私信公開:「沖縄振興策」にかんするメモ(後篇)
承前)私信公開:「沖縄振興策」にかんするメモ(前篇)の続編
補助事業の見直し
しかし年々の収支の積み重ねである貯蓄現在高で見ると、沖縄の状態は惨状ともいえる状態を示しています。資産に関するジニ係数も全国断トツの悪さです。 振興策について議論しようと思っても、そもそも振興策に無知な人が多すぎますし、沖縄経済の実態についても無知な人が多すぎます。政治家は特にそうです。官僚でも理解している人は多くないと思います。学者もしかり。「総括」に関わった大学教授のAさんも「振興策の資料は読むだけで疲れるからそれ以上のことは何もしない」といっていました。ふだんから沖縄の経済社会の問題点を鋭く指摘しているBさんが「振興策批判者」として適任だと思い、彼に「やってみれば?」と促したところ、沖振法も振興策の内容もろくに知りませんでした。沖縄には財政の専門家もいますが、独自の視点で分析しようという人はいません。「基地と切り離して十分な振興予算を長期的に手当てすれば沖縄経済はより発展する」という「いかにも」の論理しか持ち合わせていません。 振興策の難しいところは他県から切り離された予算体系になっているところです。「他県並み」の部分と「優遇」の部分が混在しているのです。ぼくがザッと見たところでは、明らかな優遇は3000億円中1200億円程度だと思います。総額2000億以下に削減すれば、他県との公平性はほぼ確保されると思いますが、それも「どこをどう減らすか」という問題に直面すると思います。
おそらく政府も沖縄県も、一括交付金のような裁量度の高いものは維持して、他のものは減らすというやり方を好むと思います。「一括交付金」以外のものは、他県と同等同質の補助金が多いので、優遇が明らかな一括交付金にこそ沖縄側は拘ります。一般的な国庫支出金は他の予算に組み替えて、一括交付金や大型公共工事など国家プロジェクト予算だけを振興策に盛りこむというやり方をとると、振興策の過去の数値との対照が難しくなり、かえって優遇措置が増える可能性もありますので、ここは要注意です。
厄介なのは一括交付金に拘るのは沖縄県だけでなく、総合事務局も拘りますから、かんたんに減らすことは困難です。目的と効果と金額のバランスをみながら削っていくほかない。「何にどの程度の予算を付けるべきか」「他予算や他県との公平性はどうか」といった視点で、合理的な説明が可能なものだけ予算を手当てしていくだけで、おそらく2000億程度まで減らせると思いますが、それこそ政治主導でちょっと強引にやるほかない。
沖縄経済について展望を持った沖縄の政治家がいれば、振興策をマシな方向に誘導することが可能なのです。玉城デニー知事や屋良朝博衆院議員などは選挙で「振興策見直し」を口にしましたが、経済についての具体的な展望がないために、結局は官僚主導型の従来通りの振興策プランを受け入れざるをえなくなると思います。振興策についてある程度理解できるのは共産党の赤嶺政賢衆院議員ぐらいじゃないでしょうか。ただ、赤嶺議員の理解は振興策を増やす方向での理解ですので、削減を含むぼくらのやり方とはかなり溝があると思います。
物流インフラへの補助金やエネルギーインフラへの補助金にはまだ意味がありますが、今もって沖縄から移出できるサービス物品は限られていて、この点をどう改善するかが最大の鍵です。本土の富裕層や東アジアの富裕層の利用を見込んだ高度医療システムを西普天間に導入するというプランも進行中ですがあまり期待できません。吉本をおもな担い手としたエンターテインメント・ビジネスの輸出も検討されていますが、吉本が再上場して体質を改善し、ホワイト企業であることを広く示さないかぎり、受け入れられないでしょうね。吉本興業、ジャニーズ事務所、AKSなどによる半ば寡占状態の日本のエンターテインメントは、ビジネスとしては欧米に10年は遅れています。そのレベルから変えないとエンターテインメント・ビジネスの未来は見えません。ぼくはAIと自給エネルギーを統合した経済モデルを離島で展開して、それをパッケージとして販売するプランを考えていますが、IT立県を謳いながらRPAすら導入できない沖縄の現状を変えるのはなかなか大変です。
優遇税制の改廃
