「卒原発・市民派・環境派」が聞いて呆れる嘉田由紀子知事

滋賀県知事・嘉田由紀子さんが、「卒原発」をスローガンに「日本未来の党」を結党し、これに 小沢一郎さんの「国民の生活が第一」や「減税日本・反TPP・脱原発を実現する党」が合流すると報じられた。誰がシナリオを書いたのかは知らないが(やっ ぱ小沢さんだよな)、これはとんでもない「野合」だと思う。

kadayukiko

 ぼくは嘉田さんの思想にも政策にもほとんど興味がな い。個人的な関係も利害も全くない。彼女が脱原発の立場をとろうが、親環境の立場をとろうが、正直いってどうでもいい。滋賀県民が彼女を知事として選んだ のだから、その選択も尊重しなければならないだろう。が、彼女ほど平然と住民や有権者を裏切ることができる政治家を、あまり見たことがない。そんな政治家 が国政の場に登場してくるなんて、ちゃんちゃらおかしい。もう日本は何でもありだから、あまり驚きはしなかったが。

 笑顔がソフトな嘉田さんは一部に根強い人気があるら しいが、彼女が知事としてやってきた「仕事」は不信と混乱と招いてばかりだった。そのことは滋賀県以外ではほとんど知られていないが、必要に迫られて彼女 の政策や政治行動をいろいろ調べたことがあるのでぼくはその実態をよく知っている。

 嘉田さんは「市民派」「環境派」というイメージとは ほど遠い、希に見る偽善者である。政治家などそもそも信頼できない商売だが、クリーンでグリーンなイメージを売り物にする女性知事が、汚れた政治屋である ことがわかると、余計に腹立たしいものだ。以下では、彼女がいかに信頼できない政治家であるかを明らかにする。

(1)RD最終処分場問題での住民に対する裏切り

 1979年に県の許可を受けて滋賀県栗東市で操業し ていたRDエンジニアリング社の産業廃棄物最終処分場で、1999年、高濃度の硫化水素ガスが検出された。その後の調査で、廃棄物の違法な埋め立てやダイ オキシン類による土壌の汚染などが判明し、RD社のみならず県の監督責任も問われるようになった。

 この問題の解決を公約に掲げて当選した嘉田知事は、 2006年12月に地元住民や学者らによる対策委員会を設置し、廃棄物の処理方法を検討させた。委員会は2008年4月、「全量撤去を推奨する」との答申 を嘉田知事に出したが、知事は「汚染物質の現場からの撤去は二次汚染を引き起こす」という理由から、原則として現場で浄化処理する案を提案した。これを 「嘉田知事の裏切り」と見なした住民とメディアは反発し、この問題は膠着することになった。2012年10月、有害物質の一部撤去と現場での浄化を骨子と する解決策について、住民とのあいだの最終合意が形成されたが、嘉田知事の当初の対応は大きな不信と禍根を残すことになった。

 嘉田知事は「環境重視派」「県民派」というイメージ で選挙民の間に浸透したが、滋賀県にとって最大の環境問題が起こっている現場で、住民も参加した対策委員会の決定をいとも簡単にくつがえしたのである。嘉 田さんがこうした行動に出たのは、「全量撤去」という答申どおりに処理を進めると途方もない経費がかかるからだったといわれているが、それなら最初から 「お金はないんです。ごめんなさい」といえばよかった。お金がないことを前提に最善の処理方法を検討することだってできた。ところが、彼女は「命はお金に は替えられない」という顔をしながら、「二次汚染が発生する」という、とってつけたような理由で答申を拒否し、住民の命と健康をもっとも危険にさらす処理 方法を平気で選んでみせたのだ。これに対する批判が想像以上だったため、彼女は最終的に態度を変えたが、政治家としての信頼性を問われる、とんでもない行 動だったといっていいだろう。

