浦添市長・松本哲治の逆襲ー「浦添新基地」発言に動揺する翁長知事

On the US Military Base Relocation Problem, Urasoe Mayor Was Fighting Back Against the Governor of Okinawa Prefecture

那覇市唯一の米軍施設(陸軍が管理)である那覇軍港については、日米合意に基づき浦添市に移設される計画になっています。翁長雄志現沖縄知事が那覇市長だった時代に、移設先である浦添市(当時は儀閒光男市長)と協力しながら、同市西洲(いりじま)沿岸部を埋め立てて移設する手はずでした。

ところが、前回の浦添市長選(2013年2月10日)で、翁長氏(当時はまだ那覇市長)は、自分の応援する「オール沖縄」の候補を応援するため(共産党や社民党などの支援を得るため)、浦添市との約束を反故にして浦添移設に反対する発言をしました(翁長氏は「移設条件なしの那覇軍港撤去」を要求)。浦添市長選挙に敗北した翁長氏は「浦添移設推進」に逆戻りしますが、これは、選挙に勝つためであれば「主義主張も信義もへったくれもない」という翁長氏一流の「政略」だったのです。

割を食ったのは松本哲治候補でした。当初移設容認だった松本氏は、翁長氏の「政略」に対抗するため、選挙戦の最中に「移設反対」に転じざるをえなくなったのです。が、当選した松本市長は、その公約を撤回し、浦添移設を推進する立場に復帰しました。翁長氏が再び浦添移設推進に転じたからです。市民派で当時はまだ政治素人だった松本市長は、老獪な翁長市長にすっかり翻弄されたことになります。

以上の経緯については、以前本コラムでも詳述しましていますので、そちら(「翁長知事に翻弄される浦添市長〜那覇軍港の移設問題(改訂版)」)をご覧頂ければと思いますが、去る2月17日に開催された軍転協(沖縄県軍用地転用促進・基地問題協議会)総会の席で、松本市長は翁長知事に一矢報いることに成功しました。

RBCを除きろくに報道されませんでしたが、浦添市はホームページで、市長と知事のやり取りを事細かに再現しています。松本市長は、浦添にできる米軍施設を半ば皮肉を込めて「新しい基地」と呼び、「辺野古新基地建設阻止」を訴える一方、浦添移設を進める翁長知事の政治姿勢を暗に批判しています。既存の基地(キャンプ・シュワーブ)とその埋め立て拡張によって造られる辺野古の滑走路を「新基地」と呼ぶことができるなら、純然たる埋立地に造られる新しい那覇軍港は当然「新基地」となる、という松本市長の認識を示したものともいえます。逆にいえば、浦添が新基地でないとすれば、辺野古も新基地ではなくなることを意味します。言葉は柔らかいですが、その実体は翁長知事に対する痛烈な批判です。

松本市長のこの「新基地発言」を聴いて県翁長知事と公室長は動揺し、躍起になって否定していますが、その説明は「たじたじ」です。翁長知事サイドの完敗といってもいいでしょう。那覇港管理組合の管轄区域内の埋め立てだから新基地ではないという知事の説明を受け入れるなら、海兵隊管轄区域内(キャンプ・シュワーブ)の埋め立てで造られる辺野古の滑走路も新基地ではないことになります。当時の浦添市長に責任を転嫁している知事の姿勢も文字どおり「無責任」そのものです。翁長氏自らが推進してきた浦添移設に対して、選挙対策として一時的に「反対」の狼煙を上げ、選挙が終われば再び「移設推進」に戻って平然としていたという事実を松本市長から指摘され、意味不明の釈明を繰り返す翁長知事の姿は滑稽ですらあります。翁長知事の政治姿勢に矛盾を見いだす人であれば、このやり取りで「溜飲を下げる」ことができると思います。今後の展開にぜひ注目したいと思います。

以下のやり取りは、浦添市ホームページからの引用です。

【平成27年度軍転協定期総会(2月17日) 松本哲治市長質疑内容】
市長 浦添市の松本でございます。ちょうど良い機会でございますので、私も(要請事項の)Ⅰ-1の嘉手納飛行場より南の施設の返還等に関連して、ご確認をさせて頂きたいと思います。現在、計画の中では、那覇港湾施設、通称「那覇軍港」は浦添沖に移設をするというふうな形になっておりますけれども、翁長県知事並びに沖縄県といたしましては、『この部分に関しては計画どおり推進していく』ということをもう一度確認をさせて頂きたいと思います。そのような認識でよろしいでしょうか。

公室長 私の方でお答えしたいと思います。要請書(案)の1ページの下から2行目のところから『在沖海兵隊約9千人の国外移転』について書いておりまして、その中で『嘉手納飛行場より南の施設・区域の返還については、将来の沖縄の米軍基地のあり方に大きな影響を与えるとともに、沖縄の振興発展の将来を左右する大きな転機となることから、確実な実施がなされる必要があります。』と書いてございますので、そのとおりでございます。

市長 ありがとうございます。まだまだ浦添市民の中には『翁長県知事が浦添市に軍港をもってくるということは信じられない』とおっしゃる方も多いものですから、もう一度確認させていただきたいんですけど、今の文言のとおり『軍港の浦添移設は確実に推進をしていく』という県の立場でよろしいでしょうか。

公室長 はい。これにつきましては議会でも度々答弁しておりますけれども、現在、移設協議会が設けられております。その移設協議会の枠組みの中で話し合いながら、これまでの経緯を踏まえつつ協議していくということで確実な実施がなされる必要があるという方針に変わりはございません。

