東京都知事選 全21候補公約比較

都知事選16公約比較

(上図はクリックで拡大します)

【解 説】※(文末注参照)

この「公約比較」は、2016年7月31日に投開票される東京都知事選に出馬している全21候補の「公約」を、主として選挙公報に基づき比較対照したものです。

公約の領域については以下の6項目にカテゴライズしました。

五輪    : 2020年東京オリンピックの実施に関する姿勢

 

経済雇用  : 経済政策(景気対策も含む)および雇用政策に関する姿勢

 

防災インフラ: 防災政策およびインフラ整備に関する姿勢

 

福祉教育  : 福祉政策・医療政策(社会保障全般)、教育政策に関する姿勢

 

エネ環境  : エネルギー政策、環境政策に関する姿勢

 

財源    : 上記のような政策を実施するに当たり必要となる財源に関する姿勢

項目ごとの候補者の姿勢は、○、△、×の三段階で評価しました。

○:政策が具体的に示されている

 

△:政策は掲げられているが具体性に乏しい

 

×:政策そのものが示されていない

実現可能性の薄い政策も多々掲げられていますが、政策の中身についてはとくに問うていません。政策があるかどうか、その政策が具体的であるかどうかが評価のポイントです。もっぱら国が主体となる施策を公約に掲げる候補者もいますが、そうした公約は都知事選に馴染まないものとして無視しています。

「独創性」「適格性」は5段階で評価しました。「独創性」は、その公約について、候補者の個性が十分発揮できているかどうかが基準です。「適格性」は、その公約が、都知事という職務にふさわしいかどうかが基準です(したがって、この評点が評者の総合判断です)。ただし、評点については、多かれ少なかれ恣意性が入りこんでいます。客観性・中立性には十分配慮したつもりですが、「あくまでも評者の下した評価」とご理解下さい。

なお、選挙公報を直接読みたいという方は、東京都選挙管理委員会のページからダウンロードしてご一読下さい。

東京都選挙管理委員会選挙公報のページ
http://www.senkyo.metro.tokyo.jp/election/senkyo-kouhou/tochiji-kouhou/

 

【総合評価】

候補者は大別して、
1.当選を前提とした候補者
2.当選を前提としない候補者
の二つに区分できます。

当選を期す候補者は、世評が「有力」であるかどうかにかかわらず、都政全般に目配りしながら公約を掲げています。ここでは、4項目以上について公約を掲げる候補が「本気」だと考えると、高橋しょうご、谷山ゆうじろう、鳥越俊太郎、増田ひろや、マック赤坂、やまなかまさあき、後藤輝樹、小池ゆりこ、上杉隆、七海ひろこ、中川ちょうぞう、望月義彦の12候補が枠の中に入ります。そのうち後藤輝樹候補は、都政・国政の区別をつけずに約70本もの公約を掲げています。後藤輝樹候補は、都知事向きというより国政向きでしょう。

6項目すべてについて何らかの公約を掲げる候補は、後藤候補を除くと、小池ゆりこ候補と中川ちょうぞう候補の2人ですが、中川候補の場合、政策に具体性が乏しい項目があるため、適格性では小池候補に劣ることになります。

6項目のうち、財源を公約として掲げる候補はわずか5名です。ほとんどの候補は、もっぱら「お金を出す」こと(支出局面)にのみ関心が向いており、そのための財源(税金など)については触れていません。具体的な財源プランを示しているのは、5名のうちマック赤坂候補と上杉隆候補だけです。が、マック候補の財源プランはきわめて限定的であり、金額まで明示された財源プランを示した上杉候補の適格性がマック候補を上回ります。小池ゆりこ候補は、「行財政改革」を財源と考えているようですが、具体性が乏しいため、この点では上杉候補に劣ります。都知事候補なのに、収支のうち「支」(支出)にしか触れないのは、常識的に考えて大きな減点ですが、上杉候補はその点で唯一無二の存在で、当然、適格性の評価は高くなります。有力候補3人のうち、小池候補を除いた2人(鳥越候補・増田候補)は、公約では財源に触れていません。もちろん、財源について何らかのお考えをもっておられるとは思いますが、財源を明示的な公約として掲げていない以上、適格性の評価は低くなります。

