改善されない東京都のPCR検査能力 ーーー ホントに大丈夫?小池知事

東京都はPCR検査すら満足にできない?

小池百合子東京都知事は、どのくらい真剣にコロナ対策に取り組んでいるのだろうか。たしかに「中小零細事業者には50万円または100万円を支給する」といえば聞こえはいいが、他府県の知事などからは「金持ち東京のバラマキかよ」という愚痴も聞こえてきた。他方、ことある毎に「都民の命と暮らしを守る」というお題目を繰り返す小池百合子都知事による7月の都知事選(あるいはもう少し先の衆院選か?)に向けての「再選対策」という見方もある。

政治家が公的資金をばらまいて再選を目指すのは常道だからいちいち目くじら立てる気はないが、コロナ対策に関する東京都の政策執行体制には疑問がある。最も注目すべきはコロナ対策の基本であるPCR検査が一向に増えないことだ。「検査数が増えない」というより、まともに検査する能力を備えているのかという疑問がある。

東京・大阪におけるPCR検査の実施状況

「無制限なPCR検査は医療崩壊をもたらす」という点は都民・国民にも概ね理解されている。が、メディアやネットの声を拾うと、感染の疑いが濃厚で入院の必要がある患者を4〜5日から1週間ほど待たせた上でようやくPCR検査を受けさせ、重症化寸前で入院させるという事例も少なからずあった。ただ、このように放置された患者の事例はあくまで例外で、たまたま酷い目にあった不運な患者ではないのか、という捉え方もあると思う。

ところが、東京都と大阪府が公表している数値を元に、PCR検査の実態を比較する表を作ってみたら、東京はなんとあの大阪(失礼!)に見劣りする現状であることがわかった。放置される人が山ほど存在する可能性が出て来たのである。

貧弱な検査体制

手始めに4月11日時点で公表されているトータルの検査数を見ると、東京は5,802人(4月9日現在)であるのに対して大阪は7,113件(4月11日現在)と大阪が1,000以上うわ回っている。東京は検査人数、大阪は検査件数という数字の属性に違いはあるが、東京の検査数はかなり見劣りして見える。しかも、大阪は感染者数公表当日のデータだが、東京は2日前のデータである。情報公開能力も大阪のほうが高い。

日々の検査数をチェックすると、東京は最大551人(4月3日)、最低62人(4月5日)、本格的なPCR検査が始まった2月18日からの平均検査数/日は116・4人となる(51日間)。対する大阪は最大449件(4月10日)、最低不明、平均検査数/日は134・2件(53日間)だ。ここでも大阪に水を開けられている。東京の場合、ダイヤモンドプリンセス号などの検疫への協力などがあったから、その分を割り引いて考えたとしても、検疫への協力は山場を越えている。

検査数が少ないせいで、東京の場合陽性率が異常に高い。トータルでなんと32・67%と受診・受検した患者のほぼ3人に1人が陽性である。4月9日に至っては受検者の51・74%が陽性(感染者)だった。大阪の場合は11・08%で、日本全体の数値9・48%(4月12日16時/都道府県別新型コロナウイルス感染者数マップ/感染者数7,150人、PCR検査人数74,891人)に近似した数値が出ている。陽性者比率は防疫対策に活用できる数字だが、東京都の過少なPCR検査数では参考にもならない。大阪にできることが、なぜ東京にできないのか、多くの人が疑問に思うことだろう。

日本は「医療先進国」なのか

日本のPCR検査体制はそもそも脆弱もので、知識や技能技術を備えた人材も不足しているという。この問題自体は、パンデミックへの意識が低かった厚労省の責任だろう。したがって、いったんコロナ感染が広がってしまえば、医療資源をクラスター対策や重症患者の治療に注ぐ必要があるから、PCR検査に多くの資源を避けない状態になる。この点もしばしば指摘されている。そうだとしても、1月に始まったPCR検査の必要性が国内で広く認識されたのは2月初旬のダイヤモンドプリンセス号の検疫対策の時であり、現在まで約2か月の歳月が経過している。与野党とも「検査体制の充実は喫緊の課題だ」といい、厚労省や東京都などの行政もその整備に力を注いできたというが、その効果が出ていないのは納得できない。

その原因については、厚労省が最初から検査抑制の方針を打ち出していたことが今も尾を引いているという指摘がある。それだけではなく、検査件数よりも大幅に多い都民からの相談への対応や感染源の追求、陽性者の入院先の手配などのせいで都内保健所の業務が飽和状態となっており、そのしわ寄せがPCR検査の実施件数に出ているという話もある。保健所を通さない民間機関によるPCR検査が、保健所の検査不足を補っている可能性もあるが、民間検査数についてのリアルタイムのデータを得ることはできないから、この点は何とも言えない。いずれにせよ、東京都によるPCR検査が限界に達していることは間違いなく、抜本的な改善策を講じない限り、PCR検査が大幅に増えるとは考えにくい。現状のまま無理矢理検査数を増やせば、現場は疲弊し、精度が低下することも予想される。

小池知事はこうしたPCR検査の実態をどの程度把握しているのだろうか。厚労省は東京都に対する助言や支援を徹底しているのだろうか。首都である東京が満足なPCR検査もできないとすれば、「果たして日本は医療先進国なのか」という疑問まで生じてくる。

このままでは感染者の放置は急増し、現場で闘っている医療スタッフに対してさらに大きな負荷がかかる可能性も高い。小池知事には、休業補償だけでなく、検査体制や情報開示体制の整備をぜひ急いでもらいたい。

批評.COM  篠原章
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