埋め立て承認取り消し〜翁長知事のダラダラ作戦はまだまだ続く

はじめに
翁長知事が決断した「辺野古埋め立て承認取り消し」について詳細に分析した記事を掲載します。県および国の手続きの正当性、訴訟が起こされた場合の裁判の行方などが検討の中心となっています。他サイトにはない総合的な分析です。

1.法的手続きの正当性

翁長知事の辺野古埋め立て承認の取り消し(10月13日)に対して、国(沖縄防衛局)は、行政不服審査法に基づき、国土交通大臣に不服審査を請求するという手段に訴えました(10月14日)。

この問題については、公有水面埋立法、行政手続法、行政不服審査法、行政事件訴訟法などの法律が複雑に入り組んでいます。自治体がいったん出した「承認」を、首長が代わることによって取り消し(撤回)するというのもきわめて異例ですが、その行政処分に対して国が民間事業者と同じように、行政手続法、行政不服審査法に基づき、政府部内の一機関に不服審査を請求するというのもきわめて異例。異例ずくめで、法律の専門家でも迂闊に判断できない状態となっています。

まず、沖縄防衛局が国土交通省に対して、不服審査を請求したのは、手続き的に正しいのかどうか検討してみましょう。

これについてすでに先例があります。この春、埋め立て事業に伴う辺野古沖海底の「岩礁破砕」が問題になった時、水産資源保護法に違反する疑いがあるとして、県は国による埋め立て作業の停止を指示しました(3月23日)。国はこれを行政処分と受けとめ、行政不服審査法に基づき、水産資源保護法の上級監督官庁である農水省に裁定を求めました(水産資源保護法の適用は、国が自治体に委託した法廷受託事務との認識が背景にあります)。裁定には数か月を要しますが、約一週間後、農水大臣は行政処分(埋め立て作業停止)の執行停止(=埋め立ての継続)を指示した上で、国の申し立てについて審査を行っています。農水大臣には、県の指示を事実上無効にする権限があり、工事を続行させながら、審査手続きが進めることができます。国によるこの対抗措置には、県だけでなくマスコミも識者もアッと驚きました。「そういう手があったか」というわけです。

国は今回も同じ手法で埋め立て作業を続行しようとしています。ただし、今回不服審査を行うのは、農水省ではなく、公有水面埋立法を管轄する国土交通省。国からの審査請求に基づき、近日中に埋め立て作業の停止という県の指示は国土交通大臣によって覆されることなります。「工事停止措置の停止」です。もちろん、審査は行われますが、先の農水省大臣による審査ともども、最終的な裁定が下るのは数か月先です。その間工事は「粛々と」進められることになります。

県は、9月20日過ぎまで、埋め立て承認の取り消しに伴う不利益を国が被るとしても、行政手続法の範囲内では扱えない(したがって行政不服審査法の適用も受けない)と主張していました。国から非公式な意見聴取はするが同法に基づいた聴聞は行わない、という立場だったのです。これに対して国は行政手続法の範囲内で扱うべきであると主張しました。結果として、県が国の主張に折れるかたちで、同法に則った聴聞の機会を9月27日に設けたのですが、国は陳述書を提出するだけに留め、聴聞には出席しませんでした。翁長知事は聴聞欠席を非難しましたが、行政手続法によれば、聴聞は陳述書提出で代替できますから、国のこの対応も法に即したものです。その上、聴聞に出席した場合には、行政不服審査法による不服申し立てができなくなりますから(行政手続法第二十七条ー後述)、国が聴聞を欠席したのは、あまりにも当然の対応です。

ここで双方とも法的根拠として挙げているのは行政手続法第四条です。

行政手続法第四条
国の機関又は地方公共団体若しくはその機関に対する処分(これらの機関又は団体がその固有の資格において当該処分の名あて人となるものに限る。)及び行政指導並びにこれらの機関又は団体がする届出(これらの機関又は団体がその固有の資格においてすべきこととされているものに限る。)については、この法律の規定は、適用しない。

この条項によれば、国は、行政上の不利益処分が行われる際の名あて人(行政処分される主体)にはなれない、と読めます。これが県の主張でした。が、( )内を読むと「固有の資格において当該処分の名あて人となるものに限る」と定められています。「固有の資格」がなければ、国も不利益処分の際の名あて人になれるわけです。この場合の「固有の資格」とは「もっぱら国にしかなしえないこと」を意味します。埋め立ては、国にしかなしえない事業であるかといえば、そうではありません。民間企業や個人が許可を取って埋め立てを行うケースはいくらでもあります。つまり、国固有の事業とはいえない、というのが国の主張です。したがって、埋め立て事業について県が行政上の不利益処分(承認の取り消し)を行う場合、国は民間企業と同じ手続きで処分され、もっといえば行政不服審査法に基づく不服審査を訴える権利も確保することになるわけです(行政手続法第二十七条)。