さらに優遇税制の問題もあります。税制から言えば、沖縄はもはや「一国二制度」になっています。沖縄ではインバウンド増加を見込んだ不動産投資が過熱しています。宮古島では住民が借りられる家さえなくなりつつある。本島南部、中北部も名護あたりまで家賃や地価が高騰し続けています。優遇税制が背中を押すからこういうことになる。中国・台湾からの不動産投資もかなりの金額だと思いますが、ダミー会社を使っているため金額はわかりません。基地返還による土地余り現象が起こらない限り、あるいは相当な景気後退が起こらない限り、この過熱ぶりは解消されないでしょう。
来年いっぱいはこんな調子でしょうが、「五輪後不況」みたいなものがくれば、沖縄経済は相応の打撃を受け、振興策増額要求が強まりますから、警戒が必要です。現在は沖縄の大手ゼネコンの社長をして「もう振興策はいらない」といわしめるほどの好況ですが、「五輪後不況」でまた一変する可能性が高いと思います。
結果として法人税優遇もなかなかやめられないでしょう。沖縄の法人税は、現在すでにタックスヘイブンの扱いになるギリギリの低税率ですが(実効税率20%程度)、ルールに抵触しかねない減税要求がくるかもしれません。各国が導入しつつある新しい低税率制度であるパテントボックス税制(特許関連の優遇税制)を沖縄だけに適用せよとの議論も生まれています。減税に対応した企業活動の活性化があれば、優遇にも意味がありますが、不動産投資と建設業などがうるおうだけでは正当化は難しい。そうした点を繰り返し指摘していくほかありません。
石油石炭税の免税を廃止し、その恩恵を受けているエネルギー産業に衝撃を与えることも提案として考えています。エネルギー産業は優遇税制の恩恵を受けるだけではなく、補助金を得て自然エネルギーの実験を繰り返していますが、一向に成果が上がりません。思い切って石油石炭税の免税措置を廃止し、エネルギーコストを低減する努力を強いると同時に、全国最悪の二酸化炭素排出量も改善させるような方策が必要です。先に触れた、離島におけるAIと自給エネルギーシステムとの結合による商品モデルの開発は、たとえば本土のエネルギー企業などにやらせて、地元のエネルギー企業と競合させる手もあると思います。
沖縄では既得権を盾に商売する会社が少なくありません。連合沖縄などと並んでこうした企業は明らかな「支配階級」(エスタブリッシュメント)です。こうしたエスタブリッシュメントの企業には内地の競合相手をぶつけて危機感を持たせることが必要ではないかと思います。
防衛省予算と軍用地問題
加えて問題視されるのは、防衛省沖縄関係予算の増加です。辺野古工事費も天井の見えないお金の使い方になっており、適正な監視が必要です。野党も辺野古移設反対を前提とした質問の仕方を改めて、純然たる税の無駄遣いの問題として使途を精査し、正していけばいいのですが、党利党略もあってそうはなっていない。軟弱地盤など野党にとって恰好の素材なのに、その追及は尻切れとんぼです。防衛省の対応も不透明ですが、それを追及しているのが、事実上活動家の北上田毅氏だけ。予算の無駄遣いの問題としてもっと組織的にやれば一定の成果が上がるのに、北上田氏を利用するだけ利用するだけで、組織として取り組むという姿勢が野党にはまったく感じられません。
防衛省関連予算でいちばん問題なのは、むろん基地用地の借地料です。まもなく1000億円を越えます。この約1000億円が、沖縄の経済をダメにしている元凶と見ていいでしょう。振興策よりはるかに罪が重いと感じています。その意味では、SACO合意に基づいた嘉手納以南の返還計画を加速させる必要があると思います。計画通りにやっていれば、今頃借地料は20%減になっていたと思います。これも辺野古に拘ることの弊害です。振興策とは別に、借地料も10年計画で減らしていくぐらいの意気込みがないと、財政資金漬けの体質は変わりません。辺野古などは地主だけが潤う経済システムですから、基地には旨味がないと思わせるところまで借地料を引き下げる「策略」が必要です。国有地として買い上げるシステムもありますが、ほとんど機能していません。土地収用法で強引に買収する手もありますが、反対が多くて無理でしょうね。なにか仕掛けを考えて、地主利権を抑制しないと、いつまでたっても基地はなくなりません。
(了)