山城博治さんに会いに行く~「革新」は何処へ?

昨年12月の総選挙で、保守勢力がどの程度の得票を集めたかを単純に計算してみた(中央選管集計)。

85.82%  日本未来の党含まず
91.51%  民主・日本未来の党含む
69.82%  民主・日本未来の党含まず

保守勢力の定義が難しいのは、民主党と日本未来の党の扱い方である。民主党は民社・社会・旧自民の一部を寄せ集めた政党だし、日本未来の党は民主党の小沢派と環境重視・脱原発グループ系の候補者が混在している。旧来の図式で言えば両党とも「保革相乗り」。両党を保守に含めれば日本の保守勢力はなんと91.5%もの支持を集めたことになるが、俄に信じがたい数字だ。保守を「市場経済重視」「日米同盟支持」という要件で定義すると、日本未来の党は少なくとも日米同盟一辺倒ではなかったし(どちらかといえば親中派)、市場経済に対する規制も厳しくしようという立場。そこで日本未来の党を保守から除外して、民主党のみを保守の括りに入れるというのが、いちばん妥当な計算方法ではないか判断。結果として85.8%というのが保守勢力の得票率になる。

あれから約5か月。「アベノミクス様々」と呼べる景況と、安倍首相の実に巧みな政治的・外交的パフォーマンスで、自民党の評価は揺らぐことはない。が、一方で「靖国参拝〜改憲」といわゆる「右傾化」の道を行くことはたしか。ぼくは9条以外の部分について改憲したほうがいいという考え方なので、改憲を議論することには大賛成だが、96条の改正には反対である。自民党などの改正案を承認したら先進国中、もっとも憲法改正がしやすい国になってしまう。アメリカのようにハードルが高くても改憲は可能であり、改憲が必要ならこれから個別の条項について議論を深めていけばよい。改憲論がタブーでなくなったとたん96条改正を一気に進めるというのは、あまりに慎重さを欠いている。

だからといって「9条至上主義」の、いわゆる護憲勢力を応援しているわけではない。憲法には9条しかないと思っている連中の何と多いことか。識者とかジャーナリストにそういう単眼的な人たちが相変わらず多いことにも驚く。保守派85%超の国民相手に、「軍靴の足音がする」「靖国参拝は危険だ」といくら繰り返しても、皆うんざりするばかりじゃないの? 護憲も反米反安保も沖縄差別論もけっこうだが、少なくとももう少しフレッシュな切り口で語ってくれよ、といいたくなる。工夫がないというより反省がない。まずは自己批判から始めるべきでしょ。

で、よせばいいのにTBS系『サンデーモーニング』 とTV朝日系『報道ステーション』を続けて観てしまった(5月5日)。最新のニュースをコンパクトにまとめてくれるのはありがたいが、相変わらず革新系識者の方々の「言いっ放し」の意見ばかり。あ〜あ。時間を無駄にしちゃった。無駄を少しばかり取り返す意味でちょっとイチャモンをつけておきましょう。

sekiguchi

『サンデーモーニング』では、革新派を応援する立場から「日本における革新派の退潮は東西冷 戦構造が崩壊したからだ」という話がでていた。米ソの核のバランスの下で保たれていた「平和」が日本における保革勢力のバランスをも保っていたということになる。ソ連の核があれば今のような保守派の台頭はなかったということだ。でも、日本の革新派はつねづね(今も)「軍事バランスに頼った安全保障はまちがいだ。外交力を発揮せよ」といってきたはずでしょ?「あなた方は実は核がお好きだったんですか?」と茶々を入れたくなった。

一方の『報道ステーション』では、日台漁業協定がやり玉に挙がっていた。いわく「沖縄の漁民を無視した漁業協定は問題だ。沖縄差別だ」。日本が台湾に譲歩したことで尖閣周辺は「共同漁場」となってしまう。宮古・八重山・久米島の漁民は割を食う可能性は高い。だが、今回の漁業協定は、中国に対して「尖閣問題で日本と台湾は歩調を合わせているぞ」というメッセージにもなる。「武力」によらずに中国の領海侵犯を牽制できる。まさに革新派の方々の言う「外交力」が発揮されている状態だ。

武力を否定しながら核時代を評価したり、外交による安全保障を主張しながら、実際にそれが上手くいくとケチをつけたり。こうした革新系識者の方々の矛盾した姿勢が、日本の革新派をスポイルし、ダメにしてきた。もちろん、革新派は自分たちが退潮した原因について本気で考えたこともない。自己批判なしということだ。彼らは安倍首相を手厳しく批判するが、保守系右派の台頭を許してきたのは革新系識者と大手メディアである。「革新病」が治癒しないのは諦めているが、もう少し実のあるテーマや議論を持ち出せないものか。アベノミクス批判も「今のうちに言っとかないと」といった程度のレベル。アベノミクスがいつまでも有効でないことは、アベノミクス支持者のほうがはるかによくわかっている。今の革新派にはとても論破できない。ほとんどの「識者」は明らかに勉強不足だもん。

ちなみに八重山漁協などは5月7日に台北で開催される日台漁業委員会に出席して、台湾側との利害調整に臨む。成功を祈ります。

さて、革新批判ついでにもうひとつ絡んでおきましょうか。

少々前のことだが、4月28日の「主権回復の日」、 「サンフランシスコ講和条約60+1年 東京シンポジウム」が開かれた。事実上の主催が情況出版だから、(旧)新左翼系のシンポだとわかっていたが、パネリストの山城博治さん(沖縄平和運動センター事務局長)にどうしても聴きたいことがあったので、文京区民センターに出向いた。敵地に乗り込む緊張感がいい(笑)。