行政手続法第二十七条
行政庁又は主宰者がこの節の規定に基づいてした処分については、行政不服審査法 (昭和三十七年法律第百六十号)による不服申立てをすることができない。
2  聴聞を経てされた不利益処分については、当事者及び参加人は、行政不服審査法 による異議申立てをすることができない。ただし、第十五条第三項後段の規定により当該通知が到達したものとみなされる結果当事者の地位を取得した者であって同項に規定する同条第一項第三号(第二十二条第三項において準用する場合を含む。)に掲げる聴聞の期日のいずれにも出頭しなかった者については、この限りでない。

実は、国のこの主張に対しても県は反論が可能です。この点について、9月14日付けの沖縄タイムスには、成蹊大学の武田真一郎教授のコメントが紹介されていました。

「民間業者や私人が海を埋め立て、軍事基地を造ることは考えられない。埋立法では民間には免許、国には承認と言葉を使い分けており、国固有の資格で承認を得たのは間違いなく、行政不服審査法の適用を受けて不服審査を求める資格はない」

沖縄タイムス(2015年9月14日)
http://www.okinawatimes.co.jp/article.php?id=132782

公有水面埋立法は、民間に対する「許認可」と国に対する「承認」を分けています。「承認」された事業を国固有の事業と見なせるというのが、武田教授の主張です。この主張が正しいとすれば、国が行政手続法の適用を受けて埋め立てを続行することは難しくなります。が、公有水面埋立法が、承認と許認可を分けているのは、「行政機関同士に許認可という言葉がたんにふさわしくないから」とも受け取れます。実際、許認可の手続きと、承認の手続きとは同一です。つまり、行政機関による埋め立て申請だからといって、許可・承認が出される要件に変わりはないということです。この点を鑑みれば、やはり辺野古埋め立てを「国固有の事業」と見なすのは難しいと思われます。その限りでは、国は私人(民間事業者)と同じ扱いを受けることになるでしょう。

しかも、県は国の主張に折れるかたちで「聴聞」を実施しました。県は国を「私人」として認めたことになります。つまり行政手続法が適用可能な主体として扱ってしまったわけです。ただし、沖縄県も国の出方を予測して、国(沖縄防衛局)宛ての通知書に「県としては法律の適用除外に該当し、聴聞は不要と考えるが、国の主張に配慮して行う」という一文を入れています。「国は私人ではないに決まってるが、あなたたちがごねるから、一応かたちだけは私人扱いしてやる。でも、これはあなたたちが言い出しっぺだから責任はとるように」というわけです。

とはいえ、公有水面埋立法、行政手続法というふたつの法律を合わせ読むと、国という事業者も民間事業者と同じ基準の下に法律を執行され、国は工事の停止という行政処分を受けたことになりますから、行政手続法に基づき、不服を訴える権利が生じることになります。やはり国の主張のほうに分があると判断せざるをえません。国が行政不服審査法に基づき、国土交通大臣に裁定を求めたのも、流れとしては自然です。県は埋め立て承認について私人と同じ基準を国の機関に適用したのですから、行政不服審査法による裁定を受ける権利は生じます。

以上、手続き上は国に分があると判断して差し支えないと思います。なお、国に譲歩して「聴聞実施」を決めた沖縄県側の対応は、沖縄県にとってミステークともいえますが、このミステークが翁長知事お得意のダラダラ作戦(ダラダラと反対を叫びながら埋め立てを黙認する作戦)に基づく(?)意図的なミステークだった可能性も否定できません(要するに国の立場を利するように意図的に犯したミスということ)。

 

2.訴訟の行方

国土交通大臣による審査結果は、おそらく国にとって有利なものとなるでしょうから、その結果を受けて、沖縄県は行政事件訴訟法などに基づき、東京地裁か那覇地裁に埋め立ての是非の判断(埋め立て続行についての司法的な判断)を仰ぐことになります。が、裁判所が結論を出すにはさらに1年かそれ以上の時間を要し、その間にも埋め立て作業は「粛々と」進められる可能性が高いでしょう。というのは、行政事件訴訟法に基づく訴訟を提起しても、埋め立てを停止することができないのです(以下参照)。