市長 了解いたしました。それでは浦添の海を埋め立てる新しい基地の建設に関して、沖縄県、そして良い機会ですので那覇市さんもそのような形で進めていくということでよろしいでしょうか。再度確認させてください。

公室長 すみません、那覇港湾の移設に伴って出来る埋立地につきましては、松本市長のお話しのような『新しい基地』という言い方はしてございませんので、念のためそれだけは確認していただきたいと思います。で、それにつきましては那覇市さんと沖縄県、浦添市さん、那覇港管理組合、一緒になって移設協議会で協議していくということに合意しておりまして、昨日も幹事会がおそらく開催されていたと記憶しております。

市長 では、浦添の沖を埋め立てて造る、そして、嘉手納の南にある基地が全部返還される中で一つだけ残る、浦添沖への那覇軍港の移設先については、これは『新基地ではない』というような県のお立場であるということでよろしいでしょうか。

公室長 『新基地』という表現はしたことございません。

県知事 この問題は平成13年に当時の浦添市長が『受け入れる』ということで、那覇港湾管理組合というのも出来てきたわけです。その中で今言う『新基地』という問題からしますと、当時の浦添市長の話は『那覇港湾内での移転である』と。『整備と育成の範囲である』と。その中で浦添ふ頭、あるいは西海岸の発展、それから将来の固定資産税の収入。こういうところから考えると、これはいわゆる整理・整頓の範囲内であるということが当時の浦添市の話でありました。

市長 では、そういった経緯も踏まえたうえで、翁長県知事および沖縄県としては、浦添に今後建設される基地は新建設ではないというお立場、ということですね。

県知事 そうですね。ですから、この那覇軍港の問題は平成13年からの経緯がありますので、それこそ移設に関する協議会、浦添市さんも那覇市さんも県も防衛省も入って、その中で議論を進めていくことになるだろうということで、今、私どもはそのように一応させてもらっているわけです。

市長 はい、ありがとうございました。少しくどいようではございますけれども、ちょうど3年前の2013年の1月に、当時、那覇市長でいらっしゃいました翁長県知事が『浦添への移設はしない』と。『即時返還を求めるんだ』というようなことを新聞等でも発表なされたんですけども、その立場とは今現在は変わって『計画どおり浦添地先への那覇軍港の移設は推進していきたい』ということでよろしいでしょうか。

県知事  今の松本市長の発言(内容)は、私は言ってないです。そういう話をしたのではなくて、那覇軍港は遊休化しているので、これから那覇空港は第二滑走路が出来ていくと。そうするとそこには物流拠点が無ければ、せっかくの並行滑走路が活きていきませんよと。そういった枠組みはあるけれども、その中で並行滑走路が完成する頃には那覇港湾は遊休化もしておりますので返してもらいたい、というところまでの話であって。それが、だから浦添市が港湾がどうのこうのという話は誰が話をしてその記事になったかは分かりませんし、そこでわざわざ出て行って訂正することはしませんけれども、公式の記録ではそう残っていると思いますので、そのようなことです。

市長 ちょうど確認が出来て良かったと思います。当時の琉球新報には記者の名前も出て、しっかりとそのような形(浦添への移設とは切り離して那覇軍港の返還を求めていく)で沖縄県全体に報道されてしまったものですから、我々浦添市民としても、あ、これはもう基地を出す側の那覇市長さんが『浦添への移設を求めない』のであればということで、話が色々展開してきたんですけれども、これは誤解であるということでございますので、当時の遊休化している軍港についてはそのまま返すという話ではなくて、今は着実に浦添への移設を進めるという県の立場でよろしいということですね。

県知事 「進める」ということを、知事や軍転協の会長としてと言うことではなくて、移設に関する協議会には15年の歴史があり、その中で決めてきましたから、その中で浦添市案のリゾート案が「さぁどうしますか」と議論されているように、いわゆるそういう議論の中から、諸々が出てくるというふうに考えております。

市長 ああ、じゃあ「推進はする」ということではなくて、「反対する立場ではない」ということですね。

県知事 今までの計画の私どもは、同じ計画で進んで来ておりますので、「移設に関する協会の中で、これは議論するものである」ということです。

市長 ありがとうございます。先ほど沖縄市の桑江市長からもありましたが、我々としましては、那覇市、そして沖縄県全体のためにこの協議会の中で県の立場を尊重し、我々としても苦渋の決断をしていこうということでございますので、やはり受け入れる先のしっかりとした声を聞いて頂きたいと。我々が国にいつも申すように我々沖縄県民の声に、しっかりと耳を傾けて頂きたいというスタンスと、我々も同じでございます。浦添市の市民が求める西海岸のあり方という声を沖縄県もそして那覇市の方にも届けていただいて、みんなでこの移設がスムーズに進むように、これからも(地元、浦添市との協議の)推進の方をよろしくお願いいたします。

浦添市ホームページより
軍転協総会(H28.2.17開催)における本市の質疑内容について
http://www.city.urasoe.lg.jp/docs/2016021800077/

浦添に移設される計画となっている那覇軍港

浦添に移設される計画となっている那覇軍港

 

那覇軍港の移設に伴い埋め立てられる浦添市西洲(いりじま)の沿岸部

那覇軍港の移設に伴い埋め立てられる浦添市西洲(いりじま)の沿岸部

 

那覇軍港の浦添移設問題について、是非あわせてお読みください。
松本哲治・浦添市長再選 ! — 変わり始めた「沖縄の潮目」2017年2月13日
翁長知事に翻弄される浦添市長〜那覇軍港の移設問題(改訂版)2015年6月22日
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批評.COM  篠原章
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