下地島空港開業で気になる宮古島・伊良部島の「水事情」
2019年3月に下地島空港が、定期便(ジェットスター)の往来する民間空港として開業するという。この下地島(実質的には陸続きの伊良部島)には水の供給に不安があるとしばしば指摘されているので、諸データを調べてみた。
伊良部島・下地島など周辺離島を含めた宮古島市が、水源の確保・管理に苦労しており、降水量が少ない時期には断水の危機にさらされることは良く知られているが、近年の水需給状況からいって、大規模な水不足が起こる可能性はあまり高くないことがわかった。
伊良部島(事実上陸続きの下地島を含む)については、2018年度より独自水源からの取水は停止され、伊良部大橋に送水管を設置して全量が宮古島から送水されている。これに対応して、あらたに牧山配水池’(給水塔)が伊良部島に設置された。進行中の伊良部島のかんがい事業に伴う農業用水の増加も、新規の地下ダム建設によって賄えることがわかっている(農業用水も宮古島から送水される)。また、伊良部島の旧水源(地下水)からの取水は停止されたが、旧浄水場は観光客の増加に備えて今後も維持されるという。
今年4月には伊良部島の一部地域で断水が発生しているが、その原因は機器の損傷だったことがわかっている。当初「観光客急増による需給の逼迫が原因」と発表されたが、その後の調査の結果、需給状況に問題はなかったことが判明、「第3配水池のボールタップの一部に損傷があったことが原因」と発表された。
伊良部島の入域観光客が増えていることは確かだが、今年開業したホテル、来年開業が予定されるホテルはいずれも超高級リゾートで、客室数は合計でも数十室に留まる(収容人員は最大で100〜200名程度の増加)。宮古島もほぼ同様の状況で、施設数は増えるものの、客室・収容人員の伸びは大きくない。平成29年度における宮古島市の宿泊施設の収容人員は9000人弱だったが、これがいきなり増える可能性は少なく、水需給については当面のあいだ1万人が1つの区切りとなるだろう。
ただ、いくつか問題はある。1つはこれまで減少傾向にあった宮古島市の人口が、近年、わずかだが増加に転じているという点である。その原因は移住(市外からの転居)による社会増だと思われるが、宮古島市のこれまでの水需給予測は人口減少を前提に策定されており、できるだけ早く予測を修正する必要がある。
また、入域観光客数も予想を超えて増加しており、平成24年度に41万人だった観光客数が今年度は100万人を超えると予想される。宿泊施設の収容人員は9000人程度だから、当面の入域宿泊観光客数には一定の歯止めがかかるが、宮古島市の平成22ー23年の予想を遙かに上回るペースで観光客数は増加を続けており、観光客の水使用量についても約2倍のペースで伸びていると思われる。この点でも予測を修正する必要がある。
現状では、宮古島市の1日あたり最大取水量(供給量)である約27000立方メートルに対する平均需要量は24000立方メートルであり、まだいくらか余裕が残されているが、渇水期などには断水や給水制限が起こる可能性はあるので、今後は水源の開発や維持管理の徹底が不可欠となる。併せて、既存の大型宿泊施設や新規に開業する宿泊施設については、自前の給排水システム(雨水利用システム・淡水化システム・水循環システム・汚水処理システム)の設置を義務づける条例の導入も選択肢となるだろう。
なお、クルーズ船寄港回数の急増に伴う水需要の増加はほとんど見られない。クルーズ客のほとんどは数時間の観光で帰船し、宿泊するとしてもホテルシップが大半だからである。
宮古島市にとって「水」に関わる最大の問題は、実は上水ではなく排水処理にある。宮古島市の汚水処理人口普及率は46%と、県下11市中最低なのだ(平成28年度末)。
これは汚水(生活排水)を適正に処理している人口の比率が46%であることを意味する数値で、宮古島市の残りの54%の人口は不適正に汚水を処理していることになる。簡単にいえば、宮古島市民の半分以上が、汚水を海洋など自然界に垂れ流していることになる。ちなみに、那覇市の数値は98.5%、石垣島市のそれは60.2%で、沖縄県全体で見ると85.2%となっている。
海などの自然が最大の財産であるはずの宮古島市の汚水処理人口普及率は、宮古島市の将来にとって最大の不安材料だ。国頭村12.7%、東村20.0%など、宮古島市と同じく海や自然を売り物とする本島北部(山原地域)の多くの町村も、きわめて低レベルな汚水処理人口普及率に甘んじている。「ウチナーンチュにとって海は命」という言葉を耳にする機会は多いが、まるで実態が伴っていないのはきわめて残念なことだ。