したがって、適格性という点においては、万遍なく政策課題に触れている小池ゆりこ候補、エネルギー・環境には触れていないものの他の20候補が無視または軽視している「財源」に唯一具体的に触れている上杉隆候補を最高評価の「5」としました。有力候補である鳥越俊太郎候補については、「財源には触れていないが、他候補がほとんど触れない安保や改憲を取り上げているではないか」というご意見もあるでしょうが、過去の美濃部(亮吉)都政を振り返っても、安保・憲法が政策課題として都政に馴染まなかったことは明らかです(鳥越候補の場合、それよりもなによりも年齢に問題があると評者は考えます)。同じく有力候補である増田ひろや候補についていえば、豊富な行政経験が都政に貢献する可能性は高いと思いますが、それほどの辣腕が公約で「財源」に触れていないのは問題です。結果的に、鳥越候補、増田候補の適格性は、小池候補・上杉候補に劣ります。

当選を前提としない候補者のうち、「ワンイシュー」に拘る桜井誠候補(移民問題)、山口敏夫候補(五輪)、立花孝志候補(NHK解体)は、都知事としての適格性には劣りますが、独創性では高く評価されます。今尾貞夫候補も「ワンイシュー」の候補(福祉・医療)ですが、独創性は感じられません。ワンイシューではないものの、都知事選を自らの主張を展開する「場」と考えている候補も多数います。それぞれの候補の熱意は伝わってきますが、ワンイシューの候補と違って「独創性」が見えにくいのが難点です。

最後にもう一点付け加えたいのは、この選挙にいったい「争点」はあるのか、という問題です。鳥越陣営に安保・憲法を争点にしたいという思惑があるのはわかりますが、都政に都民が向き合うとき、大多数の都民は、安保・憲法と聴いても戸惑いを憶えるばかりです。鳥越陣営はさらに、「福祉政策の充実」や「格差の解消」を訴えて、他候補との差別化を図ろうとしていますが、対立する小池陣営も増田陣営も、福祉の充実などを公約にはっきりと掲げている以上、争点としては成立しにくいのが現状です。同様のことは「五輪」についても「防災」についてもいえます。

そもそも猪瀬、舛添両知事が汚してしまった東京のイメージを挽回できる知事を選ぶことが今回の都知事選の最大の課題でしたが、今や「猪瀬、舛添のほうがマシだった」という世論まで出てきています。そうなると、最終的には「公約の網羅性と具体性」で選ぶほかないのではないか、というのが評者の考え方です。

党派や政治家の動きを見ると、小池候補、鳥越候補、増田候補の争いになるはずですが、Twitterフォロワー数を見るかぎり、小池候補、上杉候補、鳥越候補の争いとなって増田候補は脱落します。が、増田候補には組織票がある一方、マスメディアに載らない上杉候補の不利な状況は一向に解消されません(さすがに気の毒なほどです)。やはり終盤まで「小池VS鳥越VS増田」という構図が続くのではないでしょうか。

 

【個別評価】(全21候補)

