「シブヤを、カエセー!!」〜パール兄弟 featuring 小室哲哉(ライブ評)

11月12日に渋谷「クアトロ」で、《パール兄弟 featuring 小室哲哉》を観た。

来年結成40年を迎えるパール兄弟のボーカリスト、サエキけんぞうの「シブヤを、カエセー!!!」という絶叫から始まったライブ、この言葉に死ぬほど共感。16才から30年近く住んだわが街・渋谷の記憶が一気に甦った。

10階建てを超える高層ビルがほぼ皆無、洗練とはほど遠い、猥雑極まりない“ヤングの街”だった渋谷。「マックスロード」「メアリージェーン」「ブラックホーク」「BYG」「青い部屋(ロフト・ヘブンじゃないよ)」「全線座」「渋谷テアトルSS」「屋根裏」「LIVE INN」「YAMAHA渋谷店(新大宗ビル)」「Be-in(西武B館地下)」「Jian Jian(ジァン・ジァン)」「時間割」「渋谷公会堂(LINE CUBE SHIBUYAじゃないよ)」「東急本店(山野楽器渋谷店!)」「東急文化会館(プラネタリウム!)」…。

深夜には、行き場を失った酔っ払いの学生や、片手に競馬新聞・競輪新聞を抱えた酒臭い無宿人であふれ、明け方にはカラスやドブネズミの天国だった、あのカオスの小宇宙・渋谷。
ベースのバカボン鈴木が、「若い頃、ロックは30過ぎて演る音楽だとは思いもしなかった」と語っていたが、こちとら、サエキけんぞうが小室哲哉をバックに、TMネットワークの「Self Control」や「Get Wild」を絶唱するとは思いもよらなかった。あれじゃ、小室=小室のオリジナルがサエキ=窪田のオリジナルに聞こえちゃうじゃないか(笑)

小室は、ギタリスト・窪田晴男の「Self Control」(1987年/シングル)でのプレイに救われたという。ビジネス的に崖っぷちに立っていたTMネットワークの未来を切り開いたプレイだったと語る。要するに、鳴かず飛ばずだったTMネットワークを「売れ線」に押し上げた(または自信を付けてくれた)プレイだったという意味だ。当時、ギタリストの名前はシングル「Self Control」にクレジットされていなかったが、これを聴いたぼくは、「この印象的なフレーズを弾いているギタリストはいったい誰だ?」と思い、同作が収録された同名アルバムのクレジットをさがした記憶がある。そこには、ギタリストとして、窪田と並んで、今剛、佐橋信幸もクレジットされていた。パール兄弟にも同じ音色のギターが入っていたので、窪田だろうと推測していたが、本人に確かめたことはなかった。図らずも今回、「クアトロ」のステージで、小室の口から窪田のサポートへの感謝の言葉を聞いて確認したことになる。小室によれば、TMの大ヒット「Get Wild」(「Self Control」に続くTMのシングル)も窪田だと言うが、本人にはその記憶がなかった(笑)。

「クアトロ」の壁に貼ってあった「ディープ・パープル日本公演2026」の告知を眺めて底知れぬ感慨に浸りながら、わが追憶の街・渋谷を後にした。渋谷は、かつて、あの遠藤賢司が住み、山下達郎がアナログ盤を携えて徘徊し、鈴木慶一やあがた森魚が飲んだくれ、内田裕也がブラジャーを纏って「ニュー・イヤー・ロックフェスティバル」のチラシを配っていた、東京のロック・タウンだったのである。今はもう、その街は無い。あるのは World-Famous Tourist City Shibuya だけだ。
 
批評.COM  篠原章
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