ピカデリー・サーカスのthe Sting

ロンドン一の繁華街ピカデリー・サーカスの1番地(1 Piccadilly Circus)には、かつてタワーレコードのイギリスにおけるフラッグシップ店舗があった(1985年開業)。高級ブランドが並ぶリージェントストリート に面しているから、東京でいえば銀座4丁目と歌舞伎町を足して2で割ったような場所だ。日本の旅行者のあいだでも人気店舗だった。2003年、本国アメリ カでの経営不振とUK音楽マーケットの競争条件の変化を理由にタワレコは撤退。一時ヴァージンが経営を引き継ぐが2007年に売却され、 総合エンターテインメントストアZavviに衣替えし、ナショナルジオグラフィックが同所で小売り部門を展開するなどした。が、やはり経営不振のまま 2009年に完全閉店。しばらく空店舗と化していたが、2010年にオランダのファッション小売り《The Sting》が同所にイギリス初の店舗を開店し、今日にいたっている。

theSting

 日本ではThe Stingはまったく無名だが、オランダの代表的ファッション小売りチェーン。オランダ、ベルギー、ドイツなどに70店舗以上のストアを展開している。Stingファンとしては(笑)当然、惹かれてしまう。

 特徴的なのは独特のブランド展開。マイナーだが将来 有望なデザイナーと契約し、ブランド内ブランドを起ち上げて、売り場をブランド毎に細分化して小売りしている。その数は現在30以上。セレクトショップと いえばセレクトショップだが、マイナー・ブランドをThe Stingの名の下にネットワーク化した独特の商法ともいえる。別の言葉でいえばファッション・インディーズの集合体。デザイナー同士が切磋琢磨する仕組 みでもある。ピカデリー店では、そのなかでも比較的高級なMills Brothers,Miss Americaなどが主力ブランド。《ハイストリートファッション》というジャンルになるのだろうか。Tシャツで30ポンド〜50ポンド(定価・1ポンド は123円ほど)。ピカデリー店の経営状態はわからないが、今年になってからロンドン東部のストラトフォード(五輪メイン会場の置かれた場所)にある巨大 モールにあらたな店舗も展開しているから悪くはないと推測できる。両店とも客の入りは悪くない。あくまでも個人的な印象だが、H&M,Top Shopなどのファストファッション最前線の店舗には劣るが、ZARAやユニクロとは同程度の入だ。なによりユニクロに比べて客が元気。ハイファッション への厳しい目線が店を元気にしているという感じ。ユニクロは英国ではちょっと中途半端な路線。コストよりも品質で選ばれているが、ストリートとホームを もっとはっきり区別して売らないとH&M,Top Shopの集客力にはかなわない。

 市場環境が厳しいロンドンで the Stingがブランドとして生き残るかどうか大いに注目されるが、同社の小ブランドのネットワーク化戦略あるいはデザイナーのネットワーク化戦略という ファッションビジネスの手法は、音楽ビジネスにも応用できる気がする。the Stingのビジネスはブランド同士の競争的協調というところに主眼が置かれている。日本の音楽マーケットにもインディーズをコレクションした類似の試み はあるが、集まったレーベル同士が競争するような環境にはない。「競争と協調」という the Stingの特徴を音楽マーケットで具現化できれば音楽を活性化する新しい試みとなるのだが…。考えてみる価値はありそうだ。

批評.COM  篠原章
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