那覇のジュゴンは死んでもいいのか〜 もう一つの埋立承認問題
The Life of the Dugong ; Can We Downplay the Dugong Living in the Naha Offing ?
仲井眞知事による辺野古の埋立承認は、とくに環境影響評価という観点から法令違反だと批判され、百条委員会まで設置されている。サンゴへの影響も問題視されているが、いちばんの問題はジュゴンの生息環境の破壊だとされる。
沖縄防衛局の調査では、生息が確認されているジュゴンは3頭(個体A、B、Cという名がつけられている)。辺野古を含む沖縄島周辺では50頭という推測があるが、実態ははっきりしていない。全島的な調査 (環境省)は平成17年以降行われておらず、その17年の調査でも生息頭数は明確にされていない。
あまり知られていないことだが、今年1月に那覇空港のある大嶺海岸の埋立が仲井眞知事によって承認された。空港拡張=滑走路増設工事(総工費2000億円超)のための埋立である。埋立面積は辺野古と同じ160ヘクタール。あらたに造られる滑走路の長さは辺野古の2倍を超える3000メートルである。しかも那覇空港はたんなる民間空港ではなく、自衛隊機が頻繁に発着する軍民共用の空港だ。
日本自然保護協会は、辺野古の埋立に抗議し、埋立承認の撤回を求めているが、実は、那覇空港拡張のための埋立にも抗議し、埋立承認の撤回を求めている。最大の理由はジュゴンの生息環境の破壊である。日本自然保護協会は、那覇沖もジュゴンの生息域と判断しているということだ(参照→那覇空港滑走路増設事業への埋め立て申請承認に対する抗議声明)。
辺野古移設に反対運動の主力である社民党は、「ジュゴン」(環境保護)を理由に辺野古埋立に反対するが、那覇空港拡張では推進派である(自民党から社民党まで揃って空港拡張に賛成)。「空港拡張は沖縄の経済振興にとって不可欠」という主張が背景にある。であるとするなら、辺野古移設は「沖縄の経済振興にとって不要であり、国民の税金の無駄遣いである」ともっと大きな声で主張すればいいのに、彼らはそうはいわない。百条委員会では「ジュゴン」(環境保護)を前面に出し、埋立の不法性を訴えている。そんなのありか、と思う。那覇のジュゴンは死んでもよくて、辺野古のジュゴンは保護しなければならないのか、と突っ込みたくなる気持ちは抑えられない。
環境影響評価という科学的な分析を厳密に捉えれば、おそらく辺野古移設も那覇空港拡張もダメという話になる。環境保全措置が講じられるとしても、埋立は多かれ少なかれ環境破壊につながり、ジュゴンの生息環境を狭めてしまう。埋め立てしないほうがいいに決まっている。
だが、と思う。残念ながら、こうした問題は最終的に政治的な判断に頼らざるをえない。
仲井眞知事の行動は明らかに政治的な判断だが、社民 党が那覇空港拡張を推進するというのも政治的な判断だ。那覇空港拡張の埋立では政治的に判断した社民党が、県議会で仲井眞知事の辺野古埋立に関する政治的 な判断を追及する構図というのは、どうにもねじれている。環境保護という観点からいえば「正義」はどちらにもない。辺野古でも那覇でも埋立反対を唱えているのは日本共産党だけだ。
「日本共産党が唯一の正義」などといいたいわけでは ない。辺野古では「沖縄の心」や「ジュゴンの命」を強調して埋立・移設に反対し、那覇では空港拡張とその経済効果を強調して埋立を推進するという自己矛盾を見つめることなくして、沖縄の問題は解決しないといいたいのである。
ジュゴンの命はどうでもいい、といっているのでもない。一方のジュゴンは死んでもよくて、他方のジュゴンは生かすべきだなどというレベルで議論を展開するようなやり方を続けても、問題はけっして解決しないといいたいのである。
本当の沖縄問題は経済問題である。いちばん重要なのは、公共事業(土木)と振興資金(政府の補助金)に大きく依存する一方で、貧困と所得分配の不公平が構造化している沖縄の経済を改善することが最優先の課題であると認識することだ。
基地問題は確かに重要だが、問題が本当に深刻になるのは基地返還が継続した場合の跡地利用に直面したときである。土地価格は暴落し、県民所得は大きく下落する。始末に負えない貧困が蔓延する。現状の経済構造を放置したままだと、基地返還によって沖縄はまちがいなく窮地に追いこまれるということだ。「移設に巨額の資金を使うくらいなら、そのお金を経済構造の 強化や減税のために使うべきだ」という主張ならわかるが、ひたすら「移設反対」に時間と想像力と労力を注ぎこむような「運動」から未来は見えない。やるべきこと、主張すべきことは山ほどある
辺野古移設反対派は、いい加減、そのことに気づくべきだ。
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