 嘉田さんの行動を住民側の立場から批判してきた早川洋行さん(答申案作成にも関わった 滋賀大学教授)のフェイスブックには、次のような書き込みがあった(2012年6月28日付け)。

本日、公開されたRD問題についての議事録の速報版を読んでの感想を記す。

<<九里学議員一般質問(要旨)>>

4.住民とのリスクコミュニケーションの必要性、住民との信頼に関する知事の所見を問う。

<<知事答弁>>

対策工事の計画、実施にあたっては、周辺住民の不安を 解消し、工法に対する信頼を得るため、さまざまな情報の共有や話し合い、いわゆるリスクコミュニケーションをしっかりと行うことが重要であると考えており ます。過去6年を振り返りますと、何度も何度も住民の皆さんとのやりとりの中で、私自身は周辺7自治会の理解と納得なしにこの事業を進めるべきではないと 原則を曲げずに行ってまいりました。それもひとえに、リスクコミュニケーションの深化があった。そして、その必要性を求めていたからでございます。

これまで、周辺住民の皆さんとは、情報をすべて公開し、調査の方法、対策の内容について透明度を高めて、話し合いを重ねてまいりました。

今後も引き続き、対策工事の内容や工事の進捗状況、モニタリング結果等について話し合いを行いながら、この問題の解決に向けて取り組んでいきたいと考えております。

嘘八百とはこのことだろう。

1.「私自身は周辺7自治会の理解と納得なしにこの事業を進めるべきではないと原則を曲げずに行ってまいりました。」

これは事実と大きく異なる。

2008年、周辺7自治会が当時の県案に同意しなかった際、栗東市に「汗をかいていただくのは自然の流れ」と述べ、栗東市の合意を取り付けて、強引に県案を実行しようとしたのは、嘉田知事である。

2.「これまで、周辺住民の皆さんとは、情報をすべて公開し、調査の方法、対策の内容について透明度を高めて、話し合いを重ねてまいりました。」というのも嘘である。

彼女は、不法投棄を行った元従業員の証言を隠し続けた。だから、私は、2007年以来情報公開審査会への異議や、そのことに関しての裁判を闘ってきたのである。

3.「話し合いを重ねてきた」というのも嘘である。

話し合いは、事態が膠着してどうにもならなくなって、 2010年末、田島一成議員の助力により環境省の助言を受けたり、2011年度から琵琶湖部長になった正木(現甲賀市副市長)氏らの超人的働きで、なんと か始まったに過ぎない。それまでは、対話が全く成り立たなかった。私の論文に対する批判事件は、そのことを端的に示している。

知事は、自分の勝手な思いからではなく、客観的な目を持って事実を見るべきだ。その目がないわけではあるまい。

それならば、閻魔さまに舌を抜かれないように。

 早川さんは、これまでも嘉田さんの対応を論文や著書などで厳しく批判しているが(『ドラマとしての住民運動―社会学者がみた栗東産廃処分場問題』社会評論社,・2007年、『虚飾の行政―生活環境主義批判』学文社,・2012年)、こうした批判に対して嘉田さん側は早川さんの勤務する滋賀大学に乗り込んで、「教員として不適格ではないか」と学長に対して抗議を申し入れたことがある。嘉田さんは学者出身(京都精華大学教授)の知事だが、学問の自由を尊重する姿勢もない。まったく許しがたい話だ。

(2)大飯原発に対するいい加減な姿勢

 嘉田さんは、さらに大飯原発再稼動問題で、「琵琶湖 の水が汚染されたらどうする!」と稼働再開にもっとも強硬な姿勢を取っていた。「一歩も引かない」と明言したほどだ。が、再稼働反対の先頭に立っていた橋 下大阪市長が、ひとたび「限定的な再稼動」を容認すると、嘉田さんはいとも簡単に右に倣えしたのである。しかも、再稼働は自分の本意ではないし権限もない と言い訳し、橋本市長、財界、政府、関西電力に責任を転嫁した。それだけではない。9月になって橋本市長や松井大阪府知事が、大飯原発の再停止を求めたの に対し、10月16日には「現状では認めるしかない」と述べ、大飯の稼働継続にむしろエールを送っている。ふざけた話だ。だったら、最初から再稼働に賛成 すればよかったじゃないか。こんないい加減な姿勢を取る人間が代表を務める「日本未来の党」の「卒原発」を信じろといっても無理だ。合流した「国民の生活 が第一」が少し前に苦労してつくりあげてきた脱原発依存10年計画だって危ういことになる。

