団結と沈黙のねじれ—JAL飲酒問題とユニオンショップ協定

御巣鷹山に関わる陰謀論を調べているうちに、元JAL職員のSNS発信もたくさんチェックしたが、パイロットとCAの飲酒問題は深刻だと思う。

日本航空 鳥取三津子社長

寝酒がなければ睡眠が全くとれなくなるパイロット・CAも多いという。飲酒と睡眠を天秤にかけるのもおかしいとは思うが、「酒は飲まなかったが、眠れなかった」というパイロットの操縦する飛行機に乗るのも、利用者の側からすれば大いに不安である。飲酒を禁じるなら、それに対応した睡眠サポートが必要となるが、JALの場合、そうしたサポートはほとんどないという。健康な代替乗務員をつねに準備しておくなど、それなりのコストをかければ、乗客の不安は解消されるが、それは確実に運賃に跳ね返ってくる。JAL初の女性社長・鳥取三津子さん(CA出身)の代で、社内でしっかり検討し、安全かつ効果的・効率的な運航体制を確立してほしい。

2010年に倒産したJALは、稲盛和夫さんが政府や労組におもねることのない大胆な改革を断行して甦った。その一方で「社員がモノを言えない社風=長いものに巻かれて沈黙を強いられる体制」はその後もほとんど変わらなかったという。CAの場合、機内販売などのノルマだけ急増して給与は半減した。パイロットの業務もキツくなる一方だという。経済社会にとって不可欠な交通インフラを担う企業なのだから、従業員がストレスを抱え込んだまま業務をこなすのは、安全運航という点でも、健全な企業経営という点でも、まったく好ましくない。

稲森体制以前の、国会議員・外交官・行政府高官・財界要人だけが過度に尊重される場面(「おべっか要員」「へつらい要員」が内外を問わず何人もいた)はあまり見かけなくなったが、現場の従業員の負担は減るどころか増えているという。適度な運賃値上げは受け入れるから、安全・安心の運航体制の確立はやはり急務だ。

種々思いをめぐらせているうちに、JALの「モノ言えぬ風土」は、JALが採用する「ユニオンショップ協定」に関係があるのではないか、という結論にたどりついた。ユニオンショップ協定は労働組合法で合法とされる制度で、社員に労働組合への加入を義務づける制度だ。ただし、JALもご多分に漏れず、いまや派遣社員の労働で業務が遂行されているのが現状だから、この協定がどこまで浸透してるかどうかまではわからない。ユニオンショップ協定の目的は労働者の団結の強化だが、JALにおいては「モノ言えぬ企業風土」を温存するよう作用していると思う。

なぜならJALの場合、労使協調系のJALFIO(JAL労働組合)が多数派(約75%)を形成し、経営側に批判的なJAL乗員組合やJALユニオンは少数派(約25%)である。少数派は共産党など左系党派の影響を受けやすいが、時として正論も提示する。だが、それは取るに足りない「アカの異論」として採用されることはない。これに対して労使協調系の多数派は、ともすれば会社ベッタリになり、会社の方針に逆らうことは稀だ。結果として、現場の声は無視され、それがたとえ安全運航上必要不可欠な声であっても、経営者まで的確に届くことはない。つまり、経営判断と現場感覚の乖離が拡大し、重大インシデントの温床となりかねない事態が生まれてしまう。

労働者団結強化のためのユニオンショップ協定が、異論封じの装置となってしまっているのではないか。自由に意見を言える企業風土が航空安全には不可欠なはずだが、ユニオンショップ体制下では、組織率100%が「組織内沈黙の100%」に転化しやすい。ユニオンショップ協定は合法だが、「安全文化」においては真逆の機能を果たす可能性が強いのである。

航空会社のように社会的影響の大きいインフラ系業種では、「異議申し立ての自由」は保障されるべきで、経営側と労組側双方の「透明性」と「節度」が求められるが、ユニオンショップ協定を採用するJALの事例は、日本の労働法制が孕む「団結と沈黙のねじれ」を象徴しているように思えてならない。「労働組合に入らない自由」を尊重しながら、現場の声を吸収できるような体制が必要だ。鳥取社長には、ユニオンショップ協定に甘んじないで、そこまで思いを致してもらいたい。

批評.COM  篠原章
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