行政事件訴訟法
第二十五条  処分の取消しの訴えの提起は、処分の効力、処分の執行又は手続の続行を妨げない。
2  処分の取消しの訴えの提起があつた場合において、処分、処分の執行又は手続の続行により生ずる重大な損害を避けるため緊急の必要があるときは、裁判所は、申立てにより、決定をもつて、処分の効力、処分の執行又は手続の続行の全部又は一部の停止(以下「執行停止」という。)をすることができる。ただし、処分の効力の停止は、処分の執行又は手続の続行の停止によつて目的を達することができる場合には、することができない。

訴訟を起こした場合も、沖縄県にとって不利な材料ばかりが目立ちます。たとえば以下の点です。

  1. 埋め立て承認に瑕疵があると勧告した第三者委員会(翁長知事の諮問機関)の位置づけ、権限が曖昧であり、法的正当性を得られない可能性がある。
  2. 「瑕疵」の根拠とされた沖縄防衛局による環境アセスメントが形式的な要件を満たしているため、これを違法性の高い瑕疵と裁判所が判断する可能性は少ない。
  3. 沖縄県が行政手続法に基づいた「聴聞」の機会を国に与えてしまったため、国は法的に民間企業(私人)と同じく「県による行政指導を受ける立場」を獲得したことになり、「国の被った不利益」が裁判によって私人同様に保障される可能性が高い。

そもそも第三者委員会(普天間飛行場代替施設建設事業に係る公有水面埋立承認手続に関する第三者委員会)には法的な権限がなく、翁長知事が判断にあたって諮問した機関に過ぎません。最終決断は翁長知事の権限です。知事は「公平を期すために設けた機関」といいますが、なんのための公平かは明らかにされていません。判断の客観性を担保するため、第三者委員会を設けたとはいえますが、「あらゆる手段を用いて辺野古を阻止する」という翁長知事の姿勢に沿って、「瑕疵がある」ことを前提に諮問されたものと捉えることが可能です。

たとえ、第三者委員会の設置に正当性があるとしても、同委員会の報告書(およびその要約版)が示した「瑕疵」についても大いに疑義があります。報告書は、公有水面埋立法第四条による6つの要件のうち3つについて「瑕疵」があったと判断しています(加えて「埋め立ての必要性」について冒頭で判断)。

公有水面埋立法
第四条  都道府県知事ハ埋立ノ免許ノ出願左ノ各号ニ適合スト認ムル場合ヲ除クノ外埋立ノ免許ヲ為スコトヲ得ズ
一  国土利用上適正且合理的ナルコト
二  其ノ埋立ガ環境保全及災害防止ニ付十分配慮セラレタルモノナルコト
三  埋立地ノ用途ガ土地利用又ハ環境保全ニ関スル国又ハ地方公共団体(港務局ヲ含ム)ノ法律ニ基ク計画ニ違背セザルコト
四  埋立地ノ用途ニ照シ公共施設ノ配置及規模ガ適正ナルコト
五  第二条第三項第四号ノ埋立ニ在リテハ出願人ガ公共団体其ノ他政令ヲ以テ定ムル者ナルコト並埋立地ノ処分方法及予定対価ノ額ガ適正ナルコト
六  出願人ガ其ノ埋立ヲ遂行スルニ足ル資力及信用ヲ有スルコト

まず、上記要件とは別扱いの「埋め立ての必要性」について第三者委員会報告は、「安全保障政策上、辺野古に移設する必然性に疑いがある」から、埋め立ての必要性を是とした埋め立て承認には瑕疵があると判断していますが、この場合の、埋め立ての必要性は「普天間基地の危険性を除去するための代替施設を建設する必要があるから辺野古湾の一部を埋め立てる」という理由だけで十分となるはずです。安保政策との関連を云々するなら、普天間基地を辺野古に移設するという政府の決定自体が「違法」であることを証明しなければなりませんが、それを公有水面埋立法の枠内で証明することは不可能です。レベルの異なる意思決定をいっしょくたに扱うことで、その論理は破綻してしまっています。そもそも公有水面埋立法に基づく承認(許認可)は、沖縄県にとって法定受託事務(国から託された事務)ですから、閣議決定や日米合意などで公式に定められた政府の方針(辺野古移設案も含む安保政策)に「瑕疵がある」として承認を取り消すことは、県としての権限を逸脱するものとなります。

より決定的なことをいうと、国は、地方自治法(第二四五条など)に基づき、法定受託事務に関する県の対応を是正する権限を持っていますから、今回の承認取り消しを国の権限において強制的に是正することは可能ですが、現段階では、国は「一事業者」としての立場を選び、伝家の宝刀とされる地方自治法第二四五条の適用を避けています。同条項の適用は、地方分権の観点から「強権的」という非難を受ける可能性があるので、政治的なリスクを伴います。目下のところ、国はそのリスクに配慮していると思われますが、今後その「伝家の宝刀」を抜く可能性も否定できません。

