨の発言によって補ったが、これも日本共産党に等しい主張であり、「日米安保・日米同盟反対」という姿勢は事実上貫いたことになる。トランプ米国大統領が「日米同盟は不平等条約」と発言したことを受けて、記者からは「トランプの姿勢との違いは何か」という質問も出たが、その回答はきわめてわかりにくかった。無所属で立候補し、支援政党に配慮せざるをえない立場は理解できるが、トランプ発言に対する対応も含めて、安保に対する姿勢は各党派と事前にしっかり調整しておくべきポイントだろう。

憲法に関連して「自衛隊は違憲だと思うか」と問われた高良氏は、「その存在は違憲だが自衛隊法によって合法化されていることは認めなければならない。国家間の係争はあくまで外交によって処理し、自衛隊は段階的に災害救助隊のようなものに改編することが望ましい」という説明で対応した。併せて「自衛隊の存在を合憲化する憲法改正には反対」という見解も明らかにした。これも共産党に近い主張である。高良氏が当選した場合、いかなる会派に属するのか現段階では不明だが、憲法改正をめぐる論戦が本格化したとき、「オール沖縄」に結集する共産党あるいは社民党以外の諸党派の姿勢との違いが浮き彫りになる可能性はある。政治的環境の変化によっては、「辺野古反対」「打倒安倍政権」という特定イシューでのみ共闘する「オール沖縄」の結束力が試されるだろう。

《県民の伝統的矜恃の守護者》

が、高良氏の名誉ために付け加えると、お花畑安保論とか空想的安保論と揶揄されるものであろうが、高良氏の日米同盟反対・憲法改正反対・自衛隊違憲などといった安保観・憲法観は、沖縄県民の伝統あるいは矜恃ともいえる「沖縄の心(平和の心)」を代弁するものだ。したがって、立憲民主党や国民民主党はヘタな政策協定等によって高良氏の主張や行動に制約を付けないほうがいいだろう。高良氏の主張は、おそらく県民の半数近くが今も守り続ける「不変の矜恃」の象徴であり、高良氏はその矜恃の「守護者」である。ぼくにとってそれは懐かしいものにすぎないが、高良氏のような「反戦平和の闘士」を求める沖縄県民は今も多い。

してみると、今回の参院選挙は、安里氏のリアリズム(現実主義)と高良氏のアイデアリズム(理想主義)の対決の場であるともいえる。

ひとつだけとても残念なことは、高良氏が自らのトレードマークと自認していた「帽子」を、選挙に際して脱いでしまったことだ。高良氏が「ダンディな帽子に派手なかりゆしウェア」という出で立ちで選挙を闘えば、若者に人気のあるファッションとライフスタイルをセールスポイントの1つとする安里氏との選挙戦は、若い世代にとってもっとおもしろいものになるだろう。

高良さん、今からでも遅くはない。帽子を被って街に出でよ!

※高良氏の政策集を入手できなかったので、誤謬・誤解の可能性は排除できない。本稿にそのような誤りがあればご指摘を。

批評.COM  篠原章
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