高橋しょうご
「選挙は闘いではない。みんなで政治を考え、民主主義を進めるプロセスだ」「政争が主体となっている政党政治から、政治行政を私達の手に取り戻す」という主張。政策に具体性はない。
谷山ゆうじろう
米軍横田基地を返還させ、第3国際空港化するというのが政策の目玉。子ども手当100万(第1子)、200万(第2子)、300万(第3子)という思い切った提案が目立つが、財源には触れていない。
桜井 誠
「移民問題」に特化した公約を並べ、選挙戦を自らの主張を展開する場であると割り切って活動。その正否については諸々議論があるが、公約もスピーチも簡潔で明確。
鳥越俊太郎
トータルでは目配りの効いた構成の公約群となっている。「住んでよし、働いてよし、環境によし」というキャッチは評価できるが、政策の具体性が乏しいところや財源に触れていないとことが難点。
増田ひろや
元首長(岩手県知事)らしいプロ意識を印象づけようとした簡潔な公約群だが具体性には欠ける。防災に重心を置いているところは評価できるが、財源に触れていないことが難点。
マック赤坂
選挙戦常連らしく簡潔な公約が並べられている。ただし、具体性に乏しい公約が多い。人件費削減というかたちで財源にも触れているが、不十分な印象は拭えない。
山口敏夫
「五輪組織委総退陣」がその主張の最大のポイント。男女賃金格差解消、最低年金受給額引き上げも公約にあるが、これらはむしろ国の施策に関わる。財源も示されていない。
やまなかまさあき
「未来創造経営実践」という「哲学」を普及するのが目的と思われ、教育改革も訴えるが、公約の多くは具体性に乏しい。経営実践を謳ってはいるものの、財源には触れていない。
後藤輝樹
約70本の公約が掲げられているが、半分以上は国の施策に関わるもの。これだけの公約が広報にぎっちり詰めこまれているため、ほとんどの有権者は読む気を失うのが難点。
岸本雅吉
5本の公約のうち3本が福祉と医療に関わるもの。他は五輪と徴農制。徴農制は、小中学生に本格的な農業研修を課す制度。先の参院選で三宅洋平氏も同様の公約を掲げていた。
小池ゆりこ
簡潔だが都政全般を網羅する公約群でレイアウトも読みやすい。「7つのゼロを目指す」というスローガンもわかりやすい。財源問題が「行財政改革の推進」のみではやはり不十分。
上杉 隆
都政の問題点を簡潔に整理した上で、公約を定めている印象が強い。都政にもっとも精通した候補者であることは間違いないが、エネルギー・環境が抜け落ちているところが難点。
七海ひろこ
簡潔に編集された公約だが、政策の具体性には乏しい。「世界一リッチな東京」「超高層都市・東京」という公約はあるが、そこに至る道筋がよくわからない。
中川ちょうぞう
元首長らしくプロ意識の高そうな公約が7本並べられているが、具体的な政策形成過程が見えてこないのが難点。江戸城復元などユニークな政策もあるが、財源にはあまり触れられていない。
せきくち安弘
「ひめじけんじ」と名乗って直前の参院選東京地方区にも出馬している。横田基地返還、憲法改正を訴えているが、その他の政策については言及がない。
立花孝志
「NHK解体」「NHKから国民を守る」を信条とする活動家として、知事選には「反NHK」のワンイシューで出馬。当選よりも自らの活動の宣伝に努めている。
宮崎正弘
デザイン関係の大学教授だが、選挙公報を精読しても出馬の真意は不明。公約らしき公約がない。
今尾貞夫
子育て、教育、介護などに特化した主張で「ワンイシュー候補」といってもいいが、具体的な政策があまり見えてこないのが難点。
望月義彦
IT技術者として、イノベーションなどを含む独自の網羅的な公約を発表してはいるが、どの公約もキーワードのみで説明不足の感は否めない。
武井直子
唯一の選挙公報不掲載の候補(間に合わなかったとのこと)。Webでの発信を見ると、「竹田恒泰氏が知事に最もふさわしい」「天皇制を廃止して今上天皇は大統領に」などとあり、真意を捉えにくい。
ないとうひさお
「24時間対応の悩み相談室」「ツールド関東・甲信越の設置」「東京の人口半減」などの公約があるが、具体的な道筋はあまり示されていない。

※(解説の注)選挙公報を比較の基準としたのは、一般の有権者が全候補者の公約や政策を知りたい場合、選挙公報に頼らざるをえないからです。放映時間が分散されている政見放送や候補者ごとに手法の異なるネット上の情報発信では全体像を捉えることは困難です。ここではあくまでも選挙公報を基準とし、不足する部分を政見放送や候補者によってネット上で発信されている情報で補いました。

投票に際して、公約のほか「候補者の人格」に関する情報も判断材料となりますが、この種の情報の多くは、週刊誌・新聞・ネットなどで他者から発信された情報であり、その範囲も有力候補を対象としたものに限られます。しかも、真偽については確かめようもありません。したがって、人格に関する情報を判断材料とすることは公平性を損なう恐れがありますので、ここではそうした情報をあえて排除しています。

批評.COM  篠原章
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