(3)平気で「変節」する政治姿勢

 嘉田さんの政治姿勢がいかにいい加減なものであるかを示す材料は、ほかにいくらでもある。手柄とされているダム建設中止問題や、新幹線駅増設中止問題での対応だって十分怪しいが、これまでの彼女の政治的行動の大枠を見ただけで、そのいい加減さは一目瞭然だ。

 たとえば選挙である。1期目(2006年〜)は社民 党の支持を受けながら環境派候補・市民派候補を売り物に当選したが、2期目(2010年〜)になると「県民党」を標榜しながら、民主党・連合の力を借りて 選挙運動を展開した。当時はまだ民主党政権ができて1年もたたない時期で、民主党人気がまだ衰えていなかった。つまり、民主党人気にあやかりながら当選を 獲得したのである。が、このくらいは政治家ならよくあることかもしれない。だが、彼女の変節は留まるところを知らなかった。「なりふり構わぬ」といっても いいほどだ。

 2011年、新しい政治潮流の中心に橋下さんが浮上 するにしたがって、橋下シンパであることを明言するにようになっていく。環境派、市民派という嘉田さんのイメージにはまったく相反する人物なのに、嘉田さ んは橋下さんにすっかりイカれてしまった。嘉田さんは橋下さんをして「必要悪」とまで言い放ったが、自分のセルフイメージを捨ててまで、橋下さんについて いく覚悟を決めたのである。民主党の凋落を知って、今度は橋下人気にあやかろうというわけだ。今年になってからも橋下さんのアイデアの二番煎じともいえる 「未来政治塾」までつくっている。

 が、「大飯再稼働」で橋下さんに振り回されてから、 橋下さんとの関係にヒビが入り、彼女は拠り所を失ってしまう。民主党ブームも去り、橋下さんにもついていけない。政治家・嘉田由紀子は悩んだに違いない。 待てよ。自らの「環境派」「市民派」イメージはまだ滋賀県を除けば通用するはずだ。自分の実態は滋賀県以外ではバレていないはずだ。悩んでいるところに声 をかけてきたのが小沢一郎さんだったのではないか、とぼくは邪推する。いや、「国民の生活 が第一」の低迷に悩んでいる小沢さんに声をかけたのが嘉田さんだったのかもしれない。ひょっとすると、嘉田さんと同じように橋下さんに振り回された脱原発 派の論客で、環境エネルギー政策研究所所長の飯田哲也さん(大阪市・大阪府特別顧問)が接着剤になったのかもしれない。飯田さんは「日本未来の党」の代表 代行だ。「日本未来の党」にとっても「国民の生活が第一」にとっても、結党・合流は起死回 生の一発になるかもしれない。稲盛和夫さん、坂本龍一さん、菅原文太さん、鳥越俊太郎さん、茂木健一郎さんへの根回しを、飯田さんがやったのか小沢さんが やったのかは知らないが、思ったより用意周到な「結党・合流」シナリオだ。「国民の生活が第一」の脱原発依存10年計画が「日本未来の党」にそっくりその まま使われているところを見ると、政策については国民の生活が主導権を握っているのだろう。嘉田さんに国政の政策を創る才覚はない。

