旅三昧も楽じゃない

12月7日(火) K社Tさんへの深夜便FAX

Tさま、ご無沙汰しています。10/1~5は沖縄(大東大の合宿)、10/23~25は松江(学会)、11/4~9はハワイ(学会)、そして12/3~6まで再び沖縄(学会)と旅三昧の日々でしたが、ほとんど仕事絡み、おまけにハワイ以降体調を崩しているため、予想外に楽しめませんでした。

この中で収穫となったのは意外にも松江。ドイツの小都市のように美しい街でした。ラフカディオ・ハーンは詐欺同然でしたが。わずか3カ月しか松江にいなかったというのに、10年もいたような宣伝の仕方ですよ、あれでは。ただし、夜はまったくといっていいほどつまらない場所。大学の教師同士、客あしらいの上手なお姉さんのいるスナックで小さく盛り上がり、旧知のT大学教授に「篠原、おまえはほんとにいいヤツだ。T大に呼ぶからすぐ来い」と頬ずりされたことが印象に残りましたね。参りやした。

ハワイは15回目。沖縄の前は香港、その前はハワイという旅のハマリ方の個人史をもっていますので。今回のハワイは11年ぶり。ホテルは上等(カハラ・マンダリン・オリエンタル)、その点はよかったのですが、ダウンタウンは寂れる一方、「どこからともなくハワイアン・バンドがやってきていつのまにか消えてゆく」とかつて片岡義男が書いた頃(1975年頃)の面影はない。ネオンもない。日本人が多いのはしょうがないが、「島の香り」がすっかりなくなってしまった。人気のないカウアイ島やハワイアンの本場・ハワイ島に行けば多少は「島の香り」を感じられたのでしょうが、離島にゆくカネも時間もなかった。ホノルルの気候は相変わらずいいけどね。

10月の学生との沖縄は、交通事故(もらい事故)のせいもあって疲労感だけが残りました。結果的に「災い転じて福」で、本部警察署の署長から表彰されたりして、学生を見直すことになりましたが、教師としては合宿の方法について反省しきりです。

12月の沖縄は、暖冬のせいもあってなかなかいい感じ。以前にも12月の沖縄を体験しているけど、これがいいんだよな、コートを着るには暑すぎる、Tシャツでは寒すぎるといった塩梅がちょうどいい。クリスマスの基地はなかなかアメリカしてたし。ただ、最近の沖縄は人付き合いで終わってしまうようなところがあって、それはそれで悪くはないんだけど、一人の時間が少なすぎる。趣味のマッサージもできなかったしね。

ポピュラー音楽学会という学会ではシンポジウムのパネリストを務めました。お呼びがかかったのはそれなりに嬉しかったんですが、実際行ってみたら各セッションの研究テーマが驚くほど実証主義的でびっくり。この場合の実証主義はあまりいい意味で使っていません。想像力の飛躍を期待すべき分野だと思うのですが、へたすると経済系学会以上にテーマ設定やアプローチが硬直的です。失礼ながら層が薄いんでしょうね。全国から音楽学者や民俗学者、社会学者が集まっていますが、スペシャリストがあまりいない。ぼくやサエキけんぞうなんかのやっていることは、大雑把だけど普遍性があると思うのですよ。ただ、学会で東工大の細川周平さんに会えたのは大収穫。『ワールド・ミュージック』という有名な本の著者です。彼は『J-ROCK123』をいつもリファレンスにしているとのこと。ぼくも彼を尊敬してましたから、これからは互いに情報交換しながら仕事が進められそうです。

学会発表の翌日は沖縄セルラーのオーディションとやちむんのライヴ。最近の沖縄のアマチュア・ミュージシャンは侮れません。かなり高い水準でポテンシャリティは高い。伝統芸能化した<オキナワン・ロック>の足枷もとれて、70年代的ピュアリティに満ちた世界を上手に表現しています。夜はやちむんライヴ(パティ)。これがまたやちむんの歴史に残る素晴らしいステージ。ますよも吹っ切れた感じで、すっかり引き込まれました。沖縄における70年代的ピュアリティを体現するミュージシャンたちを先導するグループですね、やちむんは。

ところで『日本ロック雑誌クロニクル』(太田出版)という本に取りかかりました。とりあえず来年春から『QUICK JAPAN』で連載します。先週はその準備で中村とうようさんにインタビューしました。なかなか懐の深い人で意義深い時間でした。

もうすぐ授業も終わりですが、なかなかきつい毎日です。Tさんもカラダに注意してください。では。

 
批評.COM  篠原章
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