県議を「パワハラ認定」した沖縄県の非常識 — 陳謝すべきは玉城デニー知事だ

クラスター隠し疑惑

沖縄県の照屋守之県議が、沖縄県病院事業局の職員を電話で叱責したことが引き金となって、その職員は体調を崩して1か月ほど休んだという。これに対して病院事業局は議員への厳正な対処と再発防止を求める公文書を県議会に提出したことで、目下紛糾している。要するに「照屋議員が職員を叱責したのが原因で当該職員が病となった。パワハラだから許せん」というわけだ。

これは県立中部病院のクラスター発生(本年5月下旬から6月)に関する情報を、病院事業局が公表しなかったことに端を発する問題である。「クラスター情報の公表中止」について病院事業局は、「中部病院の高山義浩医師のメールがきっかけである」と議会で答弁し(7月5日)、その答弁に納得できなかった高山医師は県の新型コロナウイルス感染症対策専門家会議の委員を即日辞任している。高山医師は、「(当該メールでは)公表基準を満たさないことと同時に、公式ホームページや県保健医療部の記者会見で速やかに公表すべきだとも助言していた。なぜ公表基準に関する発言部分だけが切り取られるのか、何らかの意図があるのではないか」と県議会で証言している。

 

非常識で無責任な県の対応

県政野党の自民党は問題となったメールの公表を求め、病院事業局に交渉したが、同局はメールをなかなか開示しなかった。最終的には渋々開示したが、同局の姿勢に立腹した照屋議員が職員を電話で怒鳴りつけた(7月6日)、ということらしい。叱責は通常の勤務時間中だったのかどうか、照屋議員の叱責はどんな様子だったのかなど詳細は依然不明だが、病院事業局の対応はきわめて非常識で無責任だった。

照屋議員は度を超えて厳しい言葉を使ったかもしれない。体調不良になった職員は気の毒だとは思うが、もとはといえば、県民の代表たる県議会が、県職員に対して職務上のメールのやり取りの公開を求めたのに、これを拒む姿勢を取り続けたり、曖昧な答弁を繰り返してきた病院事業局の責任であり、事業局を管理する副知事および知事の責任でもある。これでは議会は成り立たないではないか。

しかも、あろうことか、病院事業局は照屋議員への事情聴取を怠ったまま、公文書を発信して議会に議員への「懲戒」のようなものを求めた。そもそも一般的に言って議員と職員の関係は上下関係にない。議会で7時間も揉め、コロナ対策でもっとも重要な助言者だった高山医師に辞任を決意させた、県政上きわめて重要な問題であったにもかかわらず、病院事業局は「虚偽」「隠蔽」ともとれる答弁を繰り返し、資料の開示も拒んだのである。選挙で選ばれ、県民の暮らしと健康に責任がある県会議員が怒るのも当然だが、問題の根っ子をないがしろにした上、照屋議員への聴き取りもしていないのに懲戒を求めるなど無責任の誹りを免れず、まさに言語道断だ。

職員の言葉に噛みついたメディア

照屋議員に叱責された職員は、議会における県立中部病院のクラスターに関する質疑で、まともに答弁できない病院事業局長に代わって答弁を引き受けてきた同局の幹部職員である。照屋議員に叱責される前の段階で、何時間も議会答弁で矢面に立たされてきた。おまけにクラスターを公表すべきかどうかをめぐる高山義浩医師とのメールのやりとりを議会で明らかにした際、当該職員の発信したメールに「高山先生はメディアをコントロールしてくれている」との文言があった。この文言に沖縄のメディアは噛みついたのである。

「高山は俺たちをコントロールしていたのか!ふざけんな!」とメディアが息巻いたことは想像に難くない。以後、メディアは県当局の対応をより厳しく批判するようになった。当該職員はその時点で精神的にかなりの負荷を負ってしまったと思う。職員は「高山先生はメディアにしっかり対応してくれている」というつもりで書いたのだろうが、メディアはそうは受け取ってくれない。自分たちの尊厳を傷つけられたかのように大騒ぎした。

県当局によるクラスター隠し疑惑につづいて、メディアによる手前勝手な怒りが広がり、その直後に照屋議員の叱責が起こった、という時系列である。渦中の職員が体調を崩したのは気の毒だが、照屋議員の叱責だけを原因とするのは無理がある。

沖縄県議会中継より(9月27日)

横暴なパワハラ認定

すでに上で触れたように、職員の長期病欠後、病院事業局長は、照屋議員に対する懲罰要求とも受け取れる公文書を県議会に提出し、玉城デニー知事(具体的には謝花副知事)は「再発防止」を求める公文書を議会に追加提出した。さらに、この問題と直接関係のない、翁長県政時代の安慶田元副知事の不正行為の再発防止を念頭においた公文書まで提出したのである。つまり、照屋議員の行いは「パワハラである」「不正である」と決めつけてことを進めたのだ。

そもそも誰が照屋議員の行いを「パワハラ認定」したのか。議会でのやり取りを聞く限り、「病院事業局が内規に照らしてパワハラを認定した」ことになっている。県庁内のたんなる一部局が、民主的な選挙で選ばれた県会議員の行いをパワハラ認定する権限があるとはなんともおそれいる。しかも、繰り返しになるが、病院事業局による照屋議員への聴き取り調査はまったく行われていない。照屋議員は事情聴取なくして有罪認定されたのである。

県が事実関係の「調査」に乗り出すというならわかるが、その場合でも、パワハラ関連の問題を扱う部局(総務や人事)が担当すべきであって、病院事業局や知事部局など関われる立場にない。にもかかわらず、病院事業局は照屋議員の聴き取りを欠いたまま同議員の「告発」に踏み切ったのである。ちょっと考えられないほどの杜撰で横暴な進め方だ。沖縄県という組織はかなりイカレている。局長や副知事や知事の意思のみを反映した、恣意的に運用されている組織とだと思われてもやむをえない。

謝るべきは玉城知事だ

ことの経緯をつぶさに見る限り、問題が紛糾した責任の大部分は行政にある。失礼ながらはっきりいわせてもらう。病院事業局長は無能だ。その職に相応しくない。彼がまともな対応をしていればここまで紛糾することはなかった。普通の感覚を備えた首長または行政機関なら、局長を厳重注意したうえ更迭する。照屋議員の「不適切な行い」を途中から「パワハラ」と言い換えた謝花副知事にも混乱の責任はある。知事は副知事も「議会軽視」として本来なら譴責すべきだ。

昨今の沖縄県の対応を見ていると、責任を特定し処分する能力は欠いているだろうが、玉城デニー知事は、「照屋議員のパワハラ認定」について少なくとも県議会に陳謝した上で、議会に調査を求める姿勢を示すのが筋である。その上で、議員と職員の適切な関係については、今後の議会でしっかり審議して基準を示せばいい。

なお、9月27日の県議会代表質問で、照屋議員は「パワハラはなかった」と釈明したようだが、その対応にも疑問はある。議会による「県の責任」の追及が一段落するまで、照屋議員は言質をとられるような行動を慎むべきだ。メディアに発言をいいように切り取られて、「お前がいけない」と印象操作されるだけである。

批評.COM  篠原章
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