地方自治法
第二百四十五条の七  各大臣は、その所管する法律又はこれに基づく政令に係る都道府県の法定受託事務の処理が法令の規定に違反していると認めるとき、又は著しく適正を欠き、かつ、明らかに公益を害していると認めるときは、当該都道府県に対し、当該法定受託事務の処理について違反の是正又は改善のため講ずべき措置に関し、必要な指示をすることができる。

第三者委員会報告は、「(1号)国土利用上適正且合理的である」とした埋め立て承認にも瑕疵があると判断していますが、ここで使われている論理は「埋め立ての必要性」について展開したものと同一です。したがって、上記で述べた通り、普天間基地を辺野古に移設するという政府の決定自体が「違法」であることを証明しなければなりませんし、政府の方針に「瑕疵がある」として承認を取り消すこと自体が、県としての権限を逸脱することになります。

第三者委員会報告は、上記要件の内、環境保全に関わる2号と3号についても瑕疵があったと断定しています。裁判になれば、この点はとくに注目を集めることになると思います。国による埋め立て承認申請書の環境保全に関わる部分や環境影響評価報告書に対して、当時の仲井眞知事自身や県の環境生活部が、「環境保全は不可能である」「環境保全については重大な懸念がある」といった意見書を示している点を捉えて、埋め立てが環境を破壊すると認識していたにもかかわらず、知事は埋め立てを承認したとして、第三者委員会報告はこれを「重大な瑕疵」と糾弾しています。が、仲井眞知事による埋め立て承認には留意事項が付されており、環境保全に最大限配慮することが埋め立て承認の条件とされています。留意事項がある以上、仲井眞知事による承認の判断を「重大な瑕疵」とまで決めつけることは難しいでしょう。承認審査のプロセスで知事や県側に「環境保全は不可能である」「環境保全については重大な懸念がある」といった評価があったことは事実ですが、その後の国と県とのやり取りの中で、その懸念は払拭されたと知事が判断して、埋め立てを承認をしたということであれば、形式的な問題はないことになります。

第三者委員会報告書には承認手続きに関わった県職員を、委員が詰問し、糾弾するようすが克明に描かれており、まるで職員に罪があるかのような記述になっている箇所も多数認められます。が、県職員はあくまで「業務」に携わっただけで、埋め立て承認の判断は仲井眞前知事によって下されているのですから、「仲井眞前知事の瑕疵」を明らかにしなければなりません。したがって、仲井眞前知事に対する聴聞こそ不可欠のはずですが、委員会は仲井眞前知事に対する聴聞は実施していません。また、仲井眞氏に聴聞を求めたが断られたという記述も見あたりません。仲井眞氏に対する聴聞を欠いたままその瑕疵を認めた報告書にいったいどの程度の意義が見いだされるのでしょうか。

以上の点を勘案すると、裁判が通常通り進められた場合、沖縄県側が敗訴する可能性はきわめて高いと思います。

結果としてどうなるのか。審判があろうが、裁判があろうが、埋め立て工事は粛々と進められ、気がついたときには滑走路は完成してしまうわけです。しかも、行政制度上の、あるいは司法制度上の最終的な結論(農水省・国土交通省の審判と裁判所による判断)も、国にとって有利なものになるでしょうから、翁長知事の一連の「辺野古反対」行動は水泡に帰することになります。知事の行動は、事実上「反対のための反対」の域を出ることはないでしょう。辺野古移設は着実に進みます。翁長知事は、それと知りつつダラダラと「負け戦」を続けているとしか思えません。知事は、国と闘うフリをしながら結果的に埋め立てを黙認しているのではないでしょうか。この曖昧な状態をできるだけダラダラと長引かせようというのが知事の目論見だという気がしてなりません。振興策もたっぷり頂こうという算段も見え隠れしています。あろうことか、このダラダラ作戦はこれからもまだまだ続くのです。

割を食うのは誰かは明らかです。普天間基地周辺の住民、翁長知事を信じて「移設阻止」に力を注いできた県民と活動家、そして一連の「騒動」ともいえる事態に翻弄されつづける一般県民、一般国民です。「被害者面をした加害者」である翁長知事は、事実上の埋め立て黙認で政府に対する義理も果たし、埋め立て反対を鮮明にすることで共産党に対する義理も果たして無傷で生き残るかもしれませんが、周囲はとんでもなく深い傷を負うことになります。この騒動のあいだじゅう使い続けられる莫大な税金のことも考えると、なんともやりきれない気持ちになります。

 

批評.COM  篠原章
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