同シンポの告知にはそんなこと書いてなかったが、『「主権回復の日」政府糾弾!』と舞台上の垂れ幕に印字されていた。うむ。シンポじゃなくてまるで集会じゃんか。場を間違えたかな。こちらはけっこうな覚悟で乗り込んでいるんだが、集会だったら質問もできない。

元日刊ゲンダイの二木啓孝さんが司会だったが、開口一番「今回はフロアからの質問時間はとりません」。な、な、なんだよ。おまけに山城さんが来ていない。きょうは沖縄は「屈辱の日」。大きめの集会が宜野湾である。沖縄での規模の大きな政治集会(基地反対集会)はいつも山城さんが軸になって企画するが、直前のWEBチェックでも、山城博治さんの名前は東京の パネリストから削られていなかったから、選挙運動(山城さんは比例代表で次期参院選に出馬する)もあって東京に来るのかな、と思っていた。が、結局、裏切られた。残念。でも、この雰囲気じゃ質問はもちろんできないし、ヤジも飛ばせない。シュン。事前に「袋だたきにあわない」質問の仕方を練り込んではいたけど、それも無駄だったか。

つまらんから帰ろうとも思ったが、500円の会費も 払ったし(笑)、山城さんの代理で安次富浩(あしとみ・ひろし)さんも来ている。辺野古ヘリ基地反対協議会の代表で、山城さんと同じく基地反対運動の中枢。見かけたことはあるが、話は聞いたことがない。同じくパネリストで八重山(石垣島)から来た大田静男さんの話も聞いたことない。大田さんは八重山教科書問題の左派系論客で民謡「とぅばらーま」の専門家でもある。東京からは元ベ平連の呼びかけ人・武藤一羊さんが出演だ。武藤さんもどちらかといえばクールな論客。しょうがねえな。きょうはお勉強するかな、という気分で最前列に座った。お隣りが大田さんだったので、知り合いじゃないけどなんとなく会釈。大田さんも会釈を返した。

集まった人たちのほとんどは50代から60代。先日、乗り込んだネグリのシンポと比較すると、明らかに若くない。前期高齢者が多数派。左派も年取っちゃったんだね。30代以下の若い人はちらほらだ。これじゃあ、体力勝負の闘いを乗り越えるのはたいへんだな。ほとんどの人たちが昔ながらの左翼ファッション。地味系のトレーナーやヨットパーカーにジーンズ。 けっしておちょくるわけではないが、やはり辛い。

辛いという意味は二様。ひとつは、彼らが数十年間変わらぬ政治思想を保ち続けているということが見て取れるからだ。よくいえば「浮気」なし。時代の「かたち」は変転している。その「かたち」の変化にも目をくれなかったということだろう。もうひとつは、組合や党派の専従らしき人たちが多いということ。組合はまだいいが、党派の専従は年収200万以下だ。 200万以下の年収でもがんばっているというのは立派だが、200万で雇っている党派の根性が気に入らない。普通なら暮らしていけないではないか。看護士さんなんかでがんばる妻に支えられている人はまだいいが、独身を貫く専従もたくさん知っている。結婚なんてできっこないよ。年金や健康保険だって払えやしない。革新系党派は資本家の「搾取」を糾弾するが、資本家でも革新系党派ほどひどい待遇で人を雇ったりしない。

パネリストの話は思ったより大人しい。というか、事前に想像した通りの話がつづく。ヤジもなし。「ヨ〜シ」も少なめ。沖縄問題について「ウソばっか」というポイントもあまりなかったが、反論したいポイントは山ほど。でも、自ら「抑えて抑えて」と言い聞かせる。スパイみたいなもんですからね(笑)。

なんだかな〜、社民党の集会に来てしまったような気分だ(そのなかに紛れて共産党員の知人もちゃっかり腰掛けてた)。関係ないけど、音楽評論家のMさんの姿も見かけた。

「主権回復の日」4.28東京シンポジウム

「主権回復の日」4.28東京シンポジウム

政治情況の分析では、やはり武藤さんは優れてると思った。年をとってもみるべきところは見ている。だが、同じものをみているのに、どうしてぼくらと結論が違うのか。

本土の革新勢力は沖縄における基地反対運動の本質を捉えられていない。沖縄のほうが一枚の二枚も上手だ。本土の社民党はたんなる弱小野党だが(というよりも今や沖縄の地域政党と化している)、沖縄の革新勢力はきわめて保守的な支配階層として安泰だ。今や沖縄の革新勢力がなければ社民党も成り立たないことを沖縄からきた彼らも承知している。本土の革新勢力さん、あんまし沖縄に頼るんじゃないよ。最後は失望することになるよ。革新系党派は「沖縄差別」と「沖縄依存」の繰り返し。保守党派の差別と依存よりタチが悪い。

 参考までに沖縄における総選挙の得票率は以下の通り。

71.90%  未来の党含まず
78.25%  民主・未来の党を含む
63.59%  民主・未来の党含まず

本土の保守勢力との差は12〜13ポイント(沖縄の場合日本未来の得票は、ほとんど小沢支持票と見ていい)。この差分が社民党を支え、基地反対運動を支えていると考えるべきだろう(「オール沖縄」はまもなく瓦解する)。

それにしても革新勢力の安倍政権に対する危機感は強い。話を聞いているうちに、彼らがなぜそこまで強い危機感を持つのか、その背景はわかる気がした。ぼくは「安倍全面支持」でもなければ、もちろん「安倍政権打倒」でもないのだが、安倍さんはこれまでの保守政治家と違って、「正体」や「本音」を隠そうとしないから、彼らは怖れているのである。正面から攻めればいいのか、背後から攻めればいいのか、彼らはそれも模索中だ。野党を経験した自民党は強い。強すぎる自民党も要警戒だが、今のところ安倍自民党を遮る勢力はない。

さてどうしたものか。

批評.COM  篠原章
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Pocket