※11月30日の時点で、小沢一郎さんに近い達増拓也岩手県知事がフィクサーだったことが判明した。計画が始まったのは9月に遡るという。

※同じく11月30日の時点で、小沢さん腹心の森裕子参院議員が副代表に就任したのに伴い、飯田さんも代表代行から副代表になった。

 少し余計なことだが、茂木さんの「日本未来の党」を 支持するブログも読んだ。が、原発は茂木さんのいうような「文化の問題」ではない。「経済の問題」である。坂本さんの「たかが電気」発言同様、茂木さんも ひどくナイーブだ。彼らは嘉田さんのパブリック・イメージに騙されている。嘉田さんは環境派でも住民派でもない。原発についてはブレ続けるだけだ。住民の ことなんて本気で考えているとは思えない。嘉田さんにとって住民は「票」以外の何ものでもないはずだ。嘉田さんは他人を利用して階段を登ってきた政治屋に すぎない。

 嘉田さんのこうした政治姿勢に対して、鈴木英敬三重県知事から批判が出ていた。

滋 賀県の嘉田由紀子知事が衆院選に向け、脱原発を掲げた新党「日本未来の党」の結成を表明したことについて、三重県の鈴木英敬知事は27日の記者会見で、 「原発のない滋賀県の知事が、県政の時間を割いて国政に関与することに大義があるのか」と述べ、嘉田知事の姿勢に否定的な見解を示した。

 鈴木知事は衆院選後の来月22日、嘉田知事が開講した「未来政治塾」の講師を務めることになっており、「日本未来の党の候補者となる“嘉田チルドレン”を養成するための塾だったら講師を断る」と述べた。

 鈴木知事は「県政に様々な課題がある中、脱原発とい うシングルイシュー(一つの論点)で国政に関わる理由を、県民によく説明すべきだ」と指摘。そのうえで、「脱原発を掲げる場合は、電気料金が上がることを 同時に言わないとフェアではない。脱原発が空手形に終わり、政治不信が増幅することを心配している」と語った。

 「脱原発」や「郵政民営化」など“ワンフレーズ”で争点を表現する手法には、「専門的な意見を含め、様々な要素を考慮して物事を判断するのが政治。有権者も言葉だけに惑わされないようにしてほしい」と注文を付けた。

(YOMIURI ON LINE 読売新聞 2012年11月28日07時19分  )

 鈴木さんは地味な政治家だが、コトの本質を見抜く力がある。「日本の未来」は鈴木さんのような方に任せたほうがずっといい。

 「日本未来の党」の先行きは知らない。ひょっとしたらシナリオ通り嘉田さんと小沢さんの「起死回生」になるかもしれない。たとえどんな結果になろうとぼくは知っている。嘉田由紀子さんに政治家の資格はない。

【補足1】 ぼくは沖縄における基地反対運動に「反 対」する立場だが、それは現在の反対運動の多くが公務員主導で住民不在の運動だからである。深刻な健康被害が及ぶことが明らかな栗東のRD問題では、直接 利害のある住民が主役である。沖縄の基地問題とは様相がまったく違う。

【補足2】嘉田さんに対する批判を展開していた環境総 合研究所の青山貞一さんが「日本未来の党」を支援している。びっくりだ。青山さんは小沢一郎さん寄りだからだろうが、「こういう変節が起こるから政治はお もしろい」とみるべきか「こういう変節が起こるから政治はくだらない」とみるべきか。いずれにせよ、ぼくは嘉田さんという政治家はけっして認めない。

【補足3】(この項のみ11月30日)嘉田さんは11月30日の日本記者クラブ主催の党首討論会およびその後の記者会見において、「小沢さんが黒幕では」という趣旨の質問を受け、「小沢さんを利用させてもらう」といった意味のことを繰り返し述べていた。「利用」とはなんとも強い言葉だ。用意したシナリオに最初からあった言葉とは思えない。「人を利用するのが上手だ」というのが、彼女の売り物らしい。嘉田さんの政治姿勢の闇を垣間見る気がした。

批評.COM  篠原章
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